【kindleでリメイク版発売中】VTuber・オンライン・シンフォニア ~限界オタク系個人勢底辺配信者がVRゲームで敏捷値極振り×弓使い~

ナイカナ・S・ガシャンナ

文字の大きさ
上 下
95 / 123
第五章 プレイ十三日目・前

#85 人類最速vs.人類最剛

しおりを挟む
『のこったのこった! のこったのこったァ!』

 行司の掛け声が土俵に響く。その声に合わせて観客の歓声が土俵を包む。歓声を浴び、私達の取組とりくみが展開されていく。

「おおおおおっ!」

 ゾヘドさんが猪突猛進とばかりに疾駆する。スナップを利かせた右の平手打ち――張り手が私に迫る。しかし、敏捷値極振りの私には遅過ぎる。屈み、ゾヘドさんの張り手を躱す。同時に私の張り手がゾヘドさんの左脇腹を叩く。
 更に同時、ゾヘドさんの左の張り手が迫っていた。全力で土俵を蹴り、ゾヘドさんの腕の届く範囲から離脱する。

「あっぶな……!」

 今、張り手の風圧が顔を煽った。もう少し回避が遅れていたらダメージを受けていた。
 ゾヘドさんの攻撃力は極致だ。当たれば一撃で死ぬ。生命値ぼうぎょりょくにポイントを振っていようが振っていまいが関係なく死ぬ。だから、当たらないように逃げながら攻撃を続ける――ヒット・アンド・アウェイの戦法が基本になる。

 離脱の勢いを土俵に踏み付け、前に跳び出す。掌底を繰り出そうとして、目の前にゾヘドさんの掌が先に迫っていた。顔を左に動かして掌を躱す。掠った髪の毛が数本千切れて宙を舞った。すれ違い様に張り手をゾヘドさんの腹部に叩き込む。

「ちょこまかと!」

 ゾヘドさんが私を追う。私も即座に方向転換し、ゾヘドさんに立ち向かう。ゾヘドさんは両腕を大きく広げ、私を逃がさないつもりだ。しかし、その攻撃方法はさっき躱したばかりだ。

 ブレーキを踏んで動きに停滞を挟み、ゾヘドさんのテンポを狂わせる。ゾヘドさんの腕が戸惑った隙に再加速、再度すれ違い様の張り手を入れた。土俵際まで進んで間合いを確保し、左足を軸に右踵で土を削って向き直る。
 冷や汗が止まらない。クリーンヒットどころか掠り傷すら致命傷になりかねないなんて緊張感が半端ない。
 しかし、それにしても、

「ゾヘドとかいう奴、妙にタフだな。筋力値極振りなんだろ?」
「ああ。あいつも生命値にはポイントを振っていねえって話なんだが……」

 土俵の傍で私達の試合を見守っていたラトとマイが眉をひそめる。
 二人が疑問に思うは当然だ。今の攻防だけでも三連続も攻撃に成功している。【二乗のことわり】で私も近接攻撃限定で筋力値極振りと同等になっている筈だ。通常であればダメージは甚大になっている筈だ。
 なのに、ゾヘドさんは倒れない。表情にはまだ余裕がある。HPの残りはまだそれ程深刻にはなっていない証拠だ。
 その絡繰からくりをゾヘドさんのリスナーである私は知っている。それは、

「スキルだよ」
「……スキル?」
「うん。あれはゾヘドの【筋肉の鎧】の効果だ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶世のディプロマット

一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。 レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。 レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。 ※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

処理中です...