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中編

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「あなたたちが謝罪するべきは私ではないわ。スラー・セタッカ男爵令嬢でしょう」

ぱちん、と扇の閉じる音。氷の女王とも名高いリッカの声が、静まり返った会場に響く。はっと顔色を変えた令嬢たちが、今度はスラーに頭を下げた。
スラーはというと、殿下に連れられ会場に入ってから一言も発していない。交互に令嬢たちとリッカを見やるその様は狼狽しているとも読み取れる。ちなみに殿下は一回も見られていない。そのことに気付いた殿下は何か声をかけようと考えたが、その瞬間リッカが口を開いた。

「スラー・セタッカ男爵令嬢。相手が謝罪しているからといって必ず許さなければならないというわけではありません。結論は急ぎませんから、あなたがどうしたいのかじっくり考えなさい」
厳しい物言いとは裏腹に、声はどこか暖かく優しい。こんな声音聞いたことない、と殿下はリッカを見やったが、当のリッカは衛兵に「連れていきなさい」と指示していたので目が合うことはなかった。

問題の令嬢たちが会場から連れ出され、会場の貴族たちは徐々にざわつき始める。口々にリッカの手際の良さと性根の優しさを称賛していた。

まるで、殿下の婚約破棄宣言などなかったかのように。


「……いや、いやいやいや!」
それに納得いかなかったのは殿下だ。何かいい話のように締めくくられそうだが、そうは問屋が卸さないぞと息巻く。腑に落ちないことがありすぎるのだ。
「まだ何か?」
一方のリッカは微塵も興味が無いといったふうに殿下を見る。はっきり言うと、怖い。だが殿下は目を逸らさないまま口を開いた。

が、その横をスラーが駆け抜ける。

そしてスラーは、自身の髪を掴むとそれを引っ張り──美しかった黒い長髪が軽やかなショートヘアとなった。手には長い髪束、というか頭皮を覆っていた髪そのもの。
驚愕に目を見開く殿下をまったく気に留めず、スラーはリッカの前に跪き、顔を上げた。

「やはり貴女は優しく聡明なお方……!ぜひ、僕と結婚してください!」

しんと会場が静まり返ったのち、殿下の絶叫が響き渡った。
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