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第三章 プレイ三日目おまけ
幕間3 VTuberラト様、爆誕!!!
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テストプレイ開始より八日目。
朱無王国の一角にある一つの喫茶店にて。
「……ちっ。気に入らねえなあ」
ラトが『冒険者教典』のページを開いて舌打ちを零していた。
「M?」
ラトの正面の席に座ってテップが「どうした急に」と言わんばかりに首を傾げる。その手の中にあるのはチョコレートパフェだ。黒牛の面を被りながら、面の口の中に器用にスプーンを入れて甘味に舌鼓を打っている。そんな相方にラトは教典を翻して、自分が見ていたページを見せた。
「あの極振り巫女、もう登録者数五〇〇〇人を超えたんだとよ」
このゲーム『旧支配者のシンフォニア』はVTuber活動を積極的に応援している。その一環として教典のページの一つにゲーム参加者のVTuberの情報が記載されている。プロフィール、チャンネル登録者数、ゲーム内における功績、現在配信中かどうか。彼ら彼女らの現在をこのページからいつでも調べる事が出来るのだ。
ラトはこのページから二倉すのこの情報を検索し、彼女の現在の登録者数を調べたのだ。すのこに敗北して以来、彼は一日も欠かさず、こうして彼女の動向をチェックしていた。
「気に入らねえ。気に入らねえなあ、おい。俺はクラゲ野郎をブッ倒したきり目立った活躍はしていねえってのに、あいつはどんどん成果を積み立てていってやがる」
彼の言うクラゲ野郎とは、ダンジョン『ゴツウド森・廃村エリア』のボスエネミー【海月魔ロイ・ホワイト】の事だ。このエネミーの初討伐を成した事で一時有名人になった彼だが、五日も経てば希少性も薄れる。今や過去の栄光と化してしまった。
無論、この五日間、彼らも何もしてこなかった訳ではない。レベリングにダンジョン攻略、PK活動と色々とやってきた。しかし、いずれも特にワールドニュース級に騒がれる事はなかった。レベリングは地味、ダンジョンは誰かが先に攻略済、PKは返り討ちに遭う事も多々。パッとしない戦績だった。
その一方で、ライバルと決めた人物がこうも人気者になっているのだと知ると、置いていかれた気分になるのだ。
「……よし、決めたぜ」
故にラトは自分が目立たんとつ為、ある決意を懐いていた。
「俺、VTuberになる」
「BM!?」
驚いたテップが強くスプーンを噛んでしまう。彼のリアクションに笑みを浮かべつつテトは話を続ける。
「VTuberになって配信者になって、有名になった所であの極振り巫女をブチのめしてやる。あいつの無様な姿を俺の配信で全世界に流してやるんだ。配信者への意趣返しとしちゃあこれ以上はねえだろ?」
ラトが教典をテップの手元から戻し、ページをめくる。
「ちょうどあのクラゲ野郎から使い魔も手に入れていた事だしな。カメラの外見になるんだろ? こいつって。天がVTuberを始めろって言っているようなもんだぜ」
テトが開いたのはアイテム欄のページだ。テップに分かり易いようにラトが指差した先には海月魔から入手したあるアイテムがあった。
「B……! MM……?」
「そんな簡単に有名になれるかって? 大丈夫だ、俺ってば掲示板じゃあもう既にちょっとした有名人だからな。そこから上乗せしていきゃあ何とかなるだろ」
心配そうな唸り声を出すテップにラトは自信満々だ。不安や気後れなど一切ない。楽天的とも言えるその思考にテップはますます不安が募った。
「――それに、今日からイベントが始まるだろ? 注目を集めるんならお誂え向きじゃねえか」
ラトが親指で視線を促す。その先にあったのは喫茶店の壁だ。壁には幾つかポスターが貼られており、その一つにはこう書かれていた。
『賞金首イベント、本日より開始! 悪名高きPK共を討伐し、賞金を手にしよう!』と。
「『俺を殺せるものはあるか!』っつって配信するんだ。皆、こぞって俺をキルしに来るぜ。俺が死ぬ所を見ようと再生数も爆上がりだ。
お前も一緒にデビューだからな、相棒。一緒にV界隈に一泡吹かせようぜ」
「MO!?」
賞金ランキング第五位、懸賞金額一二五万エンのPK――ラトはそう言い、笑みをぎらつかせた。
朱無王国の一角にある一つの喫茶店にて。
「……ちっ。気に入らねえなあ」
ラトが『冒険者教典』のページを開いて舌打ちを零していた。
「M?」
ラトの正面の席に座ってテップが「どうした急に」と言わんばかりに首を傾げる。その手の中にあるのはチョコレートパフェだ。黒牛の面を被りながら、面の口の中に器用にスプーンを入れて甘味に舌鼓を打っている。そんな相方にラトは教典を翻して、自分が見ていたページを見せた。
「あの極振り巫女、もう登録者数五〇〇〇人を超えたんだとよ」
このゲーム『旧支配者のシンフォニア』はVTuber活動を積極的に応援している。その一環として教典のページの一つにゲーム参加者のVTuberの情報が記載されている。プロフィール、チャンネル登録者数、ゲーム内における功績、現在配信中かどうか。彼ら彼女らの現在をこのページからいつでも調べる事が出来るのだ。
ラトはこのページから二倉すのこの情報を検索し、彼女の現在の登録者数を調べたのだ。すのこに敗北して以来、彼は一日も欠かさず、こうして彼女の動向をチェックしていた。
「気に入らねえ。気に入らねえなあ、おい。俺はクラゲ野郎をブッ倒したきり目立った活躍はしていねえってのに、あいつはどんどん成果を積み立てていってやがる」
彼の言うクラゲ野郎とは、ダンジョン『ゴツウド森・廃村エリア』のボスエネミー【海月魔ロイ・ホワイト】の事だ。このエネミーの初討伐を成した事で一時有名人になった彼だが、五日も経てば希少性も薄れる。今や過去の栄光と化してしまった。
無論、この五日間、彼らも何もしてこなかった訳ではない。レベリングにダンジョン攻略、PK活動と色々とやってきた。しかし、いずれも特にワールドニュース級に騒がれる事はなかった。レベリングは地味、ダンジョンは誰かが先に攻略済、PKは返り討ちに遭う事も多々。パッとしない戦績だった。
その一方で、ライバルと決めた人物がこうも人気者になっているのだと知ると、置いていかれた気分になるのだ。
「……よし、決めたぜ」
故にラトは自分が目立たんとつ為、ある決意を懐いていた。
「俺、VTuberになる」
「BM!?」
驚いたテップが強くスプーンを噛んでしまう。彼のリアクションに笑みを浮かべつつテトは話を続ける。
「VTuberになって配信者になって、有名になった所であの極振り巫女をブチのめしてやる。あいつの無様な姿を俺の配信で全世界に流してやるんだ。配信者への意趣返しとしちゃあこれ以上はねえだろ?」
ラトが教典をテップの手元から戻し、ページをめくる。
「ちょうどあのクラゲ野郎から使い魔も手に入れていた事だしな。カメラの外見になるんだろ? こいつって。天がVTuberを始めろって言っているようなもんだぜ」
テトが開いたのはアイテム欄のページだ。テップに分かり易いようにラトが指差した先には海月魔から入手したあるアイテムがあった。
「B……! MM……?」
「そんな簡単に有名になれるかって? 大丈夫だ、俺ってば掲示板じゃあもう既にちょっとした有名人だからな。そこから上乗せしていきゃあ何とかなるだろ」
心配そうな唸り声を出すテップにラトは自信満々だ。不安や気後れなど一切ない。楽天的とも言えるその思考にテップはますます不安が募った。
「――それに、今日からイベントが始まるだろ? 注目を集めるんならお誂え向きじゃねえか」
ラトが親指で視線を促す。その先にあったのは喫茶店の壁だ。壁には幾つかポスターが貼られており、その一つにはこう書かれていた。
『賞金首イベント、本日より開始! 悪名高きPK共を討伐し、賞金を手にしよう!』と。
「『俺を殺せるものはあるか!』っつって配信するんだ。皆、こぞって俺をキルしに来るぜ。俺が死ぬ所を見ようと再生数も爆上がりだ。
お前も一緒にデビューだからな、相棒。一緒にV界隈に一泡吹かせようぜ」
「MO!?」
賞金ランキング第五位、懸賞金額一二五万エンのPK――ラトはそう言い、笑みをぎらつかせた。
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