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第四章 プレイ十二日目

#66 三人目の騎士、登場

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 女性がつかつかとこちらに歩み寄ってくる。
 身長は高く、男性のラペさんと同じくらいはある。その長身を厳つい漆黒の甲冑で包み、露出しているのは顔だけだ。その顔は美しくも凛としている。額には炎を発する赤い石が埋め込まれていた。髪は雪の如き白髪であり、腰にまで届く程に長い。頭部には犬耳があり、人耳はなかった。
 そんな美女が真っ直ぐに私に向かって近付いてくる。彼女の名前を私は知っていた。

「ゾヘドちゃん……!?」
「私をちゃん付けで呼ぶって事は、さてはお前、ラペの所のリスナーだな?」
「あっ、いえ、すみません馴れ馴れしくて! ゾヘド!」

 異月いつきゾヘド。チクタクマン社所属の企業勢Vtuberだ。
 ロンちゃんとラペさんと同じ『燃眼三騎士トラペゾヘドロン』の一人であり、三人の共通点である燃える眼は額にある。目といっても瞳だけなので、まるで紅石が埋め込まれているかのように見えるのだ。
 二つ名は『御遣いの犬ホワイトドッグ』ゾヘド。マナちゃんが抱き枕にしていた白い犬のぬいぐるみに彼女が宿った経緯が由来だ。
 ちなみに、『燃眼三騎士トラペゾヘドロン』の三人が犬・猫・鳥をモチーフにしているのに深い意味はない。ペットとして人気のある小動物からこの三種を選び抜いただけだ。

「ひゃ、ひゃじめっ、初めまして! 二倉すのこです!」
「あ、これは御丁寧にどうも。異月です」
「先日のホラー配信、とても楽しかったです! お手本のような悲鳴でした!」
「人の悲鳴を褒めるな! 素直に喜び辛い! 見てくれて有難う御座います!」

 ゾヘドさんは色んなゲーム配信を行っているが、その中でも特に人気が高いのがホラゲー配信だ。
 何しろ、どんな事にもビビる。お化けが唐突に襲ってきてもビビるし、ゆっくりと恐怖を演出してくる描写にもビビる。時には何でもない所で疑心暗鬼になって勝手にビビる。そして全力で悲鳴を上げる。ホラゲー製作者から百点満点を貰えそうな程のリアクションっぷりだ。

「で、でも、とても可愛らしかったですし、配信的には成功でしたし……」
「……まあ確かにリスナーからの反応も良かったけど。やっぱり怖がりだって言われるのは嬉しくないなー」

 ゾヘドさんが眉を八の字にして拒否反応を示す。当人からすれば当然の感情だろう。けれども、その怖がりを買われて彼女にホラゲー実況を希望するファンは後を絶たないのだ。彼女には悪いけど、これも一つの才能だ。女の子の悲鳴マジ美味しいです。

「……っと、いけないいけない。ついつい話が逸れちゃった」

 話を切り上げ、ゾヘドさんがマナちゃんの前に跪く。

「マナ様。私は彼女を共犯者にする事は反対です」

 そして、神妙な面持ちでマナちゃんに進言した。

「ここに来られた事で彼女がマナ様を敬愛している事は認めます。けど、それはそれ、これはこれです。この計画は他言無用、チクタクマン社の極秘プロジェクトです。おいそれと部外者を関わらせる訳にはいきません」
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