108 / 120
第三部第二章 国奪りイベント(祭り本番)
セッション91 降参
しおりを挟む
この戦いも終わりが近付いてきた。『朱無市国警護隊』は壊滅し、『貪る手の盗賊団』は潰走した。『星の戦士団』は降伏し、『膨れ女』は死んだ。
残る敵は二人。ナイ神父と曳毬茶々だけだ。
その内の一人、ナイはステファと接戦を繰り広げていた。
「おぉあああああ――っ!」
ステファが左腕で剣を振るう。右の義腕は破損しているから左手で握るしかないのだ。逆手ではあるものの普段から盾を駆使している左手である。それなりに器用に動く。ある程度は剣を振る事も出来るのだ。
「ふっ!」
だが、それなりやある程度の技量ではナイには届かなかった。
ステファの剣をナイは拳で打ち抜く。ステファは怯まず更に幾閃もの斬撃を繰り出すが、届かない。悉く拳で返される。生身で真正面から刃に触れておきながらナイの手には傷一つ付いていない。拳を包む魔力が手甲の役割を果たしているのだ。
「そこ、甘い!」
ナイの手刀がステファの剣の腹を打つ。砕かれた剣身が幾つもの破片となって宙に散った。この剣はもう使えない。
「くっ……!」
剣を捨てつつ飛び退くステファ。着地すると同時に地面に落ちていた盾を拾う。そして盾を握った拳でナイに殴り掛かった。お得意の盾の殴打だ。
盾と拳が交錯する。やはり左手では盾の方が扱い易いらしく、ステファは先程よりもナイと格闘出来ている。
しかし、それでもまだナイには敵わない。帝国最強の武闘家である彼に生半可な技術は通用しない。ステファの戦闘スタイルは右手に剣、左手に盾を構えてこそ。左手だけの戦いでどうにかなる相手ではない。
「あぁあああああ――っ!」
だからといってステファは退く訳には行かなかった。
彼女の後ろには何十人もの人間が地に伏している。『星の戦士団』や大帝教会ステファーヌ派の面々だ。ナイに挑み、撃沈した前衛の者達だ。後衛に引き戻され、治癒を受けているが回復は遠い。今や前衛はステファ一人しか残っていないのだ。
ここでステファが倒れれば後がない。故にステファはたった一人でも奮闘しなくてはならない。だが、
「『牛角双拳』――!」
現実は非情だった。
ナイの右拳が盾を突き上げ、隙の出来たステファに左拳が叩き込まれる。甲冑が割れる程の一撃を喰らったステファは踵で地面に轍を作りながら後退りを余儀なくされた。
「では、とどめです――『旋鼠掌』!」
そんなステファにナイは容赦なく掌底を繰り出す。逃げようにもステファは先の一撃の衝撃と痛みで全身が一時的に麻痺してしまっている。逃げられない。
突如、ステファが横に突き飛ばされた。
彼女を押したのはローランだった。
「ぬぁあああああ――っ!」
「伯父様!」
ステファの代わりにローランがナイの掌底を受ける。奇しくも命中したのは左胸――ステファが先程の戦闘で切り裂いた箇所だった。この傷が決め手となってローランは今までダウンしていたのだ。
掌底と旋回する気がローランの左胸を抉る。甲冑が更に割れ、破片が飛んだ。重心と筋力が安定している故か、かつてステファが喰らった時のように弾き飛ばされる事はなかったが、たまらずローランは地面に膝を突いた。
「おや、あの傷で動けるとは思っていなかったのですが……ああ、『初級治癒聖術』の重ね掛けで傷の応急処置だけでなく、体力の回復もしたのですか。成程、それなら一瞬だけなら動く事も可能でしょうね」
「貴方、伯父様によくも……!」
伯父を傷付けられたステファが激昂する。盾を握る拳に力を込め、ナイへと向かう。
「――降参です」
しかし、彼女の突撃はナイに制止された。
「……は?」
「ですから、降参です。私の負けだと言ったのですよ」
両手を上げて降参の意を示すナイ。そんな彼にステファはただただ困惑するばかりだ。当然のリアクションだ。『五渾将』が自ら負けたという不可解さもさる事ながら、負けたというのにナイの態度はあまりにも飄々とし過ぎていた。
「あちらの空を御覧下さい」
「…………!」
困り果てるステファにナイは山頂方面の夜空を指し示す。
そこには巨大な球体が浮かんでいた。
直径一〇〇メートル……否、一五〇メートルはあるだろうか。表面は錆びた鉄の如き赤色に覆われており、荒廃した惑星を思わせる。一筋入った亀裂の中には一つの眼球があり、石の瞳で地上を見ろしていた。
「な……んですか、あれは……!?」
「恐らくは曳毬茶々が出したものでしょう。貴女が知らないとなるとイタチや三護のものではない。そして、私はあれが信長の仕業ではない事を知っている。となれば、消去法で曳毬しかありえません」
どこまでも落ち着いた口調でナイは言う。
「あれが落ちれば貴女がたのリーダーは死ぬでしょう。逆にあれが破られたならば曳毬茶々に次の手はないでしょう。あれ程の大技であれば余力など残りますまい。つまり、結果がどちらに転ぼうとも決着となります。ロキの奪還に私は間に合わなかった、という事ですよ。
だから、降参です」
「…………」
球体が醸す威圧感に飲まれたステファはナイに言葉を返す事が出来ない。ただ唖然とした顔で空を見上げるだけだ。団員達もステファーヌ派も皆、同じ様相を呈している。
「藍兎さん……」
