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第2章 先鋒戦
第16転 悪神の手
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哪吒が双剣で、イゴロウが短剣で攻防を展開する。先程の槍と短剣との戦いでは互角だったが、今は哪吒の方がやや優勢だった。双剣は刃渡り四〇センチメートルと短めだ。槍よりもリーチがない代わりに小回りが利く。その結果、哪吒がスピードで勝るようになったのだ。
「ちっ……クソが!」
イゴロウが徐々に押されていく。苛立ちを露にするが、舌打ちしたからとて解決する筈もない。やがて劣勢が明確な隙を生んだ。その隙を逃さず、哪吒が横一文字に黒剣を奔らせる。イゴロウを胴斬りする剣筋だ。
だが、それを易々と許す程、イゴロウも甘くない。
「【盗神の手】!」
黒剣をイゴロウが奪う。当然、武器を失った哪吒の左手は宙を空振りした。間髪入れずに黒剣を振り下ろすイゴロウ。哪吒も白剣を振り上げて応じる。黒き刃と白き刃が正面から激突する。
「――【陰陽剣・反発】」
刹那、哪吒が宝貝の力を使用した。先程の接着とは真逆、斥力を発生させる力だ。反発し合う双剣。まるで爆撃のような反発力に耐えられず、哪吒もイゴロウも剣を手放してしまった。
「――【乾坤圏】」
間髪入れず輪刃を撃ち出す哪吒。今度の刃は二本――両腕両方の射出だ。
「【ダイスボム】――!」
イゴロウが懐からサイコロを二つ取り出し、投擲する。サイコロと輪刃がぶつかるとサイコロが爆発した。その威力たるや凄まじく、地面が抉られて巻き上げられた。もうもうと昇る土煙が二人の姿を一時的に隠す。
◇
「何だ、今の!? あんな小さいのが凄ぇ爆発したぞ!」
観客席から吉備之介が驚きの声を上げる。『桃太郎』として覚醒した彼の目は遠方からでもイゴロウが取り出した物をしっかりと視認していた。
驚きはだからこそだ。掌に収まる程度の物があそこまでの大爆発を起こす事が、吉備之介の常識では衝撃的だったのだ。
「【ダイスボム】よ。向こうの世界にある魔法道具」
そんな吉備之介に竹が説明をする。視線は相変わらずスマホに向けられていたが。
「火薬の代わりに運命力を込めて、出たサイコロの目に応じて爆発の威力が変わるっていう仕組みね」
「運命力? そんな概念ありなのかよ?」
「ありなのよ。それが『ステータスに幸運値がある』のが常識の世界なんだから」
明確に数値に表せるという事は、実在がはっきりしている事だ。実在しているという事は利用が可能という事である。異世界にはそうやって概念に干渉する技術が多々あるのだ。
「幸運値が他人の五〇〇倍のイゴロウなら、サイコロの目も自由自在って訳ね」
科学では到底不可能な成果を実現する。それが魔法世界の特権だった。
◇
土煙に隠れてイゴロウが動く。『盗賊』である彼にとって視覚に頼れない状況も気配を殺すのも容易い所業だ。哪吒の背後を取ったイゴロウが無慈悲に刃を振り下ろす。
「――【混天綾】」
しかし攻撃の刹那、僅かにイゴロウの殺気が漏れた。その殺気に敏感に反応し、哪吒が腰布の力を起動する。哪吒の周りに大量の水が現れ、彼を中心に渦を巻いた。大気中に含まれている水を集めて一塊としたのだ。渦の勢いたるや削岩機の如きだった。
「ちっ!」
突然の荒渦にイゴロウのスキルが反射的に肉体を後退させる。そのまま強引に刃を振り下ろしていたら腕がズタズタにされていただろう。退いたイゴロウを荒渦が追撃する。荒渦は津波に変わり、まるで鮫の顎のようだ。
「【盗神の手】――!」
イゴロウが短剣を上に投げて両手を空け、土煙の中から双剣を取り出す。剣を交錯して鋏のようにし、迫る津波を切り裂いた。
水飛沫となって散る津波。その津波を更に打ち砕いて飛来する影があった。輪刃だ。イゴロウが津波に対処している間に哪吒が手元に戻し、再度投げたのだ。双の輪刃がイゴロウを狙う。
「っ――舐めてんじゃねえ!」
双剣で双輪を素早く叩き落とす。双輪の速度が弱まったその一瞬を見逃さず、イゴロウが双輪の穴に双剣を通した。そのまま双剣を地面に突き出し、双輪が地面に食い止められる。
「――【風火二輪】」
哪吒が足の車輪を回転させて高速移動する。着いた先にあったのは朱色の槍だ。先刻、イゴロウに奪われた哪吒の槍である。拾ったその場で哪吒が穂先をイゴロウへと向ける。
「――【火尖鎗】」
次の瞬間、地面が打ち砕かれ――否、融解した。
穂先から巨大な炎が迸り、砲撃と化した。炎の砲撃はその高温で地面を溶かしつつ抉り、大気を突き進む。まさしく火炎放射器だ。
炎の温度は最高で摂氏三〇〇〇度。当然、人間が受ければ灰も残らない。そんな劫火を前にして、しかしイゴロウは戦慄を覚えつつも動揺は一切していなかった。
「――【悪神の手】!」
イゴロウは左手を突き出す。炎がイゴロウの左手に触れた刹那、掌に吸い込まれた。摂氏三〇〇〇度もの熱量が瞬く間に無に帰していく。イゴロウの肌どころか衣服に焦げ目すら付いていない。
「…………っ!」
「さすがのてめぇでも驚いたか? 両手のスキルが揃ってこそが俺の真骨頂だ。【盗神の手】が切り札なら、こいつは奥の手よ」
イゴロウの左手をかざす。掌には口の紋様があった。歯を剥き出しにして嗤い、真っ赤な舌を垂らしたデザインだ。
「【悪神の手】――敵の攻撃を何でも喰らうスキルだ。理論上は核兵器すらも無力化できるぜ」
「ちっ……クソが!」
イゴロウが徐々に押されていく。苛立ちを露にするが、舌打ちしたからとて解決する筈もない。やがて劣勢が明確な隙を生んだ。その隙を逃さず、哪吒が横一文字に黒剣を奔らせる。イゴロウを胴斬りする剣筋だ。
だが、それを易々と許す程、イゴロウも甘くない。
「【盗神の手】!」
黒剣をイゴロウが奪う。当然、武器を失った哪吒の左手は宙を空振りした。間髪入れずに黒剣を振り下ろすイゴロウ。哪吒も白剣を振り上げて応じる。黒き刃と白き刃が正面から激突する。
「――【陰陽剣・反発】」
刹那、哪吒が宝貝の力を使用した。先程の接着とは真逆、斥力を発生させる力だ。反発し合う双剣。まるで爆撃のような反発力に耐えられず、哪吒もイゴロウも剣を手放してしまった。
「――【乾坤圏】」
間髪入れず輪刃を撃ち出す哪吒。今度の刃は二本――両腕両方の射出だ。
「【ダイスボム】――!」
イゴロウが懐からサイコロを二つ取り出し、投擲する。サイコロと輪刃がぶつかるとサイコロが爆発した。その威力たるや凄まじく、地面が抉られて巻き上げられた。もうもうと昇る土煙が二人の姿を一時的に隠す。
◇
「何だ、今の!? あんな小さいのが凄ぇ爆発したぞ!」
観客席から吉備之介が驚きの声を上げる。『桃太郎』として覚醒した彼の目は遠方からでもイゴロウが取り出した物をしっかりと視認していた。
驚きはだからこそだ。掌に収まる程度の物があそこまでの大爆発を起こす事が、吉備之介の常識では衝撃的だったのだ。
