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1.耐えてきたけれど……

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「こんなこともできないの、聖女様は?」
「……力が及ばず申し訳ありません、モモ様」

 私は誠心誠意――を装って深く頭を下げた。これでも一応聖女っていう地位をいただいているんですけどね……。

「まったく。こんなのが聖女だなんて……。わたくしがなったほうがよろしいのではないかしら? あなた、そう思わなくって?」
「はっ、はいっ! もちろんでございます! 以前拝見したモモ様の治癒は、とても素晴らしかったです!」
「そうよねぇ」

 ベッドに仰向けになっているご遺体を前にして話しこむ私たち。こんなこともできないの? とは死者蘇生のことだった。語り継がれる物語の中だけの用語、もしくは歴代でも指折りの聖女様だけができたのだろう技。私には無理だ。
 同僚らはいつも通りの長い物には巻かれよという対応。まあ、階級もモモ様は公爵令嬢、私は伯爵令嬢なので皆に下に見られるのもいたしかたないのだけれど。

 なんだってこんなに彼女に目の敵にされているのかといえば。かつて私たちは同じ聖女候補だったからだと思う。そして私が彼女から聖女の座を奪ってしまった。
 しかしもっとも大きな理由は――聖女である私が第一王子の婚約者になってしまったからだろう。モモ様はキュハロス殿下と幼馴染らしいし、殿下に想いを寄せていらっしゃっても不思議ではない。だからといって八つ当たりはしないでほしいので、どうかお二人で解決してくれたらいいのだけれど……。

「キュハロスもあなたのような半端な聖女が婚約者などと、本当はお嫌でしょうし……。その指に輝く聖女継承の指輪も、大粒の涙を流していることでしょうね」

 あれやこれやと難癖をつけ始められてもう三ヶ月も経過している。私、もう耐えられなくなってきました……。
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