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第一章 プレイ初日おまけ
幕間1 赤の女王マナ
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『旧支配者のシンフォニア』内、午前〇時過ぎ。
白銀髪の少女が瞼を開ける。彼女の瞳に広くも絢爛豪華な部屋が映った。床や壁は大理石、窓は全てステンドグラスで床には赤い絨毯が敷かれている。壁際には全身甲冑姿の騎士の石像が十数体と並べられていた。
部屋の最奥、五段高い場所に置かれているのは黄金と宝石の椅子だ。煌びやかで只人では触れるどころか直視する事すら許されない。一国を統べる者の地位の象徴――玉座だ。
ここは朱無王国唯一の城、瑞加祷城の謁見の間だ。瑞加祷城は基本的には洋城を模したデザインとなっているが、尖塔の屋根の上には鯱があったり城内には天守閣があったりと所々に和風が組み込まれている。
玉座に悠然と座るのは白銀髪の少女――犀芭マナだ。このゲーム『旧支配者のシンフォニア』における彼女の役割は女王。即ち、朱無王国の君主である。
「お疲れちゃん、マナ様」
瞼を開けた彼女に声が掛けられる。声の出元に視線を向けると、そこに立っていたのは奇妙な衣装の男だった。黒いコートに黒いズボン、顔は包帯とサングラスで隠されている。すのこ達を半ば強引にパーティーに入れた上で全滅した、あの包帯男だ。
「……ラペ」
マナが包帯男の名を呼ぶ。その口元には堪え切れない緩みが伺えた。
「なあに、その格好? 怪し過ぎるんだけど」
「ええ……。これ、一応会社からの指定なんですけど。正体を隠せっていう」
「ロントやゾヘドはそこまでしていなかった筈だけど。多分会社もそこまでは求めていなかったと思うよ。杞憂民かな?」
「ええええ……」
困惑を態度で示す包帯男。それを見てマナがクスクスと笑う。そんな彼女の様子に包帯男は溜息を一つ挟んで話を変えた。
「……それで、どうでした? さっきまでプレイヤー達のキャラメイクに対応していたんですよね?」
「うん。今ので最後の一人が終わったよ。こんな夜中になってもログインしたいだなんて有難いよね。明日に回すだなんて待ち切れないっていうんだからさ」
「ですね。しかし、いやはや、一〇〇〇人も相手するとなると大変だったでしょ?」
「ううん、平気。マナ自身が直接会っていた訳じゃないからねー」
二倉すのこに説明した通り、キャラメイクに立ち会っていた犀芭マナは人工知能である。
彼女は四桁にもなるプレイヤーへの対応を端末のAIに代行させていた。一〇〇〇人ものプレイヤーに対して一〇〇〇体もの分身の自分だ。今はその分身達との同期を行い、情報の共有を済ませた所だった。
「それで、どうです? 何か面白そうな子とか使えそうな子とかいました?」
「何人も。特にVTuberやっている子には個性的なのが多かったね。やっぱり配信者なんてのはさ、どっか尖っていないとやっていらんないもんだから」
「左様で」
包帯男が肩を竦める。自分も彼女も配信者だ。それを考慮すると暗に……否、はっきりと自分達も尖っているとマナは言っているのだ。どうにも肯定も否定もし辛い。「肩を竦める以外にどんなリアクションをしろっていうんだ?」と包帯男は内心でぼやいた。
「……それにしても、ふふ」
「何か良い事ありました?」
「うん。最推しだって言ってくれた娘がいてね。推しだって言ってくれる人は結構いたけど、『最』とまで言ってくれるのはそんなにいなかったから、嬉しくて。マナと話している間もずっと目をキラキラさせちゃってさ。可愛かったなあ」
「ははあ、そいつぁVTuber冥利に尽きますな」
「うん! 思わずその娘の配信見に行ってコメントしちゃった。……ああ、勿論匿名だよ。安心して。これからもああいう娘には頑張って欲しいよね」
「こういうのがあるからVTuberはやめらんないよね~」とマナはニッコニコ顔だ。包帯男も表情はまるで読めないが、楽しそうな空気を醸している。先程と違って今の言葉は彼としても素直に共感出来るものだったからだ。VTuberにとって応援の言葉こそが何よりの活力――否、生きていく栄養素になるものだ。
「さて、いよいよマナ達の計画も始まるね。ともかく知名度が重要になってくるから、頼んだよ、ラペ」
「御心のままに、女王陛下」
包帯男が恭しく一礼する。マナも口元には笑みを浮かべたまま表情を引き締めた。
夜は更けていく。月が中天を通り、朝日がまた顔を出す。
朱無王国にまた冒険と配信の日常がやってくる――――
白銀髪の少女が瞼を開ける。彼女の瞳に広くも絢爛豪華な部屋が映った。床や壁は大理石、窓は全てステンドグラスで床には赤い絨毯が敷かれている。壁際には全身甲冑姿の騎士の石像が十数体と並べられていた。
部屋の最奥、五段高い場所に置かれているのは黄金と宝石の椅子だ。煌びやかで只人では触れるどころか直視する事すら許されない。一国を統べる者の地位の象徴――玉座だ。
ここは朱無王国唯一の城、瑞加祷城の謁見の間だ。瑞加祷城は基本的には洋城を模したデザインとなっているが、尖塔の屋根の上には鯱があったり城内には天守閣があったりと所々に和風が組み込まれている。
玉座に悠然と座るのは白銀髪の少女――犀芭マナだ。このゲーム『旧支配者のシンフォニア』における彼女の役割は女王。即ち、朱無王国の君主である。
「お疲れちゃん、マナ様」
瞼を開けた彼女に声が掛けられる。声の出元に視線を向けると、そこに立っていたのは奇妙な衣装の男だった。黒いコートに黒いズボン、顔は包帯とサングラスで隠されている。すのこ達を半ば強引にパーティーに入れた上で全滅した、あの包帯男だ。
「……ラペ」
マナが包帯男の名を呼ぶ。その口元には堪え切れない緩みが伺えた。
「なあに、その格好? 怪し過ぎるんだけど」
「ええ……。これ、一応会社からの指定なんですけど。正体を隠せっていう」
「ロントやゾヘドはそこまでしていなかった筈だけど。多分会社もそこまでは求めていなかったと思うよ。杞憂民かな?」
「ええええ……」
困惑を態度で示す包帯男。それを見てマナがクスクスと笑う。そんな彼女の様子に包帯男は溜息を一つ挟んで話を変えた。
「……それで、どうでした? さっきまでプレイヤー達のキャラメイクに対応していたんですよね?」
「うん。今ので最後の一人が終わったよ。こんな夜中になってもログインしたいだなんて有難いよね。明日に回すだなんて待ち切れないっていうんだからさ」
「ですね。しかし、いやはや、一〇〇〇人も相手するとなると大変だったでしょ?」
「ううん、平気。マナ自身が直接会っていた訳じゃないからねー」
二倉すのこに説明した通り、キャラメイクに立ち会っていた犀芭マナは人工知能である。
彼女は四桁にもなるプレイヤーへの対応を端末のAIに代行させていた。一〇〇〇人ものプレイヤーに対して一〇〇〇体もの分身の自分だ。今はその分身達との同期を行い、情報の共有を済ませた所だった。
「それで、どうです? 何か面白そうな子とか使えそうな子とかいました?」
「何人も。特にVTuberやっている子には個性的なのが多かったね。やっぱり配信者なんてのはさ、どっか尖っていないとやっていらんないもんだから」
「左様で」
包帯男が肩を竦める。自分も彼女も配信者だ。それを考慮すると暗に……否、はっきりと自分達も尖っているとマナは言っているのだ。どうにも肯定も否定もし辛い。「肩を竦める以外にどんなリアクションをしろっていうんだ?」と包帯男は内心でぼやいた。
「……それにしても、ふふ」
「何か良い事ありました?」
「うん。最推しだって言ってくれた娘がいてね。推しだって言ってくれる人は結構いたけど、『最』とまで言ってくれるのはそんなにいなかったから、嬉しくて。マナと話している間もずっと目をキラキラさせちゃってさ。可愛かったなあ」
「ははあ、そいつぁVTuber冥利に尽きますな」
「うん! 思わずその娘の配信見に行ってコメントしちゃった。……ああ、勿論匿名だよ。安心して。これからもああいう娘には頑張って欲しいよね」
「こういうのがあるからVTuberはやめらんないよね~」とマナはニッコニコ顔だ。包帯男も表情はまるで読めないが、楽しそうな空気を醸している。先程と違って今の言葉は彼としても素直に共感出来るものだったからだ。VTuberにとって応援の言葉こそが何よりの活力――否、生きていく栄養素になるものだ。
「さて、いよいよマナ達の計画も始まるね。ともかく知名度が重要になってくるから、頼んだよ、ラペ」
「御心のままに、女王陛下」
包帯男が恭しく一礼する。マナも口元には笑みを浮かべたまま表情を引き締めた。
夜は更けていく。月が中天を通り、朝日がまた顔を出す。
朱無王国にまた冒険と配信の日常がやってくる――――
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