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第五章 プレイ十三日目・後

#92 真体換装

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「一応、大丈夫な筈。フィールドとタウンでエネミーは行き来しないように結界バリアが設定されているから。……けど、分かんない。『まつろわぬ民』がそれを知らないとは思えない」
「何かの対策をしているかもしれないって事……?」

 それはまずい。小さめのサイズとはいえ、魔城兵の全高は五〇メートル近い。あんなのが歩き回れば、それだけ町は瓦礫の荒れ地と化してしまう。どうにか魔城兵が街に辿り着く前に撃退しなくては。
 でも、ゾヘドさん曰く、魔城兵を倒すには一体につき50レベルのパーティーが一つ必要なのだという。八体いるから八つのパーティーだ。だけど、そんなの用意出来る筈もない。どうすれば……!

「で、でも、一〇〇〇人のプレイヤー全員で戦えば……人海戦術で何とかイケますか?」
「……ううん、それには及ばない。――マナ様!」

 ゾヘドさんがマナちゃんに凛と向き直る。

「今は祭りの最中。楽しんでいる一般プレイヤーを巻き込む訳にはいきません。ここは私達『燃眼三騎士トラペゾヘドロン』にお任せ下さいませんか?」
「えっ!? たった三人で戦うって事!?」

 そんなの無茶だ。50レベル三人で倒せる敵を八体、20レベル三人でどうにかしようだなんて。いやでも、この場面で言い出すって事は何らかの手があるっていう事?

「つきましては『真体換装しんたいかんそう』の許可をお願いします。アレならば難なく魔城兵を撃退出来る筈です」

 果たしてゾヘドさんはマナちゃんにそう願い出た。

「うん、許可する。思うように埒を明けよ」
「了解、『真体換装』実行!」

 言葉と同時にゾヘドさんの体が光に包まれる。いや、ゾヘドさんだけじゃない。ロンちゃんもラペさんも――『燃眼三騎士トラペゾヘドロン』の三人の姿が白光を纏っていた。

「私達『燃眼三騎士トラペゾヘドロン』は肉体PCを二つ持っている。女王様の身を守る騎士がその辺のプレイヤーやエネミーより弱いんじゃお話にならないでしょ? だから、普段遊ぶ用のPCとは別にPCを持っているの」
「その別のPCになるのが『真体換装』……!」
「そう。マナ様の命令なしには自由には使えない緊急事態用の肉体だ」

 光が晴れる。そこに立っていたのは漆黒の甲冑に身を包んだゾヘドさんだった。しかし、いつもの甲冑ではない。顔しかなかった露出が二の腕や胸元にまで増え、手甲や肩当かたあては刺々しくなっている。腰には黒のロングスカートを穿き、まるで鋼鉄のドレスを着ているようだ。
 ロンちゃんもラペさんも漆黒の甲冑を纏っていた。ところどころから鋭角を幾つも生やした攻撃的なデザインだ。ロンちゃんは真紅のマントを羽織り、ラペさんは背中に蒼空色の翼を生やしている。

「カッコいい……!」
「えっへっへ~。でっしょー?」

 素直に褒めたらゾヘドさんがドヤ顔を返してくれた。可愛い。

「ま、当然凄いのは見た目だけじゃないからね。任せときなって」
「やれやれ。ま、行きますか」
「『燃眼三騎士トラペゾヘドロン』、出撃するよ!」

 ゾヘドさんがその場で跳躍する。瞬間、彼女の姿が消えた。否。消えたと錯覚する程に速く跳んでいったのだ。数十メートルも先にある屋根の上に着地し、一呼吸の間も空けずにまた跳躍する。ロンちゃんもラペさんも同様に跳んでいく。
 三人はあっという間に街の外に到着した。
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