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第二章 プレイ二日目

#30 vs四本腕のゾンビ

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 魔法使いウィザード。物理法則と対を為す則――略して魔法を使う者。
 法に関する技と呼び、魔術を操る者を魔術師ソーサラーと呼ぶ。魔法使いは魔術師の一種だ。目まぐるしく状況が変わる実戦の最中でも、を直接操れる者を使と称するのだ。





 ゾンビが右拳を振るう。上下両方の腕での攻撃だ。マイが剣身を盾にして殴打を受けるが、腕二本分のパワーには敵わない。剣ごと弾かれて床面を転がる。

「オォォ……!」

 ゾンビが唸りながらマイを追撃する。だが、それを許す私達ではない。ゾンビの右手側からは私が矢を、左手側からは少女が槍を放つ。左右からの攻撃を対応は難しいだろうという判断だ。
 だが、それをゾンビは易々と受け止めた。矢を上の右手で掴み、槍を上の左手で止めた。間髪入れず下の両手を私達に伸ばす。比較的近い位置にいた少女を殴り、続いて私に拳を向けた。彼女を先に攻撃した分、僅かに時間があった為、私は攻撃を避ける事が出来た。

「【初級大地魔術ストーンエッジ】――!」

 石斧がゾンビの右肩に突き刺さる。ルトちゃんが放った魔術スキルだ。先程の火の玉を使わなかったのは任意発動アクティブスキルにはクールタイムが設けられているからだ。クールタイムが終わるまではスキルを瞬間的に連続使用する事は出来ない。
 石の刃が死肉に喰い込むが、しかし大して効いている様子はない。ゾンビはとうに死んでいるので痛覚がないせいだろう。

「オォオ……!」

 ゾンビがルトちゃんに迫る。遠距離攻撃者を先に潰そうという判断だ。しかし、それを傍観する私ではない。

「しぃあああああっ!」

 両手の指に矢を挟んでゾンビの背を連打する。矢が砕けるが、ルトちゃんに向かうゾンビの足が止まった。多少なりともダメージを与えられ、私を無視出来なくなった様子だ。

 直後、衝撃が私の腹部を襲った。
 ゾンビが振り向き様に手刀を振るったのだ。それが私の腹部に命中した。私の体が野球ボールのように容易く吹き飛ばされ、床に落下する。体力を見ればごっそりと削られていた。

「ああもう! 一撃でも喰らえば瀕死になるの辛いなぁ……!」

 極振りを選んだ以上、必然の結果だけど。毎回命の危機に晒されるのは応える。とはいえ、即死しなかっただけでもマシか。

「テメェ、オレの幼馴染に何しやがる!」

 ダウンから復帰したマイがゾンビに飛び掛かる。唐竹割りの剣撃はゾンビの脳天を狙ったものだ。だが、ゾンビは首を動かすと左肩でマイの剣を受け止めた。死肉に刃が埋まった直後、ゾンビが上の右腕でマイの下顎を打つ。衝撃にマイの脳が揺れたのと同時、下の右腕がマイの心臓を打った。突き飛ばされたマイの体が再び床に転がる。
 入れ替わりに少女が槍を突き出す。穂先はゾンビの鳩尾を打つが、貫通にまでは至らない。ゾンビは一歩後退して穂先を緩め、自らの血肉ごと下の左腕で槍を払う。そして下の右腕で少女に殴り掛かった。

「ぐっ!」

 咄嗟に槍を盾にして拳を受け止める少女。しかし、中途半端な姿勢で耐えられる筈もなく、槍ごと殴り飛ばされてしまった。床面を踵で削り、どうにか倒れ伏す事を防ぐ。
 二人が攻防を展開している間に私は治癒薬ポーションを使い、体力を回復させた。これでまだ戦える。

「はあっ、はあっ……! 畜生、強ぇな、こいつ」

 マイが悪態を吐く。彼女の言う通り、本当に強い。私とマイで倒せたデカ骨に比して、こいつには四人がかりで劣勢だ。明らかに地上のモンスターとはレベルが違う。初心者が挑んで良い相手ではない。

「……どうする? 逃げた方が良い?」
「逃げるんだったら一人は殿しんがりが必要になるだろ。それが嫌だから戻ってきたんじゃねえのか?」
「そうだね。やっぱりそうなるよね」

 だったら、選択肢は一つだ。

「――こいつをここで倒す」

 こいつを倒して帰還する。それ以外の道はない。
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