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第二部第二章 竜殺しイベント
セッション42 超人
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「ったく……強過ぎだろ、ドラゴン……!」
竜の死体を目の前にして、深々と溜息をする。
ギリギリの勝利だった。結果的にこちらに死者は出なかったが、重傷者多数だ。イタチはもう弓が引けないし、三護も安静にしていなければならない。理伏の刀も砕けてしまった。こんな有様で仮にもう一体竜と戦えと言われたら、まずお断りするだろう。
「さて、それじゃあ剥ぎ取りタイムと行くかのぅ」
「肋骨が折れたっていうのに嬉しそうだな、三護」
「ほっほ、当然じゃ。竜は鱗から肉、骨や目玉に至るまで魔力を宿すマジックアイテムじゃぞ。宝の固まりじゃ」
「へー」
ただ強いだけじゃないんだな、竜って。さすが伝説トップランカーの生物だ。
まあ、あれだけ苦戦したのだ。それくらいの御褒美はあっても良いだろう。
僕も竜の解体に参加しよう。そう思って、竜に手を伸ばした。その時、
――ミシッ、ミシミシミシッ!
「ん……?」
突然の音に伸ばした腕が止まる。これは先刻も聞いた音だ。耳を澄ませて音のする方向を捜す。が、その必要はなかった。捜すまでもなく音はあっという間に僕達の前に現れた。木々をへし折り、枝を弾いて現れた音の主――それは、
竜だった。
「…………は?」
たった今、倒した竜と同じ大きさの竜だ。竜は死んだ竜を見て、こちらに視線を向ける。怒りに満ちた目だ。同胞を殺した僕達を決して許さないと、言語はなくとも主張していた。
戦慄する僕を他所に更に音が続く。
竜がもう一体現れた。先程よりも巨大な竜だ。僕達に怒気と殺意を向けているのは言うまでもない。
「……て、て、撤退ぃいいいいい!」
誰がそう叫んだか、それは分からなかったが、僕達は一斉に逃げ出した。
「GRRRRYYYY――!」
逃げる僕達を追う竜二体。木々が彼らの巨体を阻むが、僅かな障壁にもならない。太い木も細い木も区別なく、瞬く間に伐採されていく。
「竜って一体だけじゃなかったのかよ!?」
「まさか既に子を産んでいたとは……!」
「喋るな! 全速力で走れ!」
イタチに叱られて走力を上げる。
よもや竜が親子だったとは。そして、先刻倒したのが子竜の方だったとは。間違いなく親竜は子竜よりも強いだろう。こっちは満身創痍だというのに。そんな奴、相手にしていられる訳がない。
「あ、我、もう無理……」
三護が立ち止まり、地面に膝を突く。骨折の痛みが限界を超えたのだ。
当然だ。肋骨が折れたまま走れば普通内蔵なんかぐちゃぐちゃになる。ちょっと走れただけでも大したものだ。
その三護に親竜が迫る。あの巨体に踏み潰されれば魔法使いの三護など、一瞬で平面にされてしまうだろう。
「三護さん!」
「あっ、ステファ!」
そんな絶体絶命をステファが放っておける筈がない。急ターンして三護の前まで走り、盾を構える。三護を守る気だ。しかし、二体の竜の突進に対してステファの盾がどこまで通用するか。最悪、二人揃って踏み潰されかねない。
「くそ! 王にする前に死なれてたまるかよ!」
気付いた時には僕も体が動いていた。盾を構えるステファの更に前に立つ。蘇生能力――生命を略奪する能力を持つ僕なら、あるいは竜を止められるかもしれない。そう判断しての事だ。
「おい! ……どいつもこいつも!」
イタチが憤るが、もう遅い。最早親竜の間合いだ。
親竜は足を意気揚々と上げ、僕達へと落とし――