「【ダイスボム】よ。向こうの世界にある魔法道具」
そんな吉備之介に竹が説明をする。視線は相変わらずスマホに向けられていたが。
「火薬の代わりに運命力を込めて、出たサイコロの目に応じて爆発の威力が変わるっていう仕組みね」
「運命力? そんな概念ありなのかよ?」
「ありなのよ。それが『ステータスに幸運値がある』のが常識の世界なんだから」
明確に数値に表せるという事は、実在がはっきりしている事だ。実在しているという事は利用が可能という事である。異世界にはそうやって概念に干渉する技術が多々あるのだ。
「幸運値が他人の五〇〇倍のイゴロウなら、サイコロの目も自由自在って訳ね」
科学では到底不可能な成果を実現する。それが魔法世界の特権だった。
◇
土煙に隠れてイゴロウが動く。『盗賊』である彼にとって視覚に頼れない状況も気配を殺すのも容易い所業だ。哪吒の背後を取ったイゴロウが無慈悲に刃を振り下ろす。
「――【混天綾】」
しかし攻撃の刹那、僅かにイゴロウの殺気が漏れた。その殺気に敏感に反応し、哪吒が腰布の力を起動する。哪吒の周りに大量の水が現れ、彼を中心に渦を巻いた。大気中に含まれている水を集めて一塊としたのだ。渦の勢いたるや削岩機の如きだった。
「ちっ!」
突然の荒渦にイゴロウのスキルが反射的に肉体を後退させる。そのまま強引に刃を振り下ろしていたら腕がズタズタにされていただろう。退いたイゴロウを荒渦が追撃する。荒渦は津波に変わり、まるで鮫の顎のようだ。
「【盗神の手】――!」
イゴロウが短剣を上に投げて両手を空け、土煙の中から双剣を取り出す。剣を交錯して鋏のようにし、迫る津波を切り裂いた。
水飛沫となって散る津波。その津波を更に打ち砕いて飛来する影があった。輪刃だ。イゴロウが津波に対処している間に哪吒が手元に戻し、再度投げたのだ。双の輪刃がイゴロウを狙う。
「っ――舐めてんじゃねえ!」
双剣で双輪を素早く叩き落とす。双輪の速度が弱まったその一瞬を見逃さず、イゴロウが双輪の穴に双剣を通した。そのまま双剣を地面に突き出し、双輪が地面に食い止められる。
「――【風火二輪】」
哪吒が足の車輪を回転させて高速移動する。着いた先にあったのは朱色の槍だ。先刻、イゴロウに奪われた哪吒の槍である。拾ったその場で哪吒が穂先をイゴロウへと向ける。
「――【火尖鎗】」
次の瞬間、地面が打ち砕かれ――否、融解した。
穂先から巨大な炎が迸り、砲撃と化した。炎の砲撃はその高温で地面を溶かしつつ抉り、大気を突き進む。まさしく火炎放射器だ。
炎の温度は最高で摂氏三〇〇〇度。当然、人間が受ければ灰も残らない。そんな劫火を前にして、しかしイゴロウは戦慄を覚えつつも動揺は一切していなかった。
「――【悪神の手】!」
イゴロウは左手を突き出す。炎がイゴロウの左手に触れた刹那、掌に吸い込まれた。摂氏三〇〇〇度もの熱量が瞬く間に無に帰していく。イゴロウの肌どころか衣服に焦げ目すら付いていない。
「…………っ!」
「さすがのてめぇでも驚いたか? 両手のスキルが揃ってこそが俺の真骨頂だ。【盗神の手】が切り札なら、こいつは奥の手よ」
イゴロウの左手をかざす。掌には口の紋様があった。歯を剥き出しにして嗤い、真っ赤な舌を垂らしたデザインだ。
「【悪神の手】――敵の攻撃を何でも喰らうスキルだ。理論上は核兵器すらも無力化できるぜ」
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