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第三部第二章 国奪りイベント(祭り本番)
セッション80 火銃
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戦場に沈黙が下りる。イタチが考え込んでいたのは数秒か十数秒か。一度目を閉じ、深く息を吸った。目を開き、息を吐いた時には既に結論は出ていた。
イタチが信長を真正面から見据え、言う。
「良いだろう、殺せるものなら殺すが良い。どうせ止めても最早止まらんのだろう。好きにせよ」
「ちょっとイタチ、貴方……!」
「ただし」
ヘルの反論をイタチが「ただし」で抑える。
「幾つか確認させて貰うぞ。まず一つ目。急な話なのでな。こちらも心の準備が出来ていない。『ナイ神父』や『膨れ女』が敵対行動を取るというのなら、思わず返り討ちにしてしまってもそれは仕方がない事だな?」
イタチの確認に信長が首肯する。
「であるか。良いぜ、そっちの方が面白い」
「明言したな。撤回は利かんぞ」
「構わねえよ。出来るもんならやってみな」
信長が歯を剥き出しにして嗤う。
その余裕の態度はステファ達が『五渾将』に勝てる訳がないと侮っているからか。それとも、同胞が返り討ちに遭う事など気にも留めないというのだろうか。
「二つ目の確認だ。お前らの中の誰かを『膨れ女』に嗾ける事は可能か?」
「可能だな。先の発言に従い、俺達三人は今回、お前らに絶対的に味方する。同国の人間が相手であろうと牙を剥く事は辞さない」
「はんっ。どうだか」
信長の返答にヘルが疑いの目を向ける。だが、当然信長はそんな視線など意に介さない。
「三つ目。シロワニ、貴様、報酬は要らんのか?」
「うん。今、物質的に欲しい物はないかな。私は殺しがしたいだけ」
「……そうか」
シロワニがあっけらかんと物騒な事を言う。以上で聞きたい事を終えたイタチは最初にこう指示を出した。
「では、帝国皇女シロワニ・マーシュに命じよう。急ぎ理伏に合流し、『膨れ女』己則天と『貪る手の盗賊団』を撃滅せよ」
「カプリチオ・ハウスのリーダー、阿漣イタチ。その命に応えよう」
シロワニが仰々しく頷く。
「『暗黒のファラオ』ネフレン=カ。冥王ヘルの器、俺様は譲渡を許可をしよう。三護の承諾は今は難しいが、後で必ず説得する」
「了解、新国王。今はその言葉を担保としよう」
「イタチ! 汝……!」
「三護。今はこっちの儀式を完成させるのが最優先だ。貴様とて何が何でも結果を見たいだろう?」
「ぐぬ……ぬぬう!」
イタチが僕を指差す。正確には僕を中心とした環状列石をだ。力場が壊された今でもなお列石は儀式を続けている。三護が歯噛みをするが、その時だった。
「D――!」
竜の悲鳴が響いた。
見上げれば黒竜ニーズヘッグが傷だらけになっていた。曳毬の飛竜も負傷しているが、夜空に健在だ。飛竜の周囲には数体の烏天狗や狐火が浮いており、数の暴力で押し切ったようだ。
ニーズヘッグが耐え兼ねて空の彼方へと逃亡する。眼前の邪魔者がいなくなった事で曳毬の目が僕達へと戻った。
「はぁ、はぁ……あー! やっと追っ払えた。さあ再開しよっか!」
荒く呼吸しながら曳毬が巻物を開く。巻物から現れたのは三十体もの烏天狗だ。あれだけ招来した後でまだあんなに出せるとは。百鬼夜行の文字通り、百体は巻物の中に控えさせているのかもしれない。
「信長、貴様は曳毬の相手だ! 問題ないな?」
「であるか! 任されよう!」
「よし、散開! 行け、貴様ら!」
イタチの号令に従い、シロワニとネフレンが山を駆け降りる。二人を背景に信長が手に持っていた物を振りかざした。一二〇センチメートル程度の棒――火縄銃だ。
「それは銃か。しかし汝の国は……」
「そうだ。銃は北条共和国の特産物だ。ダーグアオン帝国にはない代物だ」
剣と魔法の世界となったこの時代、銃は殆ど流通していない。一〇〇〇年もの年月が経過して技術が失われた今、北条共和国以外では再現不可能だからだ。
その共和国にしたって完全なる銃の再現は達成していない。火薬がまだ発明されていないのだ。機械文明国とはいえ、その基礎は科学ではない。魔法だ。この時代は何もかもが魔法で成り立っている。今ある銃は魔法銃なのだ。
「俺なら黒色火薬の作り方は知っているんだが、銃の方が作れねえ。共和国と共同開発すれば出来るんだろうが、敵国と手を繋ぐ気はねえ。銃の再登場はまだまだ先の話だろうよ。是非もない」
「じゃあ、それは何よ?」
「実は銃じゃねえんだよ、これ。魔法使いの杖が一番近い」
「杖? それが?」
ヘルの疑心に信長が頷く。ヘルの気持ちは分かる。確かに魔法使いの杖にはとても見えない。どこからどう見ても火縄銃そのものだ。
「俺の趣味で見た目だけは銃にしているがな。だが、そんじょそこらの銃よりもずっと強ぇぜ。――見てな」
十体の烏天狗が怒涛の勢いで押し寄せる。迫る敵陣に信長は落ち着いた様子で銃を構え、
「――堕とせ、『第六天魔炎起』!」
引き金を引いた。
銃口を模した先端から火の玉が射出される。火の玉は烏天狗の胸部を貫き、仰け反らせた。心臓を失った烏天狗が靄へと帰る。
「そら、そらそらそらそらぁ!」
信長が四回五回と引き金を引く。火の玉は胸部や頭部といった急所を違わず撃ち砕き、五体の烏天狗を粉砕した。
「『変生・処徒銃』――!」
銃が一瞬輝いた。銃口が火を噴くと、今度は小さな火の玉が複数ばら撒かれた。三体の烏天狗が纏めて吹き飛ばされる。信長が続けて二回引き金を引く。合計五体の烏天狗を撃ち砕いた。
「『変生・魔針銃』――!」
引き金を押しっぱなしにする。連射する火の玉が弾幕となって烏天狗を襲った。十一体もの烏天狗が蜂の巣となり、霧散する。
過半数の仲間を一気に失った烏天狗だが、しかし元は絵だ。動揺はない。残り五体となってもなお信長へと殺到する。
「おおっと。俺は銃だけじゃねえんだぜ」
銃を右手に持ったまま左手で刀を抜く信長。自ら烏天狗に接近し、その刃を振るった。夜闇に刃のきらめきが踊り、瞬く間に四体もの烏天狗を斬り払う。
残り一体。最後の烏天狗が飛翔する。不利を悟って離脱したのだ。遠ざかる背中は剣でも槍でも届かない。魔術で強化された弓でもなければ難しい距離だ。
「逃がさねえよ――『変生・主奈威破雷降』!」
銃に横に円と十字の炎が描かれる。照準器だ。
銃声が響く。火の玉が烏天狗の首に命中し、刎ね飛ばした。致命傷を負った烏天狗が靄と散る。これで三十体もの烏天狗が信長一人によって殲滅された。凄まじい火力だ。
「……ふん。その火力一辺倒は相変わらずだな」
「攻撃は最大の防御なりってな。やられる前にやっちまえば良いのさ」
そう嘯く信長は御機嫌だった。弟分に良い格好を見せられて気分が良いのだろう。
鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気のまま信長は天を見上げる。天より見下ろす曳毬と信長の視線が交錯した。
「さあて、次は何を出す? それとも降参するか? 絵師よ」
「まさか! まだまだ見せたい作品はあるんだよ! ――『招来・児雷也ツァトゥグァ』、『招来・大蛇丸イグ』!」
巻物から二体の怪物が現れる。一体は毛むくじゃらの蟇蛙のような生物。もう一体は蛇に手足がついた龍に似た生物だ。いずれもホッキョクグマ程の大きさだ。
ツァトゥグァといえば山岳連邦の土地神だ。イグも二荒王国の土地神である。本物ではないとはいえ、その二柱を使役するなど、神様だけでなく両国民にも怒られそうな真似をする。
「イタクァに続いて更に神の模造品を出してくるとはな。本当どこまでもブレーキのねえ奴だ」
口端を歪めながら信長が銃口を二柱に向ける。模造品とはいえ神を相手に些かの不安も懐いていなかった。
「是非に及ばず。偽物共、俺が焼いてやろうじゃねえか」
信長らの挑発に呼応した二柱が吠える。
蛇と蛙の怪物が信長へと飛び掛かった。
イタチが信長を真正面から見据え、言う。
「良いだろう、殺せるものなら殺すが良い。どうせ止めても最早止まらんのだろう。好きにせよ」
「ちょっとイタチ、貴方……!」
「ただし」
ヘルの反論をイタチが「ただし」で抑える。
「幾つか確認させて貰うぞ。まず一つ目。急な話なのでな。こちらも心の準備が出来ていない。『ナイ神父』や『膨れ女』が敵対行動を取るというのなら、思わず返り討ちにしてしまってもそれは仕方がない事だな?」
イタチの確認に信長が首肯する。
「であるか。良いぜ、そっちの方が面白い」
「明言したな。撤回は利かんぞ」
「構わねえよ。出来るもんならやってみな」
信長が歯を剥き出しにして嗤う。
その余裕の態度はステファ達が『五渾将』に勝てる訳がないと侮っているからか。それとも、同胞が返り討ちに遭う事など気にも留めないというのだろうか。
「二つ目の確認だ。お前らの中の誰かを『膨れ女』に嗾ける事は可能か?」
「可能だな。先の発言に従い、俺達三人は今回、お前らに絶対的に味方する。同国の人間が相手であろうと牙を剥く事は辞さない」
「はんっ。どうだか」
信長の返答にヘルが疑いの目を向ける。だが、当然信長はそんな視線など意に介さない。
「三つ目。シロワニ、貴様、報酬は要らんのか?」
「うん。今、物質的に欲しい物はないかな。私は殺しがしたいだけ」
「……そうか」
シロワニがあっけらかんと物騒な事を言う。以上で聞きたい事を終えたイタチは最初にこう指示を出した。
「では、帝国皇女シロワニ・マーシュに命じよう。急ぎ理伏に合流し、『膨れ女』己則天と『貪る手の盗賊団』を撃滅せよ」
「カプリチオ・ハウスのリーダー、阿漣イタチ。その命に応えよう」
シロワニが仰々しく頷く。
「『暗黒のファラオ』ネフレン=カ。冥王ヘルの器、俺様は譲渡を許可をしよう。三護の承諾は今は難しいが、後で必ず説得する」
「了解、新国王。今はその言葉を担保としよう」
「イタチ! 汝……!」
「三護。今はこっちの儀式を完成させるのが最優先だ。貴様とて何が何でも結果を見たいだろう?」
「ぐぬ……ぬぬう!」
イタチが僕を指差す。正確には僕を中心とした環状列石をだ。力場が壊された今でもなお列石は儀式を続けている。三護が歯噛みをするが、その時だった。
「D――!」
竜の悲鳴が響いた。
見上げれば黒竜ニーズヘッグが傷だらけになっていた。曳毬の飛竜も負傷しているが、夜空に健在だ。飛竜の周囲には数体の烏天狗や狐火が浮いており、数の暴力で押し切ったようだ。
ニーズヘッグが耐え兼ねて空の彼方へと逃亡する。眼前の邪魔者がいなくなった事で曳毬の目が僕達へと戻った。
「はぁ、はぁ……あー! やっと追っ払えた。さあ再開しよっか!」
荒く呼吸しながら曳毬が巻物を開く。巻物から現れたのは三十体もの烏天狗だ。あれだけ招来した後でまだあんなに出せるとは。百鬼夜行の文字通り、百体は巻物の中に控えさせているのかもしれない。
「信長、貴様は曳毬の相手だ! 問題ないな?」
「であるか! 任されよう!」
「よし、散開! 行け、貴様ら!」
イタチの号令に従い、シロワニとネフレンが山を駆け降りる。二人を背景に信長が手に持っていた物を振りかざした。一二〇センチメートル程度の棒――火縄銃だ。
「それは銃か。しかし汝の国は……」
「そうだ。銃は北条共和国の特産物だ。ダーグアオン帝国にはない代物だ」
剣と魔法の世界となったこの時代、銃は殆ど流通していない。一〇〇〇年もの年月が経過して技術が失われた今、北条共和国以外では再現不可能だからだ。
その共和国にしたって完全なる銃の再現は達成していない。火薬がまだ発明されていないのだ。機械文明国とはいえ、その基礎は科学ではない。魔法だ。この時代は何もかもが魔法で成り立っている。今ある銃は魔法銃なのだ。
「俺なら黒色火薬の作り方は知っているんだが、銃の方が作れねえ。共和国と共同開発すれば出来るんだろうが、敵国と手を繋ぐ気はねえ。銃の再登場はまだまだ先の話だろうよ。是非もない」
「じゃあ、それは何よ?」
「実は銃じゃねえんだよ、これ。魔法使いの杖が一番近い」
「杖? それが?」
ヘルの疑心に信長が頷く。ヘルの気持ちは分かる。確かに魔法使いの杖にはとても見えない。どこからどう見ても火縄銃そのものだ。
「俺の趣味で見た目だけは銃にしているがな。だが、そんじょそこらの銃よりもずっと強ぇぜ。――見てな」
十体の烏天狗が怒涛の勢いで押し寄せる。迫る敵陣に信長は落ち着いた様子で銃を構え、
「――堕とせ、『第六天魔炎起』!」
引き金を引いた。
銃口を模した先端から火の玉が射出される。火の玉は烏天狗の胸部を貫き、仰け反らせた。心臓を失った烏天狗が靄へと帰る。
「そら、そらそらそらそらぁ!」
信長が四回五回と引き金を引く。火の玉は胸部や頭部といった急所を違わず撃ち砕き、五体の烏天狗を粉砕した。
「『変生・処徒銃』――!」
銃が一瞬輝いた。銃口が火を噴くと、今度は小さな火の玉が複数ばら撒かれた。三体の烏天狗が纏めて吹き飛ばされる。信長が続けて二回引き金を引く。合計五体の烏天狗を撃ち砕いた。
「『変生・魔針銃』――!」
引き金を押しっぱなしにする。連射する火の玉が弾幕となって烏天狗を襲った。十一体もの烏天狗が蜂の巣となり、霧散する。
過半数の仲間を一気に失った烏天狗だが、しかし元は絵だ。動揺はない。残り五体となってもなお信長へと殺到する。
「おおっと。俺は銃だけじゃねえんだぜ」
銃を右手に持ったまま左手で刀を抜く信長。自ら烏天狗に接近し、その刃を振るった。夜闇に刃のきらめきが踊り、瞬く間に四体もの烏天狗を斬り払う。
残り一体。最後の烏天狗が飛翔する。不利を悟って離脱したのだ。遠ざかる背中は剣でも槍でも届かない。魔術で強化された弓でもなければ難しい距離だ。
「逃がさねえよ――『変生・主奈威破雷降』!」
銃に横に円と十字の炎が描かれる。照準器だ。
銃声が響く。火の玉が烏天狗の首に命中し、刎ね飛ばした。致命傷を負った烏天狗が靄と散る。これで三十体もの烏天狗が信長一人によって殲滅された。凄まじい火力だ。
「……ふん。その火力一辺倒は相変わらずだな」
「攻撃は最大の防御なりってな。やられる前にやっちまえば良いのさ」
そう嘯く信長は御機嫌だった。弟分に良い格好を見せられて気分が良いのだろう。
鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気のまま信長は天を見上げる。天より見下ろす曳毬と信長の視線が交錯した。
「さあて、次は何を出す? それとも降参するか? 絵師よ」
「まさか! まだまだ見せたい作品はあるんだよ! ――『招来・児雷也ツァトゥグァ』、『招来・大蛇丸イグ』!」
巻物から二体の怪物が現れる。一体は毛むくじゃらの蟇蛙のような生物。もう一体は蛇に手足がついた龍に似た生物だ。いずれもホッキョクグマ程の大きさだ。
ツァトゥグァといえば山岳連邦の土地神だ。イグも二荒王国の土地神である。本物ではないとはいえ、その二柱を使役するなど、神様だけでなく両国民にも怒られそうな真似をする。
「イタクァに続いて更に神の模造品を出してくるとはな。本当どこまでもブレーキのねえ奴だ」
口端を歪めながら信長が銃口を二柱に向ける。模造品とはいえ神を相手に些かの不安も懐いていなかった。
「是非に及ばず。偽物共、俺が焼いてやろうじゃねえか」
信長らの挑発に呼応した二柱が吠える。
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