「『剣閃一斬』×『上級大地魔術』――『妖刀・桜嵐』」
――真っ二つに切り裂かれた。
親竜が顔面から尾まで一直線に斬られた。左右に分かたれた親竜は僅かな余韻もなく死に、開きになって崩れ落ちる。
「は……え?」
「G――?」
突然の事に僕も子竜も目が点になる。
いつの間にか親竜の背後に人がいた。青年だ。黒い袖無しのマントと立襟に身を包んだ、クールな印象の美青年だ。肉体の線は細いが、纏う魔力が尋常ではない。それこそ『五渾将』に匹敵しかねない高密度だ。
彼の右手には軍刀が握られていた。たった今、縦に振り下ろしたという体勢だ。彼があの軍刀で親竜を真っ二つに斬り裂いたのは疑い様もない。
「……『上級大地魔術』」
青年が右手を掲げる。掌から重力の奔流が放たれると子竜がひしゃげ、地面に押し付けられる。ベキリとかグチャリといった骨肉が砕ける音が響いて、何の抵抗も出来ずに竜が潰れた。絶命したのは明らかだ。
「……凄ぇ。こいつ、一人で竜を二体も倒しやがった」
僕達は五人がかりでようやく一体を倒したっていうのに、なんて強さだ。まさしくチート級の強さだ。何なんだ、こいつは。
「……ふん、間に合ったか。少し焦ったぞ」
イタチがこめかみから汗を流しながらも、あくまで不遜に笑う。彼はあの青年が誰なのか知っている様だ。
「あいつがさっき言っていた『奥の手』か?」
「そうだ。俺様が助っ人に呼んでいたのだ。俺様達で手柄を独占したかったから、離れた場所に待機して貰っていたがな」
「狡いな……。けど、まあ」
理解は出来る。あんなチートが参戦していたら、僕達の仕事など皆無になっていただろう。あれは「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」というレベルの強さだ。
しかし、強いからといって彼に竜殺しを任せる訳にはいかない。竜殺しは僕達の受けた依頼だ。であれば、可能な限りは自力で達成すべきだ。今回は力及ばず、助力頂いた形になってしまったが。
「……で、結局誰なんだ、あいつは?」
青年がこちらを見る。鋭く冷たい眼光だ。あれは僕達を人間として見ていない。他人の姿は視認していても背景の一部としか認識していない、そういう人間の目付きだ。
青年のマントが風になびく。そこでようやくマントに桜吹雪の刺繍が施されている事に気付いた。
桜吹雪――桜の嵐――桜嵐。
「次の仕事の依頼人だ。気合を入れろよ」
「依頼人? もう次の仕事をやるのかよ……」
「安心しろ。長期の仕事だ。気合は欲しいが、焦る必要はない。休む時間も準備をする時間もたっぷりある」
「はあ……で、次は何をすれば良いんだよ?」
「うむ。聞いて驚け」
イタチは歯を剥き出しにして獰猛に嗤い、
「クーデターを起こすぞ」
…………。
…………。
「はあ!?」
竜の死体を目の前にして、深々と溜息をする。
ギリギリの勝利だった。結果的にこちらに死者は出なかったが、重傷者多数だ。イタチはもう弓が引けないし、三護も安静にしていなければならない。理伏の刀も砕けてしまった。こんな有様で仮にもう一体竜と戦えと言われたら、まずお断りするだろう。
「さて、それじゃあ剥ぎ取りタイムと行くかのぅ」
「肋骨が折れたっていうのに嬉しそうだな、三護」
「ほっほ、当然じゃ。竜は鱗から肉、骨や目玉に至るまで魔力を宿すマジックアイテムじゃぞ。宝の固まりじゃ」
「へー」
ただ強いだけじゃないんだな、竜って。さすが伝説トップランカーの生物だ。
まあ、あれだけ苦戦したのだ。それくらいの御褒美はあっても良いだろう。
僕も竜の解体に参加しよう。そう思って、竜に手を伸ばした。その時、
――ミシッ、ミシミシミシッ!
「ん……?」
突然の音に伸ばした腕が止まる。これは先刻も聞いた音だ。耳を澄ませて音のする方向を捜す。が、その必要はなかった。捜すまでもなく音はあっという間に僕達の前に現れた。木々をへし折り、枝を弾いて現れた音の主――それは、
竜だった。
「…………は?」
たった今、倒した竜と同じ大きさの竜だ。竜は死んだ竜を見て、こちらに視線を向ける。怒りに満ちた目だ。同胞を殺した僕達を決して許さないと、言語はなくとも主張していた。
戦慄する僕を他所に更に音が続く。
竜がもう一体現れた。先程よりも巨大な竜だ。僕達に怒気と殺意を向けているのは言うまでもない。
「……て、て、撤退ぃいいいいい!」
誰がそう叫んだか、それは分からなかったが、僕達は一斉に逃げ出した。
「GRRRRYYYY――!」
逃げる僕達を追う竜二体。木々が彼らの巨体を阻むが、僅かな障壁にもならない。太い木も細い木も区別なく、瞬く間に伐採されていく。
「竜って一体だけじゃなかったのかよ!?」
「まさか既に子を産んでいたとは……!」
「喋るな! 全速力で走れ!」
イタチに叱られて走力を上げる。
よもや竜が親子だったとは。そして、先刻倒したのが子竜の方だったとは。間違いなく親竜は子竜よりも強いだろう。こっちは満身創痍だというのに。そんな奴、相手にしていられる訳がない。
「あ、我、もう無理……」
三護が立ち止まり、地面に膝を突く。骨折の痛みが限界を超えたのだ。
当然だ。肋骨が折れたまま走れば普通内蔵なんかぐちゃぐちゃになる。ちょっと走れただけでも大したものだ。
その三護に親竜が迫る。あの巨体に踏み潰されれば魔法使いの三護など、一瞬で平面にされてしまうだろう。
「三護さん!」
「あっ、ステファ!」
そんな絶体絶命をステファが放っておける筈がない。急ターンして三護の前まで走り、盾を構える。三護を守る気だ。しかし、二体の竜の突進に対してステファの盾がどこまで通用するか。最悪、二人揃って踏み潰されかねない。
「くそ! 王にする前に死なれてたまるかよ!」
気付いた時には僕も体が動いていた。盾を構えるステファの更に前に立つ。蘇生能力――生命を略奪する能力を持つ僕なら、あるいは竜を止められるかもしれない。そう判断しての事だ。
「おい! ……どいつもこいつも!」
イタチが憤るが、もう遅い。最早親竜の間合いだ。
親竜は足を意気揚々と上げ、僕達へと落とし――
「『剣閃一斬』×『上級大地魔術』――『妖刀・桜嵐』」
――真っ二つに切り裂かれた。
親竜が顔面から尾まで一直線に斬られた。左右に分かたれた親竜は僅かな余韻もなく死に、開きになって崩れ落ちる。
「は……え?」
「G――?」
突然の事に僕も子竜も目が点になる。
いつの間にか親竜の背後に人がいた。青年だ。黒い袖無しのマントと立襟に身を包んだ、クールな印象の美青年だ。肉体の線は細いが、纏う魔力が尋常ではない。それこそ『五渾将』に匹敵しかねない高密度だ。
彼の右手には軍刀が握られていた。たった今、縦に振り下ろしたという体勢だ。彼があの軍刀で親竜を真っ二つに斬り裂いたのは疑い様もない。
「……『上級大地魔術』」
青年が右手を掲げる。掌から重力の奔流が放たれると子竜がひしゃげ、地面に押し付けられる。ベキリとかグチャリといった骨肉が砕ける音が響いて、何の抵抗も出来ずに竜が潰れた。絶命したのは明らかだ。
「……凄ぇ。こいつ、一人で竜を二体も倒しやがった」
僕達は五人がかりでようやく一体を倒したっていうのに、なんて強さだ。まさしくチート級の強さだ。何なんだ、こいつは。
「……ふん、間に合ったか。少し焦ったぞ」
イタチがこめかみから汗を流しながらも、あくまで不遜に笑う。彼はあの青年が誰なのか知っている様だ。
「あいつがさっき言っていた『奥の手』か?」
「そうだ。俺様が助っ人に呼んでいたのだ。俺様達で手柄を独占したかったから、離れた場所に待機して貰っていたがな」
「狡いな……。けど、まあ」
理解は出来る。あんなチートが参戦していたら、僕達の仕事など皆無になっていただろう。あれは「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」というレベルの強さだ。
しかし、強いからといって彼に竜殺しを任せる訳にはいかない。竜殺しは僕達の受けた依頼だ。であれば、可能な限りは自力で達成すべきだ。今回は力及ばず、助力頂いた形になってしまったが。
「……で、結局誰なんだ、あいつは?」
青年がこちらを見る。鋭く冷たい眼光だ。あれは僕達を人間として見ていない。他人の姿は視認していても背景の一部としか認識していない、そういう人間の目付きだ。
青年のマントが風になびく。そこでようやくマントに桜吹雪の刺繍が施されている事に気付いた。
桜吹雪――桜の嵐――桜嵐。
「次の仕事の依頼人だ。気合を入れろよ」
「依頼人? もう次の仕事をやるのかよ……」
「安心しろ。長期の仕事だ。気合は欲しいが、焦る必要はない。休む時間も準備をする時間もたっぷりある」
「はあ……で、次は何をすれば良いんだよ?」
「うむ。聞いて驚け」
イタチは歯を剥き出しにして獰猛に嗤い、
「クーデターを起こすぞ」
…………。
…………。
「はあ!?」
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