【完結】妹は憧れの王子と結婚したいようですが、まずはその凶暴な性格を直さないと無理だと思います!

貝瀬汀

文字の大きさ
上 下
1 / 7

1.殿下の選択

しおりを挟む

 国王から父への褒美。それは第一王子であるメイテス・モンティーネと、娘であるわたくしたちのどちらかとを婚約させる、というものだった。



 先日、屋敷ではメイテス殿下を招いてのお茶会が執り行われた。両親、兄、そしてわたくしたち姉妹がおもてなしをしたのだ。贅を凝らした軽食も出されていたのだが、当然、緊張で味など覚えちゃいなかった。
 
 父曰く、メイテス殿下に気に入られたほうが婚約者になるという。もともと妹のルリーベラは格好よくて権力のある殿下に好意を持っていたようで、興奮状態。たびたび不躾ではないかという言葉が聞こえてきて、生きた心地がしなかった。
 姉であるわたくしラナ・ニーシスは、殿下が選ぶのは妹のルリーベラであってくれ、と願っていた。しかしそれに反し、妹が選ばれたらどうなってしまうんだ……という懸念もあったのだ。
 だって、ルリーベラは――。
 ああ、いっそのこと殿下が王へ「どっちも嫌です! 金で褒美をやればいいのではないですか!」とでも言ってくれないかな、なんて夢想する。
 そして本日、父が改まった様子で書斎に母とわたくしたち姉妹を集めた。殿下からお応えが返ってきた、と。

「――それで、お父様。殿下はなんとおっしゃっていましたの? もちろん私ですわよね? ラナ姉様より私のほうが百倍可愛いですもの!」

 うふふ、と首をかしげて可憐に笑うルリーベラ。わたくしはその顔を気まずげに伺う両親の視線を見逃さなかった。
 あーあ。本当に貴族って嫌だ。もちろん民はもっともっと酷い生活を強いられているのでしょうけれどホント無理。というか、この婚約問題はわたくしにとっても、ニーシス家にとっても、かなりの難問だと思うのだけれど……。
 父は机に向かったまま、目の前に立つ妹を見上げて口を開いた。

「ルリーベラ……。すまないがメイテス殿下がお選びになったのは、ラナだったよ」
「……は? なんでよ……!」

 妹は口をポカンと開けて呆然としている。
 わたくしは不思議に思う。なぜ妹は王族なんて窮屈そうなところに嫁ぎたいのだろうか、と。――なんて、愚問か。この世界だけしか知らないからだ。日本から転生したわたくしにとっては。貴族でさえ変なしきたりに縛られているのに、これ以上雁字搦めにされそうな立場など御免であった。貴族が一番いいポジションだと思うのだが。とりあえず食べるのには困らないし。今のところは、だけれど。

「でっ、でも大丈夫よルリーベラ? あなたにも素敵な婚約者を見つけてあげますからね。楽しみに待っていてちょうだいね?」

 ね? と母が妹に優しく言い聞かせている。……これで収まればいいのだけれど……。隣に立ち尽くし俯く彼女の顔色をそれとなく横目で見るのだった。

「――殿下は。お名前を間違っていらっしゃるのよ。あとで訂正の連絡がきっと入りますわ! そうに決まってます。それを待ちませんと……ね? お父様、お母様?」
「……あー……う、む」
「ルリーベラ……」

 微妙な笑顔のまま固まる両親。それに気がつかず早く来ないかしら~とにこやかに微笑み返す妹だった。
 微妙な心境で一連のやり取りを見守っているとルリーベラと視線が合う。そしてキッ!! 睨まれるのだった。コワ……。

 ――どうするべきか。こっちから断れるものでもないし……。はぁ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

私の妹は確かに聖女ですけど、私は女神本人ですわよ?

みおな
ファンタジー
 私の妹は、聖女と呼ばれている。  妖精たちから魔法を授けられた者たちと違い、女神から魔法を授けられた者、それが聖女だ。  聖女は一世代にひとりしか現れない。  だから、私の婚約者である第二王子は声高らかに宣言する。 「ここに、ユースティティアとの婚約を破棄し、聖女フロラリアとの婚約を宣言する!」  あらあら。私はかまいませんけど、私が何者かご存知なのかしら? それに妹フロラリアはシスコンですわよ?  この国、滅びないとよろしいわね?  

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

二人の男爵令嬢の成り上がり!でも、結末は──

naturalsoft
恋愛
オーラシア大陸の南に姉妹国と呼ばれる二つの国があった。 西側のアネーデス王国 東側のイモート王国 過去にはお互いの王族を嫁がせていた事もあり、お互いにそれぞれの王族の血が受け継がれている。 そして、アネーデス王国で周辺国を驚かすニュースが大陸を駆け抜けた。 その国のとある男爵令嬢が、王太子に見初められ【正しい正規の手続き】を踏んで、王太子妃になったのである。 その出来事から1年後、隣のイモート王国でも、その国の男爵令嬢が【第一王子】の【婚約者】になったと騒がれたのだった。 しかし、それには公衆の面前で元婚約者に婚約破棄を突き付けたりと、【正規の手続きを踏まず】に決行した悪質なやり方であった。 この二人の結末はいかに── タイトルイラスト 素材提供 『背景素材屋さんみにくる』

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

処理中です...