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4.目覚め
しおりを挟む窓からの光が、わたくしの透明な手をすりぬけてゆく。なんだろう、これは。ここはどこで、わたくしは……?
気がつくとわたくしは見知らぬ部屋の床に寝そべっていた。とりあえず上半身を起こし、周辺を観察。それから己の体をしげしげと見た。
青いネグリジェを着ていた自分は、意識を失う前なにをしていたのか? そんなことをぼんやりと考えていると、いつしか窓から光が入りこんできた。わたくしに当たるそれを遮ろうと手を持ち上げる。しかし不思議なことにわたくしの手は光を遮断することはなかったのである。
もしかしたら、わたくし。幽霊になってしまったのかも。浮かんだ考えは正解のように思えた。
扉を開けて部屋を出てみる。あれ? 物には触れるのか。前から女が歩いてきた。けれどもわたくしに目を向けることもなく通りすぎていく。
ふらふらと、気の赴くままに屋敷の中を徘徊した。大人数とすれ違うときはなんとなく壁に張りついて避けておいた。
「……いい、匂い」
通った一団からは温かい食べ物の香りがした。……お腹が空いた、かもしれない? 幽霊ってお腹が減るのかしら?
匂いの元を探りながら歩く。
ああ――ここだ。
人が大勢いそうな気配がするキッチンにお邪魔する。キョロキョロとあたりを見回すと、手で食べやすそうなパンを見つけた。盛られた皿から数個いただく。うん。美味しそう。邪魔になるだろうから部屋から出て食べましょうか。
屋敷の外の広大な庭は美しく整えられていた。数十分ぼんやりと漂っていると噴水が見える。ここの縁に座るとしよう。
パンを口に入れ咀嚼する。どういうわけか、食べれた。自分は幽霊なのだと思うのだけど……よくわからないわ。
「――あ」
高貴そうで眩い男と、美しい女性が仲良さげに連れ立って歩いている。青い瞳で女性を愛おしげに見つめる、男。あら? どこか、あの男に……、見覚えがある。ような。
「……ああ!」
ああ、そうだったわ。わたくし、
「会いに、いかなければならない方が、いるんだわ……」
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