107 / 123
第五章 プレイ十三日目・後
#94 最推しに「認める」と「頼む」と言われた
しおりを挟む
『何があったんです?』
『……残りの魔城兵が進行の速度を変えたそうだ。東・北東・南東の奴が速くなって、北・南・北西・南西の奴が遅くなったんだと』
『速度をバラけさせる事でこっちの手をまごつかせようって算段か』
ラペさん達を西方に足止めしている間に東方の面子が街に辿り着こうという作戦か。逆に東方を先に対処しようとすれば西方がその間に辿り着く。『まつろわぬ民』もなかなか考えてくる。
『仕方ない。こっちもバラけよう。ロント、お前は東に行け。この中ではお前が一番速い。お前なら間に合う筈だ。ゾヘドは北東、僕は南東だ。ソッコーで倒して踵を返すぞ』
『了解』
『あいあい。一人で一体を倒さなきゃなんないのはキツいけど、頑張るしかないか』
三人が頷き合い、同時に駆け出す。果たして彼女達は間に合うのか。間に合っても一対一で倒せるのか。ラペさんがロンちゃんもゾヘドさんも呼び捨てにしている辺り、真剣度が窺える。見ていてハラハラしてしまうけど、私に出来る事は何もない。こうして見守る事しか出来ない。
「…………ッ!」
「マナちゃん?」
だと思っていたのに、マナちゃんの様子が急におかしくなった。先ほどまで泰然とスクリーンを見ていたのに、顔色を青くして胸の服を掻いている。
「マナちゃん、どうかした? 何かあったの?」
「……うん。本体から救難信号が……」
「本体!?」
やっぱりこのマナちゃんも端末AIだったか。そりゃあマナちゃん程の大人物が現場に出てこられる訳がないもんね。当然の対応だ。
いやそんな事はどうでも良い。今、肝心なのはマナちゃんがピンチって事だけだ。
「御免。この私はここの収拾を着けなくちゃいけないから離れられない。すのこちゃん達が本体を助けに行って」
「私達で良いの?」
「うん。さっき言ったでしょ。すのこちゃんを協力者として認めるって。だったら、頼まない理由はないよ」
「…………!」
彼女の言葉に胸が熱くなる。最推しに「認める」と、「頼む」と言われたのだ。これでやる気にならない所以はない。
「分かった、任せて。それで、どこに行けば良い?」
「有難う。本体の場所はいつも同じ場所だよ。そう、あの――」
マナちゃんが指差した先には一際巨大な建造物があった。尖塔と天守閣と和と洋の両方の特徴を取り入れた奇妙なデザインの城だ。この和洋折衷を旨とする朱無王国の君主が住むに相応しい外観である。
「この国の王城――瑞加祷城だよ」
『……残りの魔城兵が進行の速度を変えたそうだ。東・北東・南東の奴が速くなって、北・南・北西・南西の奴が遅くなったんだと』
『速度をバラけさせる事でこっちの手をまごつかせようって算段か』
ラペさん達を西方に足止めしている間に東方の面子が街に辿り着こうという作戦か。逆に東方を先に対処しようとすれば西方がその間に辿り着く。『まつろわぬ民』もなかなか考えてくる。
『仕方ない。こっちもバラけよう。ロント、お前は東に行け。この中ではお前が一番速い。お前なら間に合う筈だ。ゾヘドは北東、僕は南東だ。ソッコーで倒して踵を返すぞ』
『了解』
『あいあい。一人で一体を倒さなきゃなんないのはキツいけど、頑張るしかないか』
三人が頷き合い、同時に駆け出す。果たして彼女達は間に合うのか。間に合っても一対一で倒せるのか。ラペさんがロンちゃんもゾヘドさんも呼び捨てにしている辺り、真剣度が窺える。見ていてハラハラしてしまうけど、私に出来る事は何もない。こうして見守る事しか出来ない。
「…………ッ!」
「マナちゃん?」
だと思っていたのに、マナちゃんの様子が急におかしくなった。先ほどまで泰然とスクリーンを見ていたのに、顔色を青くして胸の服を掻いている。
「マナちゃん、どうかした? 何かあったの?」
「……うん。本体から救難信号が……」
「本体!?」
やっぱりこのマナちゃんも端末AIだったか。そりゃあマナちゃん程の大人物が現場に出てこられる訳がないもんね。当然の対応だ。
いやそんな事はどうでも良い。今、肝心なのはマナちゃんがピンチって事だけだ。
「御免。この私はここの収拾を着けなくちゃいけないから離れられない。すのこちゃん達が本体を助けに行って」
「私達で良いの?」
「うん。さっき言ったでしょ。すのこちゃんを協力者として認めるって。だったら、頼まない理由はないよ」
「…………!」
彼女の言葉に胸が熱くなる。最推しに「認める」と、「頼む」と言われたのだ。これでやる気にならない所以はない。
「分かった、任せて。それで、どこに行けば良い?」
「有難う。本体の場所はいつも同じ場所だよ。そう、あの――」
マナちゃんが指差した先には一際巨大な建造物があった。尖塔と天守閣と和と洋の両方の特徴を取り入れた奇妙なデザインの城だ。この和洋折衷を旨とする朱無王国の君主が住むに相応しい外観である。
「この国の王城――瑞加祷城だよ」
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
もうダメだ。俺の人生詰んでいる。
静馬⭐︎GTR
SF
『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。
(アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる