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第五章 プレイ十三日目・後
#96 古きを望む者
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「すのこちゃん!」
マナちゃんが戦っていた。いつもの真紅のドレスの背中に蝙蝠の翼を生やし、手には漆黒の大鎌を持っている。か、格好良い……!
……いやいやいや、見惚れている場合じゃない。私達はマナちゃんを助けに来たのだ。しっかりしろ私。
マナちゃんの周囲にいるのは何人もの民間人NPC達だ。それぞれ熊手や鮪包丁など武器ではないが武器として使える物を携えている。多分、NPCには武器防具を装備するシステムが実装されていないからだろう。だから、普段から使っている物を武器にするしかないのだ。そんな彼らを率いているのは、
「えっ、ラト……!?」
そこにいたのはラトだった。隣にはテップもいる。
いや違う。ラトじゃない。PCは間違いなくラトのものだけど、その頭部は白海月に覆われていた。あれは確かラトの使い魔だ。ラト当人の様子は白海月に隠されていて不明だ。
カメラを頭に被せるなんて尋常じゃないし、そもそもそんな仕様はない。あの状態は何らかの改造によるものだ。
誰が改造したのか。それは多分、
「――『まつろわぬ民』って奴だな、てめぇ」
『御明察。邪魔をしないで貰おうか、覚醒の世界の者共』
白海月の表面に三つの穴が開く。逆三角形に配置された穴は目と口を思わせた。恐らくは実際にあれが顔なのだろう。
「ラトをどうしたの!?」
『眠って貰っているだけだ。本来、我らに覚醒の世界の者共への干渉は不可能だが、この者は夢見る人としての素質が高い。素質が高いという事は夢の住民である我らと親和性が高いという事。結果、こうして肉体を乗っ取る事が出来た』
「PC乗っ取り……!」
背筋が寒くなる。まさか夢の世界から現実の人間をどうこう出来るなんて思っていなかった。それに乗っ取りなんて真似、この大配信時代なら相当良からぬ事も出来る。『まつろわぬ民』がVTuberに疎いせいで助かったと言うべきか。
良く見れば、テップの様子もおかしかった。虚ろな雰囲気で佇んでいる。牛の面でこちらも表情が分からないけど、四肢が弛緩していた。誰も触れていない操り人形のようだ。どう考えても尋常な様子じゃない。あの白海月に何かされたと見るべきだ。
「……『まつろわぬ民』、そこまでして古きを望むの?」
『セレファイスの名代、新しきを望む者か』
ルトちゃんと白海月が対峙する。
『語るに及ばず。我らの世界にこのような国は不要だ』
「……どうしてそこまで新しさを拒むの?」
『笑止。不変を求めるのは人の性よ。変わらぬ事は安定であり、安堵である。変化は必然の軋轢を生み、無用の混乱をもたらす。なればこそ、不変の為に手を尽くすのは当然の事よ』
「……そうやって不変を求めて、今やっている事は軋轢でも混乱でもないっていうの?」
『重ねて笑止。覚醒の世界の者共がどうなろうと我らの知った事ではない』
……ふうん、そう。そういう感じなんだ。
自分達さえ良ければ良いと。マナちゃんの願いもスタッフ達の頑張りもどうでも良いと。お祭りを楽しんでいる皆の想いも興味なしと、そういう事か。成程。もしかしたら『まつろわぬ民』にも切実な理由があるかもしれないと思っていたけど、これではっきりした。
この人達はここで潰して良い。同情する必要はない。
「マイ! ルトちゃん!」
「おうよ!」
「……うん、倒そう」
『来るか。良かろう。貴様らの屍と嘆きを我らが安寧の礎にしてくれる。
――我が名はシリウス・マギ。「まつろわぬ民」の戦士長なり!』
各々の武器を構える私達。対して白海月も触手をいっぱいに広げ、威嚇の声を上げた。
『Q――QQQQQ――――!』
マナちゃんが戦っていた。いつもの真紅のドレスの背中に蝙蝠の翼を生やし、手には漆黒の大鎌を持っている。か、格好良い……!
……いやいやいや、見惚れている場合じゃない。私達はマナちゃんを助けに来たのだ。しっかりしろ私。
マナちゃんの周囲にいるのは何人もの民間人NPC達だ。それぞれ熊手や鮪包丁など武器ではないが武器として使える物を携えている。多分、NPCには武器防具を装備するシステムが実装されていないからだろう。だから、普段から使っている物を武器にするしかないのだ。そんな彼らを率いているのは、
「えっ、ラト……!?」
そこにいたのはラトだった。隣にはテップもいる。
いや違う。ラトじゃない。PCは間違いなくラトのものだけど、その頭部は白海月に覆われていた。あれは確かラトの使い魔だ。ラト当人の様子は白海月に隠されていて不明だ。
カメラを頭に被せるなんて尋常じゃないし、そもそもそんな仕様はない。あの状態は何らかの改造によるものだ。
誰が改造したのか。それは多分、
「――『まつろわぬ民』って奴だな、てめぇ」
『御明察。邪魔をしないで貰おうか、覚醒の世界の者共』
白海月の表面に三つの穴が開く。逆三角形に配置された穴は目と口を思わせた。恐らくは実際にあれが顔なのだろう。
「ラトをどうしたの!?」
『眠って貰っているだけだ。本来、我らに覚醒の世界の者共への干渉は不可能だが、この者は夢見る人としての素質が高い。素質が高いという事は夢の住民である我らと親和性が高いという事。結果、こうして肉体を乗っ取る事が出来た』
「PC乗っ取り……!」
背筋が寒くなる。まさか夢の世界から現実の人間をどうこう出来るなんて思っていなかった。それに乗っ取りなんて真似、この大配信時代なら相当良からぬ事も出来る。『まつろわぬ民』がVTuberに疎いせいで助かったと言うべきか。
良く見れば、テップの様子もおかしかった。虚ろな雰囲気で佇んでいる。牛の面でこちらも表情が分からないけど、四肢が弛緩していた。誰も触れていない操り人形のようだ。どう考えても尋常な様子じゃない。あの白海月に何かされたと見るべきだ。
「……『まつろわぬ民』、そこまでして古きを望むの?」
『セレファイスの名代、新しきを望む者か』
ルトちゃんと白海月が対峙する。
『語るに及ばず。我らの世界にこのような国は不要だ』
「……どうしてそこまで新しさを拒むの?」
『笑止。不変を求めるのは人の性よ。変わらぬ事は安定であり、安堵である。変化は必然の軋轢を生み、無用の混乱をもたらす。なればこそ、不変の為に手を尽くすのは当然の事よ』
「……そうやって不変を求めて、今やっている事は軋轢でも混乱でもないっていうの?」
『重ねて笑止。覚醒の世界の者共がどうなろうと我らの知った事ではない』
……ふうん、そう。そういう感じなんだ。
自分達さえ良ければ良いと。マナちゃんの願いもスタッフ達の頑張りもどうでも良いと。お祭りを楽しんでいる皆の想いも興味なしと、そういう事か。成程。もしかしたら『まつろわぬ民』にも切実な理由があるかもしれないと思っていたけど、これではっきりした。
この人達はここで潰して良い。同情する必要はない。
「マイ! ルトちゃん!」
「おうよ!」
「……うん、倒そう」
『来るか。良かろう。貴様らの屍と嘆きを我らが安寧の礎にしてくれる。
――我が名はシリウス・マギ。「まつろわぬ民」の戦士長なり!』
各々の武器を構える私達。対して白海月も触手をいっぱいに広げ、威嚇の声を上げた。
『Q――QQQQQ――――!』
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