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第三部第一章 国奪りイベント(祭りの前)
セッション69 失笑
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『――という感じだね、市国貴族側の状況』
魔導書越しに灰夜が報告を終える。
僕達が今いるのは理伏の家だ。報告は全員が揃ってからが良いだろうとここに移動した。三護や理伏、ハクも集まっている。
「先に訊いて良いか? なんでメイドやってんだ、灰夜? 冒険者ギルドに戻ったって聞いてたんだけど」
『いやあ、あまりにもギルドに動きがなくて退屈だったものでね。何か得られるものはないかと網帝寺家にも潜入してみたんだ。あの家、メイドがコロコロ入れ替わるから誤魔化すのは楽だったよ』
などと宣う灰夜の背後からは物音がひっきりなしに聞こえる。音から察するにどうも掃除をしているらしい。有紗とやらに部屋の片付けを頼まれたからやっているのだろうが、妙な所で律儀な奴だ。
「しかし、『星の戦士団』ですか……」
ステファが市国に雇われた傭兵ギルドの名を口にする。
「『星の戦士団』っつーのがどうかしたのか、ステファ?」
「……いえ、そこの団長とは知り合いというだけでして。お気になさらないで下さい」
ステファはそう言ったが、その横顔は険しいままだった。単なる知り合いとは思えない表情だ。とはいえ、「気にするな」と言われた事を無理に聞き出す事も出来ない。ここは一旦放置するしかないか。
「団長はともかく、『星の戦士団』といえば特A級の傭兵ギルドだ。メンバー総数は一万人を超える。流石に秩父盆地は狭過ぎる故、全戦力を投入してくる事はなかろうが、それでも相当な脅威になるだろうな」
「成程……」
一万人か。ゴブリン事変の安宿部明日音を思い出すな。あの時はゴブリン共一体一体が弱かったから何とかなったが、今回は一人一人が鍛錬を積んできた傭兵だ。楽には勝てないだろうな。
「『貪る手の盗賊団』はどういう組織なんだ?」
「一言で言えば外道だな。『星の戦士団』は癖がなく、単純にパラメーターが優れている奴らが多いが、『貪る手の盗賊団』は搦め手を好む。不意討ち、騙し討ち、毒殺、罠、人質、情報攪乱など相手が全力を出せない作戦を良く使うな」
「アウトローだなー」
盗賊ギルドを名乗るからにはそれなりに汚いだろうとは思っていたが、予想以上に外道だ。
というか、盗賊ギルドってのがそもそもどうなのだろう。盗賊って普通に犯罪者じゃねーのか。取り締まらなくて良いのか。かつて職業が盗賊だった僕が言えた義理じゃねーけど。まあアレは和芭のを受け継いでいただけだしな。
「ギルドとしての盗賊は政府と癒着していますので。多額の献金をしている他、有力者から暗殺や密売といった裏の依頼を請け負っています。ですので、政府としては彼らを取り締まらないのではなく、取り締まれないんです」
「ギルド本部としても奴らの情報網は大いに活用しているしな。あちこちに根を張る盗賊ギルドの影響力は本部としても捨て置けん」
とはいえ、表立った犯罪はNGだという。組織的犯罪集団でありながら政府と繋がりを持つ。裏社会の情報網を持っているが故に存在を見逃される。何というかマフィアみたいな連中だな。
そうなると、ギルドに所属していなかった和芭達はガチの犯罪者だったんだな。何やってんだ、あいつら。飯綱会長がキレるのもむべなるかな。
「曳毬茶々は? どうよ、三護?」
曳毬は三護と幼馴染なのだという。であれば、三護は曳毬について何かしら知っている筈だ。
「強いぞ。……魔術師というのは大なり小なり皆、発狂しておる。魔術を覚える度に正気が失われるからのぅ。そんな魔術師の中でも『狂い描き』と評されたのが茶々じゃ。全盛期のあ奴の恐ろしさを我は知っておる……!」
「狂人にすら狂人と呼ばれる存在か……」
あの曳毬がそんなにヤベー奴だったとは。
カダスの神殿での出来事を思い返す。あの時、僕は転職した際の反動で発狂した。狂気に突き動かされ、自殺しそうになった僕を止めたのは絵画から実体化した腕だった。あの魔術の発動速度、拘束力は見事だった。あれが敵に回るのかと思うと背筋が寒いな。
「『朱無市国警護隊』の戦力は?」
「戦士団や盗賊団に比べればパッとしませんが、それは警護隊だけを見た場合の評価です。二つのギルドに彼らが加わるとなれば、こちらのトドメに成り得るかと。楽観視は出来ませんね」
「ふーむ……で、どうだ、イタチ? 勝てそうか?」
「現状では不可能だな。ステファーヌ派と風魔忍軍だけでは到底届かん」
「えっ、ヤバいじゃん! どうするの?」
イタチの返答にハクが焦りの顔をする。
「案ずるな、俺様は覇王だ。天運は常に俺様に味方している。例えば、隠し玉の件とかな。準備期間がたっぷりあったお陰でいつでも動かせる」
それに、とイタチは静かに笑う。
「ぱっと見だけでも奴らには弱点がある。そこを突けばより有利になれるかもしれん」
「弱点?」
そうなのか? 僕にはさっぱり分からないけど。
周りを見るとステファと理伏は分かっていそうな顔をしていて、三護とハクは分かっていなさそうな顔をしていた。良かった、理解が足りていないのは僕だけじゃなかったようだな。
「灰夜。奴らはいつここに来る予定だ?」
『今、急いで出撃用意をしている。元々有紗お嬢様に急かされていたからね。今日の夜、日が沈んだ後くらいに到着すると思うよ』
「ほほう、そうか。急いで、しかも夜に来ると。ククク」
何がツボに嵌ったのか堪え切れず失笑するイタチ。こいつが何を考えているのか僕にはさっぱり分からないが、ともあれ何らかの策は持っている様子だ。であれば、とりあえずは任せてみるか。
「うむ、任せておけ。弱点の答え合わせをしてやろう」
イタチは自信満々に歯を剥き出しにして笑った。
魔導書越しに灰夜が報告を終える。
僕達が今いるのは理伏の家だ。報告は全員が揃ってからが良いだろうとここに移動した。三護や理伏、ハクも集まっている。
「先に訊いて良いか? なんでメイドやってんだ、灰夜? 冒険者ギルドに戻ったって聞いてたんだけど」
『いやあ、あまりにもギルドに動きがなくて退屈だったものでね。何か得られるものはないかと網帝寺家にも潜入してみたんだ。あの家、メイドがコロコロ入れ替わるから誤魔化すのは楽だったよ』
などと宣う灰夜の背後からは物音がひっきりなしに聞こえる。音から察するにどうも掃除をしているらしい。有紗とやらに部屋の片付けを頼まれたからやっているのだろうが、妙な所で律儀な奴だ。
「しかし、『星の戦士団』ですか……」
ステファが市国に雇われた傭兵ギルドの名を口にする。
「『星の戦士団』っつーのがどうかしたのか、ステファ?」
「……いえ、そこの団長とは知り合いというだけでして。お気になさらないで下さい」
ステファはそう言ったが、その横顔は険しいままだった。単なる知り合いとは思えない表情だ。とはいえ、「気にするな」と言われた事を無理に聞き出す事も出来ない。ここは一旦放置するしかないか。
「団長はともかく、『星の戦士団』といえば特A級の傭兵ギルドだ。メンバー総数は一万人を超える。流石に秩父盆地は狭過ぎる故、全戦力を投入してくる事はなかろうが、それでも相当な脅威になるだろうな」
「成程……」
一万人か。ゴブリン事変の安宿部明日音を思い出すな。あの時はゴブリン共一体一体が弱かったから何とかなったが、今回は一人一人が鍛錬を積んできた傭兵だ。楽には勝てないだろうな。
「『貪る手の盗賊団』はどういう組織なんだ?」
