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第四章 プレイ十二日目
#62 真なる幻夢境の正体に迫ります
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「真なる幻夢境……?」
マナちゃんの口から出た単語を鸚鵡返しする。
幻夢境という言葉には聞き覚えがある。キャラメイクが終わり、ゲームにログインする間際に彼女が言ったのだ。しかし、それが今どうして関係してくるのか。あれは単なる演出の言葉だと思っていたけど、違ったのだろうか? そして「真なる」とはどういう意味なのか。
「混乱しているね。そりゃそっか。そうだね、まずは……幻夢境について説明しようか」
マナちゃんが池の畔に腰を下ろして「こっち来て」と手招く。最推しに近付くなんて畏れ多いが、その当人に招かれた以上は従うしかない。バクバクと高鳴る心臓を堪えながらマナちゃんの隣に座る。
うわぁ、空気越しにちょっと体温を感じる! ヤバいヤバい!
……いやいや、人が話をしようとしているんだから落ち着かなくては。興奮しているばかりじゃ駄目だ。ちゃんとマナちゃんの話を聞かないと。
「幻夢境っていうのはざっくり言うと、異世界だね」
「い、異世界ですか……?」
それってつまりハイ・ファンタジー的な? トラックやら何やらで死ぬと転生先として送られる異場所の事? 剣と魔法が支配する中世ヨーロッパ風の、地球とは違う世界の事だろうか。
「大体合ってる。違うのは、幻夢境は地球ではない別の場所じゃないって事だね」
「『地球ではない』じゃないと言いますと……つまりここは地球?」
「そういう事。幻夢境は夢の中に存在する世界。しかも、全ての生き物の夢の中にあるの。地球の裏側――ううん、宇宙の裏側に存在する領域。集合的無意識に近いものがあるかな」
集合的無意識。心理学用語だったっけか。
ユングという心理学者が提唱した概念。彼によれば、人間の夢や空想に現れる典型的なイメージには元型が存在するのだという。元型はあらゆる民族の無意識の深層に存在し、個人の経験を越えた先天的なものである。世界各地の神話や伝承に幾つもの共通点が見られるのは人間が皆、この元型がある領域を共有しているからだ。この無意識領域を『集合的無意識』と呼ぶ。
「勿論、集合的無意識とは似ているだけで全く違うんだけど……とにかくここは特殊な夢の中。夢でありながら現実に確固として存在する世界なの」
「夢の中……となると、寝ている人は皆ここに?」
「ううん。単に夢を見るだけじゃ辿り着けないよ。この世界に来られるのは一部の才覚のある人だけ。
――『夢見る人』とマナ達はそう呼んでいる。すのこちゃんは『夢見る人』の才覚を持っていたみたいだね」
「え、えへへ……」
才覚と言われても良く分からないけど、どうやら私はマナちゃんに褒められているらしい。とりあえず嬉しい。
正直、異世界だの夢の中だのなんて話はどうしても信じ切れない。とはいえ、ここで話も腰を折るのも失礼だし、何より最推しの言う事だ。それに、まだただの私の夢の可能性だってあるし、ひとまずは素直に話の続きを聞くとしよう。
「それでも、貴女がここに来ることは本来ありえない事なんだよ。ここは幻夢境の中でも特別な場所。一部の者のみが踏み入る事を許された舞台裏。閉鎖領域。『旧支配者のシンフォニア』の地下空間なんだから」
マナちゃんの口から出た単語を鸚鵡返しする。
幻夢境という言葉には聞き覚えがある。キャラメイクが終わり、ゲームにログインする間際に彼女が言ったのだ。しかし、それが今どうして関係してくるのか。あれは単なる演出の言葉だと思っていたけど、違ったのだろうか? そして「真なる」とはどういう意味なのか。
「混乱しているね。そりゃそっか。そうだね、まずは……幻夢境について説明しようか」
マナちゃんが池の畔に腰を下ろして「こっち来て」と手招く。最推しに近付くなんて畏れ多いが、その当人に招かれた以上は従うしかない。バクバクと高鳴る心臓を堪えながらマナちゃんの隣に座る。
うわぁ、空気越しにちょっと体温を感じる! ヤバいヤバい!
……いやいや、人が話をしようとしているんだから落ち着かなくては。興奮しているばかりじゃ駄目だ。ちゃんとマナちゃんの話を聞かないと。
「幻夢境っていうのはざっくり言うと、異世界だね」
「い、異世界ですか……?」
それってつまりハイ・ファンタジー的な? トラックやら何やらで死ぬと転生先として送られる異場所の事? 剣と魔法が支配する中世ヨーロッパ風の、地球とは違う世界の事だろうか。
「大体合ってる。違うのは、幻夢境は地球ではない別の場所じゃないって事だね」
「『地球ではない』じゃないと言いますと……つまりここは地球?」
「そういう事。幻夢境は夢の中に存在する世界。しかも、全ての生き物の夢の中にあるの。地球の裏側――ううん、宇宙の裏側に存在する領域。集合的無意識に近いものがあるかな」
集合的無意識。心理学用語だったっけか。
ユングという心理学者が提唱した概念。彼によれば、人間の夢や空想に現れる典型的なイメージには元型が存在するのだという。元型はあらゆる民族の無意識の深層に存在し、個人の経験を越えた先天的なものである。世界各地の神話や伝承に幾つもの共通点が見られるのは人間が皆、この元型がある領域を共有しているからだ。この無意識領域を『集合的無意識』と呼ぶ。
「勿論、集合的無意識とは似ているだけで全く違うんだけど……とにかくここは特殊な夢の中。夢でありながら現実に確固として存在する世界なの」
「夢の中……となると、寝ている人は皆ここに?」
「ううん。単に夢を見るだけじゃ辿り着けないよ。この世界に来られるのは一部の才覚のある人だけ。
――『夢見る人』とマナ達はそう呼んでいる。すのこちゃんは『夢見る人』の才覚を持っていたみたいだね」
「え、えへへ……」
才覚と言われても良く分からないけど、どうやら私はマナちゃんに褒められているらしい。とりあえず嬉しい。
正直、異世界だの夢の中だのなんて話はどうしても信じ切れない。とはいえ、ここで話も腰を折るのも失礼だし、何より最推しの言う事だ。それに、まだただの私の夢の可能性だってあるし、ひとまずは素直に話の続きを聞くとしよう。
「それでも、貴女がここに来ることは本来ありえない事なんだよ。ここは幻夢境の中でも特別な場所。一部の者のみが踏み入る事を許された舞台裏。閉鎖領域。『旧支配者のシンフォニア』の地下空間なんだから」
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