ステファの口から小さく零れた名前は、頂上にいる僕の名だった。
残る敵は二人。ナイ神父と曳毬茶々だけだ。
その内の一人、ナイはステファと接戦を繰り広げていた。
「おぉあああああ――っ!」
ステファが左腕で剣を振るう。右の義腕は破損しているから左手で握るしかないのだ。逆手ではあるものの普段から盾を駆使している左手である。それなりに器用に動く。ある程度は剣を振る事も出来るのだ。
「ふっ!」
だが、それなりやある程度の技量ではナイには届かなかった。
ステファの剣をナイは拳で打ち抜く。ステファは怯まず更に幾閃もの斬撃を繰り出すが、届かない。悉く拳で返される。生身で真正面から刃に触れておきながらナイの手には傷一つ付いていない。拳を包む魔力が手甲の役割を果たしているのだ。
「そこ、甘い!」
ナイの手刀がステファの剣の腹を打つ。砕かれた剣身が幾つもの破片となって宙に散った。この剣はもう使えない。
「くっ……!」
剣を捨てつつ飛び退くステファ。着地すると同時に地面に落ちていた盾を拾う。そして盾を握った拳でナイに殴り掛かった。お得意の盾の殴打だ。
盾と拳が交錯する。やはり左手では盾の方が扱い易いらしく、ステファは先程よりもナイと格闘出来ている。
しかし、それでもまだナイには敵わない。帝国最強の武闘家である彼に生半可な技術は通用しない。ステファの戦闘スタイルは右手に剣、左手に盾を構えてこそ。左手だけの戦いでどうにかなる相手ではない。
「あぁあああああ――っ!」
だからといってステファは退く訳には行かなかった。
彼女の後ろには何十人もの人間が地に伏している。『星の戦士団』や大帝教会ステファーヌ派の面々だ。ナイに挑み、撃沈した前衛の者達だ。後衛に引き戻され、治癒を受けているが回復は遠い。今や前衛はステファ一人しか残っていないのだ。
ここでステファが倒れれば後がない。故にステファはたった一人でも奮闘しなくてはならない。だが、
「『牛角双拳』――!」
現実は非情だった。
ナイの右拳が盾を突き上げ、隙の出来たステファに左拳が叩き込まれる。甲冑が割れる程の一撃を喰らったステファは踵で地面に轍を作りながら後退りを余儀なくされた。
「では、とどめです――『旋鼠掌』!」
そんなステファにナイは容赦なく掌底を繰り出す。逃げようにもステファは先の一撃の衝撃と痛みで全身が一時的に麻痺してしまっている。逃げられない。
突如、ステファが横に突き飛ばされた。
彼女を押したのはローランだった。
「ぬぁあああああ――っ!」
「伯父様!」
ステファの代わりにローランがナイの掌底を受ける。奇しくも命中したのは左胸――ステファが先程の戦闘で切り裂いた箇所だった。この傷が決め手となってローランは今までダウンしていたのだ。
掌底と旋回する気がローランの左胸を抉る。甲冑が更に割れ、破片が飛んだ。重心と筋力が安定している故か、かつてステファが喰らった時のように弾き飛ばされる事はなかったが、たまらずローランは地面に膝を突いた。
「おや、あの傷で動けるとは思っていなかったのですが……ああ、『初級治癒聖術』の重ね掛けで傷の応急処置だけでなく、体力の回復もしたのですか。成程、それなら一瞬だけなら動く事も可能でしょうね」
「貴方、伯父様によくも……!」
伯父を傷付けられたステファが激昂する。盾を握る拳に力を込め、ナイへと向かう。
「――降参です」
しかし、彼女の突撃はナイに制止された。
「……は?」
「ですから、降参です。私の負けだと言ったのですよ」
両手を上げて降参の意を示すナイ。そんな彼にステファはただただ困惑するばかりだ。当然のリアクションだ。『五渾将』が自ら負けたという不可解さもさる事ながら、負けたというのにナイの態度はあまりにも飄々とし過ぎていた。
「あちらの空を御覧下さい」
「…………!」
困り果てるステファにナイは山頂方面の夜空を指し示す。
そこには巨大な球体が浮かんでいた。
直径一〇〇メートル……否、一五〇メートルはあるだろうか。表面は錆びた鉄の如き赤色に覆われており、荒廃した惑星を思わせる。一筋入った亀裂の中には一つの眼球があり、石の瞳で地上を見ろしていた。
「な……んですか、あれは……!?」
「恐らくは曳毬茶々が出したものでしょう。貴女が知らないとなるとイタチや三護のものではない。そして、私はあれが信長の仕業ではない事を知っている。となれば、消去法で曳毬しかありえません」
どこまでも落ち着いた口調でナイは言う。
「あれが落ちれば貴女がたのリーダーは死ぬでしょう。逆にあれが破られたならば曳毬茶々に次の手はないでしょう。あれ程の大技であれば余力など残りますまい。つまり、結果がどちらに転ぼうとも決着となります。ロキの奪還に私は間に合わなかった、という事ですよ。
だから、降参です」
「…………」
球体が醸す威圧感に飲まれたステファはナイに言葉を返す事が出来ない。ただ唖然とした顔で空を見上げるだけだ。団員達もステファーヌ派も皆、同じ様相を呈している。
「藍兎さん……」
ステファの口から小さく零れた名前は、頂上にいる僕の名だった。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる