22 / 123
第一章 プレイ初日おまけ
幕間1 赤の女王マナ
しおりを挟む
『旧支配者のシンフォニア』内、午前〇時過ぎ。
白銀髪の少女が瞼を開ける。彼女の瞳に広くも絢爛豪華な部屋が映った。床や壁は大理石、窓は全てステンドグラスで床には赤い絨毯が敷かれている。壁際には全身甲冑姿の騎士の石像が十数体と並べられていた。
部屋の最奥、五段高い場所に置かれているのは黄金と宝石の椅子だ。煌びやかで只人では触れるどころか直視する事すら許されない。一国を統べる者の地位の象徴――玉座だ。
ここは朱無王国唯一の城、瑞加祷城の謁見の間だ。瑞加祷城は基本的には洋城を模したデザインとなっているが、尖塔の屋根の上には鯱があったり城内には天守閣があったりと所々に和風が組み込まれている。
玉座に悠然と座るのは白銀髪の少女――犀芭マナだ。このゲーム『旧支配者のシンフォニア』における彼女の役割は女王。即ち、朱無王国の君主である。
「お疲れちゃん、マナ様」
瞼を開けた彼女に声が掛けられる。声の出元に視線を向けると、そこに立っていたのは奇妙な衣装の男だった。黒いコートに黒いズボン、顔は包帯とサングラスで隠されている。すのこ達を半ば強引にパーティーに入れた上で全滅した、あの包帯男だ。
「……ラペ」
マナが包帯男の名を呼ぶ。その口元には堪え切れない緩みが伺えた。
「なあに、その格好? 怪し過ぎるんだけど」
「ええ……。これ、一応会社からの指定なんですけど。正体を隠せっていう」
「ロントやゾヘドはそこまでしていなかった筈だけど。多分会社もそこまでは求めていなかったと思うよ。杞憂民かな?」
「ええええ……」
困惑を態度で示す包帯男。それを見てマナがクスクスと笑う。そんな彼女の様子に包帯男は溜息を一つ挟んで話を変えた。
「……それで、どうでした? さっきまでプレイヤー達のキャラメイクに対応していたんですよね?」
「うん。今ので最後の一人が終わったよ。こんな夜中になってもログインしたいだなんて有難いよね。明日に回すだなんて待ち切れないっていうんだからさ」
「ですね。しかし、いやはや、一〇〇〇人も相手するとなると大変だったでしょ?」
「ううん、平気。マナ自身が直接会っていた訳じゃないからねー」
二倉すのこに説明した通り、キャラメイクに立ち会っていた犀芭マナは人工知能である。
彼女は四桁にもなるプレイヤーへの対応を端末のAIに代行させていた。一〇〇〇人ものプレイヤーに対して一〇〇〇体もの分身の自分だ。今はその分身達との同期を行い、情報の共有を済ませた所だった。
「それで、どうです? 何か面白そうな子とか使えそうな子とかいました?」
「何人も。特にVTuberやっている子には個性的なのが多かったね。やっぱり配信者なんてのはさ、どっか尖っていないとやっていらんないもんだから」
「左様で」
包帯男が肩を竦める。自分も彼女も配信者だ。それを考慮すると暗に……否、はっきりと自分達も尖っているとマナは言っているのだ。どうにも肯定も否定もし辛い。「肩を竦める以外にどんなリアクションをしろっていうんだ?」と包帯男は内心でぼやいた。
「……それにしても、ふふ」
「何か良い事ありました?」
「うん。最推しだって言ってくれた娘がいてね。推しだって言ってくれる人は結構いたけど、『最』とまで言ってくれるのはそんなにいなかったから、嬉しくて。マナと話している間もずっと目をキラキラさせちゃってさ。可愛かったなあ」
「ははあ、そいつぁVTuber冥利に尽きますな」
「うん! 思わずその娘の配信見に行ってコメントしちゃった。……ああ、勿論匿名だよ。安心して。これからもああいう娘には頑張って欲しいよね」
「こういうのがあるからVTuberはやめらんないよね~」とマナはニッコニコ顔だ。包帯男も表情はまるで読めないが、楽しそうな空気を醸している。先程と違って今の言葉は彼としても素直に共感出来るものだったからだ。VTuberにとって応援の言葉こそが何よりの活力――否、生きていく栄養素になるものだ。
「さて、いよいよマナ達の計画も始まるね。ともかく知名度が重要になってくるから、頼んだよ、ラペ」
「御心のままに、女王陛下」
包帯男が恭しく一礼する。マナも口元には笑みを浮かべたまま表情を引き締めた。
夜は更けていく。月が中天を通り、朝日がまた顔を出す。
朱無王国にまた冒険と配信の日常がやってくる――――
白銀髪の少女が瞼を開ける。彼女の瞳に広くも絢爛豪華な部屋が映った。床や壁は大理石、窓は全てステンドグラスで床には赤い絨毯が敷かれている。壁際には全身甲冑姿の騎士の石像が十数体と並べられていた。
部屋の最奥、五段高い場所に置かれているのは黄金と宝石の椅子だ。煌びやかで只人では触れるどころか直視する事すら許されない。一国を統べる者の地位の象徴――玉座だ。
