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第一部第三章 討伐イベント
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「ゴブリンを討伐しろって?」
僕の鸚鵡返しに理伏は頷く。
「私の村は談雨村というのですが、御存知でしょうか?」
「談雨村……いや、知らねーな。聞き覚えはあるが」
「そうですか。では、そこから説明させて頂きます」
まずは腰を落ち着けようと僕と理伏は隅のテーブルに座る。
「談雨村は秩父地方にある村の一つです。特徴のない農村で御座います。山中で交通の便が悪い為、あまり住民は多くありません。それでも、村人達は村を捨てず、田畑を耕したり出稼ぎに出たりして村を維持していました」
「……ああ、あそこか」
成程、談雨市の事か。それなら知っている。
旧埼玉県最西部――秩父山地に囲まれた盆地にあった市。市域の九〇パーセント近くが森林という自然環境に恵まれた土地であり、殆どが公園に指定されている。寒暖の差が激しく、夏季は雷雨が多く発生し、冬季は積雪に見舞われる。……というのが一〇〇〇年前の話だ。
そんな談雨市が今は談雨村と呼ばれているのか。長い年月を経て、村にまで縮小してしまったか。この時代には車も電車もないしな。是非もあるまい。
「和芭姐様は……その、都市では素行が悪かったようで、度々村の近くを隠れ家にしていました。そこで拙者と姐様は知り合ったのです」
「ああ、あいつら盗掘屋だもんな」
追われる身としては国に通報するような人が少なく、そこそこ生活必需品がある談雨村は彼女達にとっては都合の良いアジトだったのだろう。
「で、ですが、皆様気の良い方々で御座いました! 戦い方や村の外の話を教えて下さったりと、拙者も随分親切にして頂きました」
「そっかそっか。分かったよ」
慕われていたんだな、和芭の奴。
まあ必ずしも無法者=乱暴者って訳じゃないしな。盗みはするけど人は殺さない犯罪者なんてフツーにいるし。生活出来る金さえ手に入れば、無闇に罪を重ねる必要もなかろうよ。
「その談雨村が先日、ゴブリンの集団に襲われました。村には戦える人が何人かいましたが、あまりに敵の数が多く……村はあえなく占領されてしまいました。談雨村だけでなく、周辺の他の村々も……」
小鬼。
ファンタジー世界ではお馴染みの雑魚キャラだ。元々はヨーロッパの民間伝承に登場する生物であり、端的に言えば小人の一種だ。容姿は醜く、性質は邪悪であるとされる事が多い。一方で、善性を持つ者もいれば、悪性でもあっても悪戯好き程度とされる事もある。
村を占領したレベルとなれば、今回のゴブリンは極悪のようだ。
「数が多いって、どれくらいだ?」
「……最低でも一万は超えるかと」
「一万!?」
大討伐クラスじゃないか。
複数のパーティーか、あるいはAランクの冒険者が必要になる数だぞ。Aランクに名を連ねているのは英雄を名乗れる実力者ばかりだ。当然、依頼料はとんでもない高さになる。
「両親は監視の隙を突いて私を村の外へと逃がして下さいました。外に応援を呼ぶ為に、ゴブリンを討伐出来る戦力を集めさせる為に。その為の資金も預かりました。ですが……」
「……思っていたよりも冒険者の値段は高かったと」
「はい……」
しゅん、と理伏が再び消沈する。
ついでに説明しておくと、ギルドへの依頼料は丸々冒険者への報酬が占めているのではない。朱無市国への税金とギルド本部への上納金が含まれている。その分、ただでさえ高い料金が更に高くなってしまうのだ。
「あー……そうだな……ちなみに幾ら持ってんだ?」
「これくらいです」
理伏から袋を渡される。中を覗いてみると、金貨がそこそこ入っていた。この枚数ならかなりの金額になるだろう。
「とはいえ、レイドが依頼出来る金額じゃねーな」
「はい……」
俯く理伏。
どうにかしてやりたいが、この金額では冒険者ギルドは頷かないだろうな。ランクの低いパーティーを一つ雇うだけなら充分なのだが、低ランクの実力では依頼を解決出来ない。ランクに合わせた仕事を冒険者に割り振るのもギルドの大事な仕事だ。低ランクの冒険者に高ランクの仕事を紹介する程ギルドは無能ではない。
依頼内容に嘘を吐き、ギルドを騙して低ランクの冒険者を雇うという方法もあるが、外道だな。理伏の気性では無理だろう。
……しかし、この金、欲しいな。貯金をすると決めたばかりだし、どうにかこの金を得られないものか。
「やはり無茶ですよね……申し訳ありません。自分でどうにかしまする」
「まあ、待て待て。お前一人じゃどうにもならねーからギルドに来たんだろう?」
「それは……そうで御座りまするが……」
帰ろうとする理伏を引き止める。
とりあえずこいつが無茶しない様に見張る戦力だけでも必要だな。
「……パーティー一つなら雇える金はあるんだろ? だったらまずは自分の護衛を雇うってのはどうだ? 何も正面からゴブリンと対峙する必要はねーんだしさ、村人をゴブリンから逃がすだけでも良いんじゃねーか?」
「しかし、それでは村を捨てる事に……」
「全滅よりはマシだ。命あってこその物種だぜ?」
「……そう、ですね……それが現時点での最上で御座りまするか」
よしよし納得してくれたな。ひとまずは安心か。
村を捨てる決断は辛かろうが、村人全員が死んでしまったらそれはもはや村ではない。何だったらゴブリン事件が収まってからまた村に戻れば良いのだ。まあ実際に戻れる人間は少ないだろうが、可能性はゼロではない。
「で、だ。お前にお勧めしたいパーティーがいるんだが、どうだ? そのパーティーに直接依頼すれば、ギルドを通さない分、上納金は掛からねーで済む」
「お勧めで御座りまするか?」
理伏が期待と疑念が入り混じった顔で僕を見る。僕はそれに少し躊躇いながらも頷いた。……これでこの金が手に入ると思いながら。
「まあ、僕の所なんだけどな。ちょっと覗いてみるくらいはしてみるか?」
僕の鸚鵡返しに理伏は頷く。
「私の村は談雨村というのですが、御存知でしょうか?」
「談雨村……いや、知らねーな。聞き覚えはあるが」
「そうですか。では、そこから説明させて頂きます」
まずは腰を落ち着けようと僕と理伏は隅のテーブルに座る。
「談雨村は秩父地方にある村の一つです。特徴のない農村で御座います。山中で交通の便が悪い為、あまり住民は多くありません。それでも、村人達は村を捨てず、田畑を耕したり出稼ぎに出たりして村を維持していました」
「……ああ、あそこか」
成程、談雨市の事か。それなら知っている。
旧埼玉県最西部――秩父山地に囲まれた盆地にあった市。市域の九〇パーセント近くが森林という自然環境に恵まれた土地であり、殆どが公園に指定されている。寒暖の差が激しく、夏季は雷雨が多く発生し、冬季は積雪に見舞われる。……というのが一〇〇〇年前の話だ。
そんな談雨市が今は談雨村と呼ばれているのか。長い年月を経て、村にまで縮小してしまったか。この時代には車も電車もないしな。是非もあるまい。
「和芭姐様は……その、都市では素行が悪かったようで、度々村の近くを隠れ家にしていました。そこで拙者と姐様は知り合ったのです」
「ああ、あいつら盗掘屋だもんな」
追われる身としては国に通報するような人が少なく、そこそこ生活必需品がある談雨村は彼女達にとっては都合の良いアジトだったのだろう。
「で、ですが、皆様気の良い方々で御座いました! 戦い方や村の外の話を教えて下さったりと、拙者も随分親切にして頂きました」
「そっかそっか。分かったよ」
慕われていたんだな、和芭の奴。
まあ必ずしも無法者=乱暴者って訳じゃないしな。盗みはするけど人は殺さない犯罪者なんてフツーにいるし。生活出来る金さえ手に入れば、無闇に罪を重ねる必要もなかろうよ。
「その談雨村が先日、ゴブリンの集団に襲われました。村には戦える人が何人かいましたが、あまりに敵の数が多く……村はあえなく占領されてしまいました。談雨村だけでなく、周辺の他の村々も……」
小鬼。
ファンタジー世界ではお馴染みの雑魚キャラだ。元々はヨーロッパの民間伝承に登場する生物であり、端的に言えば小人の一種だ。容姿は醜く、性質は邪悪であるとされる事が多い。一方で、善性を持つ者もいれば、悪性でもあっても悪戯好き程度とされる事もある。
村を占領したレベルとなれば、今回のゴブリンは極悪のようだ。
「数が多いって、どれくらいだ?」
「……最低でも一万は超えるかと」
「一万!?」
大討伐クラスじゃないか。
複数のパーティーか、あるいはAランクの冒険者が必要になる数だぞ。Aランクに名を連ねているのは英雄を名乗れる実力者ばかりだ。当然、依頼料はとんでもない高さになる。
「両親は監視の隙を突いて私を村の外へと逃がして下さいました。外に応援を呼ぶ為に、ゴブリンを討伐出来る戦力を集めさせる為に。その為の資金も預かりました。ですが……」
「……思っていたよりも冒険者の値段は高かったと」
「はい……」
しゅん、と理伏が再び消沈する。
ついでに説明しておくと、ギルドへの依頼料は丸々冒険者への報酬が占めているのではない。朱無市国への税金とギルド本部への上納金が含まれている。その分、ただでさえ高い料金が更に高くなってしまうのだ。
「あー……そうだな……ちなみに幾ら持ってんだ?」
「これくらいです」
理伏から袋を渡される。中を覗いてみると、金貨がそこそこ入っていた。この枚数ならかなりの金額になるだろう。
「とはいえ、レイドが依頼出来る金額じゃねーな」
「はい……」
俯く理伏。
どうにかしてやりたいが、この金額では冒険者ギルドは頷かないだろうな。ランクの低いパーティーを一つ雇うだけなら充分なのだが、低ランクの実力では依頼を解決出来ない。ランクに合わせた仕事を冒険者に割り振るのもギルドの大事な仕事だ。低ランクの冒険者に高ランクの仕事を紹介する程ギルドは無能ではない。
依頼内容に嘘を吐き、ギルドを騙して低ランクの冒険者を雇うという方法もあるが、外道だな。理伏の気性では無理だろう。
……しかし、この金、欲しいな。貯金をすると決めたばかりだし、どうにかこの金を得られないものか。
「やはり無茶ですよね……申し訳ありません。自分でどうにかしまする」
「まあ、待て待て。お前一人じゃどうにもならねーからギルドに来たんだろう?」
「それは……そうで御座りまするが……」
帰ろうとする理伏を引き止める。
とりあえずこいつが無茶しない様に見張る戦力だけでも必要だな。
「……パーティー一つなら雇える金はあるんだろ? だったらまずは自分の護衛を雇うってのはどうだ? 何も正面からゴブリンと対峙する必要はねーんだしさ、村人をゴブリンから逃がすだけでも良いんじゃねーか?」
「しかし、それでは村を捨てる事に……」
「全滅よりはマシだ。命あってこその物種だぜ?」
「……そう、ですね……それが現時点での最上で御座りまするか」
よしよし納得してくれたな。ひとまずは安心か。
村を捨てる決断は辛かろうが、村人全員が死んでしまったらそれはもはや村ではない。何だったらゴブリン事件が収まってからまた村に戻れば良いのだ。まあ実際に戻れる人間は少ないだろうが、可能性はゼロではない。
「で、だ。お前にお勧めしたいパーティーがいるんだが、どうだ? そのパーティーに直接依頼すれば、ギルドを通さない分、上納金は掛からねーで済む」
「お勧めで御座りまするか?」
理伏が期待と疑念が入り混じった顔で僕を見る。僕はそれに少し躊躇いながらも頷いた。……これでこの金が手に入ると思いながら。
「まあ、僕の所なんだけどな。ちょっと覗いてみるくらいはしてみるか?」
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