「一言で言えば外道だな。『星の戦士団』は癖がなく、単純にパラメーターが優れている奴らが多いが、『貪る手の盗賊団』は搦め手を好む。不意討ち、騙し討ち、毒殺、罠、人質、情報攪乱など相手が全力を出せない作戦を良く使うな」
「アウトローだなー」
盗賊ギルドを名乗るからにはそれなりに汚いだろうとは思っていたが、予想以上に外道だ。
というか、盗賊ギルドってのがそもそもどうなのだろう。盗賊って普通に犯罪者じゃねーのか。取り締まらなくて良いのか。かつて職業が盗賊だった僕が言えた義理じゃねーけど。まあアレは和芭のを受け継いでいただけだしな。
「ギルドとしての盗賊は政府と癒着していますので。多額の献金をしている他、有力者から暗殺や密売といった裏の依頼を請け負っています。ですので、政府としては彼らを取り締まらないのではなく、取り締まれないんです」
「ギルド本部としても奴らの情報網は大いに活用しているしな。あちこちに根を張る盗賊ギルドの影響力は本部としても捨て置けん」
とはいえ、表立った犯罪はNGだという。組織的犯罪集団でありながら政府と繋がりを持つ。裏社会の情報網を持っているが故に存在を見逃される。何というかマフィアみたいな連中だな。
そうなると、ギルドに所属していなかった和芭達はガチの犯罪者だったんだな。何やってんだ、あいつら。飯綱会長がキレるのもむべなるかな。
「曳毬茶々は? どうよ、三護?」
曳毬は三護と幼馴染なのだという。であれば、三護は曳毬について何かしら知っている筈だ。
「強いぞ。……魔術師というのは大なり小なり皆、発狂しておる。魔術を覚える度に正気が失われるからのぅ。そんな魔術師の中でも『狂い描き』と評されたのが茶々じゃ。全盛期のあ奴の恐ろしさを我は知っておる……!」
「狂人にすら狂人と呼ばれる存在か……」
あの曳毬がそんなにヤベー奴だったとは。
カダスの神殿での出来事を思い返す。あの時、僕は転職した際の反動で発狂した。狂気に突き動かされ、自殺しそうになった僕を止めたのは絵画から実体化した腕だった。あの魔術の発動速度、拘束力は見事だった。あれが敵に回るのかと思うと背筋が寒いな。
「『朱無市国警護隊』の戦力は?」
「戦士団や盗賊団に比べればパッとしませんが、それは警護隊だけを見た場合の評価です。二つのギルドに彼らが加わるとなれば、こちらのトドメに成り得るかと。楽観視は出来ませんね」
「ふーむ……で、どうだ、イタチ? 勝てそうか?」
「現状では不可能だな。ステファーヌ派と風魔忍軍だけでは到底届かん」
「えっ、ヤバいじゃん! どうするの?」
イタチの返答にハクが焦りの顔をする。
「案ずるな、俺様は覇王だ。天運は常に俺様に味方している。例えば、隠し玉の件とかな。準備期間がたっぷりあったお陰でいつでも動かせる」
それに、とイタチは静かに笑う。
「ぱっと見だけでも奴らには弱点がある。そこを突けばより有利になれるかもしれん」
「弱点?」
そうなのか? 僕にはさっぱり分からないけど。
周りを見るとステファと理伏は分かっていそうな顔をしていて、三護とハクは分かっていなさそうな顔をしていた。良かった、理解が足りていないのは僕だけじゃなかったようだな。
「灰夜。奴らはいつここに来る予定だ?」
『今、急いで出撃用意をしている。元々有紗お嬢様に急かされていたからね。今日の夜、日が沈んだ後くらいに到着すると思うよ』
「ほほう、そうか。急いで、しかも夜に来ると。ククク」
何がツボに嵌ったのか堪え切れず失笑するイタチ。こいつが何を考えているのか僕にはさっぱり分からないが、ともあれ何らかの策は持っている様子だ。であれば、とりあえずは任せてみるか。
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イタチは自信満々に歯を剥き出しにして笑った。
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