ここは朱無王国唯一の城、瑞加祷城の謁見の間だ。瑞加祷城は基本的には洋城を模したデザインとなっているが、尖塔の屋根の上には鯱があったり城内には天守閣があったりと所々に和風が組み込まれている。
玉座に悠然と座るのは白銀髪の少女――犀芭マナだ。このゲーム『旧支配者のシンフォニア』における彼女の役割は女王。即ち、朱無王国の君主である。
「お疲れちゃん、マナ様」
瞼を開けた彼女に声が掛けられる。声の出元に視線を向けると、そこに立っていたのは奇妙な衣装の男だった。黒いコートに黒いズボン、顔は包帯とサングラスで隠されている。すのこ達を半ば強引にパーティーに入れた上で全滅した、あの包帯男だ。
「……ラペ」
マナが包帯男の名を呼ぶ。その口元には堪え切れない緩みが伺えた。
「なあに、その格好? 怪し過ぎるんだけど」
「ええ……。これ、一応会社からの指定なんですけど。正体を隠せっていう」
「ロントやゾヘドはそこまでしていなかった筈だけど。多分会社もそこまでは求めていなかったと思うよ。杞憂民かな?」
「ええええ……」
困惑を態度で示す包帯男。それを見てマナがクスクスと笑う。そんな彼女の様子に包帯男は溜息を一つ挟んで話を変えた。
「……それで、どうでした? さっきまでプレイヤー達のキャラメイクに対応していたんですよね?」
「うん。今ので最後の一人が終わったよ。こんな夜中になってもログインしたいだなんて有難いよね。明日に回すだなんて待ち切れないっていうんだからさ」
「ですね。しかし、いやはや、一〇〇〇人も相手するとなると大変だったでしょ?」
「ううん、平気。マナ自身が直接会っていた訳じゃないからねー」
二倉すのこに説明した通り、キャラメイクに立ち会っていた犀芭マナは人工知能である。
彼女は四桁にもなるプレイヤーへの対応を端末のAIに代行させていた。一〇〇〇人ものプレイヤーに対して一〇〇〇体もの分身の自分だ。今はその分身達との同期を行い、情報の共有を済ませた所だった。
「それで、どうです? 何か面白そうな子とか使えそうな子とかいました?」
「何人も。特にVTuberやっている子には個性的なのが多かったね。やっぱり配信者なんてのはさ、どっか尖っていないとやっていらんないもんだから」
「左様で」
包帯男が肩を竦める。自分も彼女も配信者だ。それを考慮すると暗に……否、はっきりと自分達も尖っているとマナは言っているのだ。どうにも肯定も否定もし辛い。「肩を竦める以外にどんなリアクションをしろっていうんだ?」と包帯男は内心でぼやいた。
「……それにしても、ふふ」
「何か良い事ありました?」
「うん。最推しだって言ってくれた娘がいてね。推しだって言ってくれる人は結構いたけど、『最』とまで言ってくれるのはそんなにいなかったから、嬉しくて。マナと話している間もずっと目をキラキラさせちゃってさ。可愛かったなあ」
「ははあ、そいつぁVTuber冥利に尽きますな」
「うん! 思わずその娘の配信見に行ってコメントしちゃった。……ああ、勿論匿名だよ。安心して。これからもああいう娘には頑張って欲しいよね」
「こういうのがあるからVTuberはやめらんないよね~」とマナはニッコニコ顔だ。包帯男も表情はまるで読めないが、楽しそうな空気を醸している。先程と違って今の言葉は彼としても素直に共感出来るものだったからだ。VTuberにとって応援の言葉こそが何よりの活力――否、生きていく栄養素になるものだ。
「さて、いよいよマナ達の計画も始まるね。ともかく知名度が重要になってくるから、頼んだよ、ラペ」
「御心のままに、女王陛下」
包帯男が恭しく一礼する。マナも口元には笑みを浮かべたまま表情を引き締めた。
夜は更けていく。月が中天を通り、朝日がまた顔を出す。
朱無王国にまた冒険と配信の日常がやってくる――――
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~
オイシイオコメ
SF
75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。
この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。
前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。
(小説中のダッシュ表記につきまして)
作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。
不遇職「罠師」は器用さMAXで無双する
ゆる弥
SF
後輩に勧められて買ってみたVRMMOゲーム、UnknownWorldOnline(通称UWO(ウォー))で通常では選ぶことができないレア職を狙って職業選択でランダムを選択する。
すると、不遇職とされる「罠師」になってしまう。
しかし、探索中足を滑らせて落ちた谷底で宝を発見する。
その宝は器用さをMAXにするバングルであった。
器用さに左右される罠作成を成功させまくってあらゆる罠を作り、モンスターを狩りまくって無双する。
やがて伝説のプレイヤーになる。
【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-
双葉 鳴|◉〻◉)
SF
Atlantis World Online。
そこは古代文明の後にできたファンタジー世界。
プレイヤーは古代文明の末裔を名乗るNPCと交友を測り、歴史に隠された謎を解き明かす使命を持っていた。
しかし多くのプレイヤーは目先のモンスター討伐に明け暮れ、謎は置き去りにされていた。
主人公、笹井裕次郎は定年を迎えたばかりのお爺ちゃん。
孫に誘われて参加したそのゲームで幼少時に嗜んだコミックの主人公を投影し、アキカゼ・ハヤテとして活動する。
その常識にとらわれない発想力、謎の行動力を遺憾なく発揮し、多くの先行プレイヤーが見落とした謎をバンバンと発掘していった。
多くのプレイヤー達に賞賛され、やがて有名プレイヤーとしてその知名度を上げていくことになる。
「|◉〻◉)有名は有名でも地雷という意味では?」
「君にだけは言われたくなかった」
ヘンテコで奇抜なプレイヤー、NPC多数!
圧倒的〝ほのぼの〟で送るMMO活劇、ここに開幕。
===========目録======================
1章:お爺ちゃんとVR 【1〜57話】
2章:お爺ちゃんとクラン 【58〜108話】
3章:お爺ちゃんと古代の導き【109〜238話】
4章:お爺ちゃんと生配信 【239話〜355話】
5章:お爺ちゃんと聖魔大戦 【356話〜497話】
====================================
2020.03.21_掲載
2020.05.24_100話達成
2020.09.29_200話達成
2021.02.19_300話達成
2021.11.05_400話達成
2022.06.25_完結!
旧支配者のカプリチオ ~日本×1000年後×異世界化×TS×クトゥルフ神話~
ナイカナ・S・ガシャンナ
ファンタジー
■第2回ノベプラ大賞一次選考通過■
■HJ小説大賞2020後期一次選考通過■
【こういう方にオススメの作品です】
・スキルやギルドといった世界観は好き
・コンビ・カップリングが多いのも好き
・戦闘は辛勝する方が燃える
・たまにはダークなのも良いよね
・日本が話題になるとテンション上がる
・ポストアポカリプス! そういうのもあるのか
・TS(性転換)は浪漫
・TSを素直に受け入れていないとなお良い
・キャラは少しくらい狂っている方が魅力的だよね
・クトゥルフ神話に興味がある
【以下ちょっとだけ真面目なあらすじ】
西暦二〇XX年。降臨した邪神により人類は滅亡寸前に追い込まれた。
それから一〇〇〇年後、世界は剣と魔法の異世界と化していた。
主人公は二十一世紀の人間、二十九歳の会社員だ。
彼はある神秘により一〇〇〇年間も生き続け、紆余曲折を経て鬼娘に憑依した。
主人公は幾人もの狂人達と出会い、ドン引きしながらも、徐々に自らの立ち位置を確立していく。
――これは、未来に関心がなかった男が一〇〇〇年後の世界で、自らの価値を見つける話である。
※クトゥルフ神話とは言いましたが、知識ゼロでも問題なく読めます。
※2021年9月23日に設定を多少改訂致しました。シナリオは変わっていません。
※小説家になろう、ノベルアップ+、カクヨムにも掲載しています。
※この物語は法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~
夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。
多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』
一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。
主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!!
小説家になろうからの転載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる