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第1章 路上試合/チュートリアル
第3転 走り幅跳び世界記録更新
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「はあっ、はあっ……! そっ、それでも貴方の力が必要なのです! 異世界転生者と真正面から戦えるのは貴方しかっ……!」
「俺の他にも輪廻転生者はいるだろ! そっち当たれ!」
目に付いたビルの非常階段を駆け上る吉備之介。全速力で上りながらも呼吸はまるで乱れていない。一方のスーツの男達は大分疲弊していた。一人が階段途中で力尽きる。それでも他の四人が諦めずに吉備之介に追いすがる。
屋上まで駆け上がった吉備之介が隣のビルに跳び移る。同じように跳躍する男達。一人が失敗してビルの谷間に落ちる。次々とビルの屋上を渡る吉備之介。道中、あえて天窓を跳び越えて障害物にし、男の一人を蹴躓かせた。懸命に追う残り二人も徐々に距離が離されていく。
とはいえ、ビルの隣接がいつまでも続くとは限らない。吉備之介が着地したビルの周辺四十メートル範囲内には建物がなかった。人類の走り幅跳び世界記録は九メートル弱。とても跳び移れる距離ではない。彼の逃走劇もここまでだと男達は胸を撫で下ろした。
と思いきや、
「よっと」
屋上に着地した吉備之介はそのまま立ち止まる事なく、更に加速した。そのままの速度で床を蹴り、フェンスを踏み抜いて高く跳躍する。数瞬、滑空する吉備之介。五十メートル先にあった建物の窓を突き破り、身を転がして砕けた窓ガラスから自身を守る。
建物内に侵入した吉備之介の姿は最早目で追う事すら叶わない。屋上の取り残された二人は吉備之介の逃走をただ見送る事しかできなかった。
◇
数十分後。ある廃ビルの一室で。
「……で、完璧に撒かれたって訳?」
「申し訳ありません……」
男達は集まっていた。五人揃って跪き、頭を垂れている。
男達が跪いているのは一人の少女だ。艶のある黒髪は吉備之介とは真逆のストレートで、腰の辺りまで伸ばしている。顔立ちは完全無欠と言っても過言ではない程の美少女だが、目つきだけは気だるげだ。身に着けたブレザーは袖が腕よりもやや長く、余っている。
少女は一室の中にテーブルやティーセットを並べていた。視線は手中のスマホに向かっており、男達には目を向けようともしない。
「そんなに難題だとは思っていなかったんだけど。私の想定が甘かったのかしら? それともあんた達が期待外れだったのかしら?」
「恐れながら……あの少年の身体能力は並の人間を超えています。我々では手に負えないかと……」
恐怖と屈辱に額に汗を掻きながらも自分達の力不足を肯定する男。彼の返答を聞いて、少女は仕方なしという溜息を吐いた。
「……そう。伊達に輪廻転生者じゃないって訳。精神は現代っ子でも肉体は大英雄のそれって事ね」
「はい。お恥ずかしながら貴女様に出て頂く他にないかと。どうかお願いします」
先頭で跪いていた男が顔を上げ、少女の名に乞う。
「――『かぐや姫』様」
「俺の他にも輪廻転生者はいるだろ! そっち当たれ!」
目に付いたビルの非常階段を駆け上る吉備之介。全速力で上りながらも呼吸はまるで乱れていない。一方のスーツの男達は大分疲弊していた。一人が階段途中で力尽きる。それでも他の四人が諦めずに吉備之介に追いすがる。
屋上まで駆け上がった吉備之介が隣のビルに跳び移る。同じように跳躍する男達。一人が失敗してビルの谷間に落ちる。次々とビルの屋上を渡る吉備之介。道中、あえて天窓を跳び越えて障害物にし、男の一人を蹴躓かせた。懸命に追う残り二人も徐々に距離が離されていく。
とはいえ、ビルの隣接がいつまでも続くとは限らない。吉備之介が着地したビルの周辺四十メートル範囲内には建物がなかった。人類の走り幅跳び世界記録は九メートル弱。とても跳び移れる距離ではない。彼の逃走劇もここまでだと男達は胸を撫で下ろした。
と思いきや、
「よっと」
屋上に着地した吉備之介はそのまま立ち止まる事なく、更に加速した。そのままの速度で床を蹴り、フェンスを踏み抜いて高く跳躍する。数瞬、滑空する吉備之介。五十メートル先にあった建物の窓を突き破り、身を転がして砕けた窓ガラスから自身を守る。
建物内に侵入した吉備之介の姿は最早目で追う事すら叶わない。屋上の取り残された二人は吉備之介の逃走をただ見送る事しかできなかった。
◇
数十分後。ある廃ビルの一室で。
「……で、完璧に撒かれたって訳?」
「申し訳ありません……」
男達は集まっていた。五人揃って跪き、頭を垂れている。
男達が跪いているのは一人の少女だ。艶のある黒髪は吉備之介とは真逆のストレートで、腰の辺りまで伸ばしている。顔立ちは完全無欠と言っても過言ではない程の美少女だが、目つきだけは気だるげだ。身に着けたブレザーは袖が腕よりもやや長く、余っている。
少女は一室の中にテーブルやティーセットを並べていた。視線は手中のスマホに向かっており、男達には目を向けようともしない。
「そんなに難題だとは思っていなかったんだけど。私の想定が甘かったのかしら? それともあんた達が期待外れだったのかしら?」
「恐れながら……あの少年の身体能力は並の人間を超えています。我々では手に負えないかと……」
恐怖と屈辱に額に汗を掻きながらも自分達の力不足を肯定する男。彼の返答を聞いて、少女は仕方なしという溜息を吐いた。
「……そう。伊達に輪廻転生者じゃないって訳。精神は現代っ子でも肉体は大英雄のそれって事ね」
「はい。お恥ずかしながら貴女様に出て頂く他にないかと。どうかお願いします」
先頭で跪いていた男が顔を上げ、少女の名に乞う。
「――『かぐや姫』様」
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