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第四章 プレイ十二日目
#65 輝き
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「Vtuberを始めた理由、続ける理由は本人のものです。利己的だろうと利他的だろうと、どっちにしても部外者が口を出すべき事じゃない。応援者は配信者が自分達と一緒に楽しんでくれるのなら、それ以上は望みません」
「一緒に楽しむ……配信者達と?」
「はい。配信というのは配信者がまず楽しんで、それを見たリスナーが楽しんで、一緒に楽しんでいくものだと思います」
配信者のトーク、チャット欄、宣伝と拡散、SNSでのコメント欄。配信は皆で作り上げていくものだ。どれか一つが欠けても成り立たない。皆で盛り上がらなければ素敵な配信にはならない。
配信者が楽しくなければ見ているこちらも辛いのだ。その為ならば利己的、大いに結構だとも。自分の気持ちに従って、存分に笑って欲しい。それに、
「そのVtuberを続けている理由も私は素敵なものだと思います。だって、そこにはマナちゃんの『生きたい』っていう願いがあるから」
ああ、やっと気付いた。私がマナちゃんをこんなにも推している理由。彼女が文字通り一生懸命だからだ。VTuberに人生を懸けている人は沢山いるだろう。けれど、命を懸けている人はそう多くはないだろう。少なくとも今の私はマナちゃんしか知らない。
勿論、何かを懸けていなければいけないなんて事はない。趣味でも義理でもどんな理由でもVtuber活動をしている人は素晴らしい。それでも、懸けるものがあれば、そこに込められた情熱が違ってくるものだ。
「だからこそ貴女は輝いているのです。それは命の輝きだからです」
「――――。……有難う」
礼を口にしたマナちゃんの笑顔は少しだけ硬さが消えていた。私なんかの言葉で慰めになったのであれば良いけど。
「それにしても、すのこちゃんがここに来ちゃうとはねぇ。どうしよっかなー」
「す、すみません! とんでもない御迷惑を……!」
「ううん。すのこちゃんが悪い訳じゃないから。こっちが秘密にしているせいだって話。でも、そうだなぁ……うん。いっその事、すのこちゃんにも共犯者になって貰おうかな」
「共犯者といいますと……?」
私の問いにマナちゃんは小悪魔めいた顔で笑うと、
「マナと協力してこのゲーム――『旧支配者のシンフォニア』を盛り上げて、この世界を完成させようって事」
「ふぇ、えええええ!? 良いんですか、私なんかが!?」
私がマナちゃんと協力!? 個人勢の私が!? 今日ようやく登録者数一〇〇〇〇人に届いた私が!? チクタクマン社の看板Vtuberと協力!?
それは確かに光栄だし、マナちゃんの『生きたい』という願いを叶えてあげたいという思いもある。推し事をするにはまず推しが活動を続けていなくては意味がない。マナちゃんを直接支える事は私自身の為にもなる。何よりも私がマナちゃんの力になりたい。最推しの為ならばどんな事でも出来る。
そうは言っても私とマナちゃんとでは釣り合いが取れなさ過ぎる。私なんかが彼女の隣に――いや、隣以前に近くにいても良いのだろうか。
「ちょぉーっと待ったぁー!」
そんな心の葛藤を懐いていた時だった。突然、女性の声が割り込んできた。声の主を探して振り返る。入口だ。あの真鍮製の門から声は聞こえてきた。
果たしてそこには、漆黒の甲冑を身に纏った、雪白色の髪をした女性がいた。
「一緒に楽しむ……配信者達と?」
「はい。配信というのは配信者がまず楽しんで、それを見たリスナーが楽しんで、一緒に楽しんでいくものだと思います」
配信者のトーク、チャット欄、宣伝と拡散、SNSでのコメント欄。配信は皆で作り上げていくものだ。どれか一つが欠けても成り立たない。皆で盛り上がらなければ素敵な配信にはならない。
配信者が楽しくなければ見ているこちらも辛いのだ。その為ならば利己的、大いに結構だとも。自分の気持ちに従って、存分に笑って欲しい。それに、
「そのVtuberを続けている理由も私は素敵なものだと思います。だって、そこにはマナちゃんの『生きたい』っていう願いがあるから」
ああ、やっと気付いた。私がマナちゃんをこんなにも推している理由。彼女が文字通り一生懸命だからだ。VTuberに人生を懸けている人は沢山いるだろう。けれど、命を懸けている人はそう多くはないだろう。少なくとも今の私はマナちゃんしか知らない。
勿論、何かを懸けていなければいけないなんて事はない。趣味でも義理でもどんな理由でもVtuber活動をしている人は素晴らしい。それでも、懸けるものがあれば、そこに込められた情熱が違ってくるものだ。
「だからこそ貴女は輝いているのです。それは命の輝きだからです」
「――――。……有難う」
礼を口にしたマナちゃんの笑顔は少しだけ硬さが消えていた。私なんかの言葉で慰めになったのであれば良いけど。
「それにしても、すのこちゃんがここに来ちゃうとはねぇ。どうしよっかなー」
「す、すみません! とんでもない御迷惑を……!」
「ううん。すのこちゃんが悪い訳じゃないから。こっちが秘密にしているせいだって話。でも、そうだなぁ……うん。いっその事、すのこちゃんにも共犯者になって貰おうかな」
「共犯者といいますと……?」
私の問いにマナちゃんは小悪魔めいた顔で笑うと、
「マナと協力してこのゲーム――『旧支配者のシンフォニア』を盛り上げて、この世界を完成させようって事」
「ふぇ、えええええ!? 良いんですか、私なんかが!?」
私がマナちゃんと協力!? 個人勢の私が!? 今日ようやく登録者数一〇〇〇〇人に届いた私が!? チクタクマン社の看板Vtuberと協力!?
それは確かに光栄だし、マナちゃんの『生きたい』という願いを叶えてあげたいという思いもある。推し事をするにはまず推しが活動を続けていなくては意味がない。マナちゃんを直接支える事は私自身の為にもなる。何よりも私がマナちゃんの力になりたい。最推しの為ならばどんな事でも出来る。
そうは言っても私とマナちゃんとでは釣り合いが取れなさ過ぎる。私なんかが彼女の隣に――いや、隣以前に近くにいても良いのだろうか。
「ちょぉーっと待ったぁー!」
そんな心の葛藤を懐いていた時だった。突然、女性の声が割り込んできた。声の主を探して振り返る。入口だ。あの真鍮製の門から声は聞こえてきた。
果たしてそこには、漆黒の甲冑を身に纏った、雪白色の髪をした女性がいた。
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