転輪のメタルコア/異世界転生者vs輪廻転生者

ナイカナ・S・ガシャンナ

文字の大きさ
上 下
14 / 28
第2章 先鋒戦

第14転 哪吒太子

しおりを挟む
 哪吒の双剣は刃渡り四〇センチメートル程の直剣であり、鍔には陰陽を表す太極図が埋め込まれている。刃は片方が黒色で、もう片方が白色だ。
 超高速の攻防が火花を散らす。鋼と鋼が激突する音は絢爛たるオーケストラのようだ。刺突を繰り返すイゴロウも、それを防ぎ切る哪吒も、どちらも人の限界を超えた出鱈目な動きだった。

(――ったく、信じられねえ。こんなに苦戦したのは魔王以来だわ。昔の地球ってこんな奴がうようよいたのかよ。おーおー、おっかねぇ~)

 内心でイゴロウが愚痴る。
 装飾品のスキル『一定確率で相手を即死させる』、『急所を突く』、『倍のダメージを与える』、『倍の速度で攻撃する』は実際に使うと自動追尾攻撃に、『攻撃を無効化する』は自動防御、『攻撃を回避する』、『即死する攻撃を回避する』は自動回避となって表れる。つまりスキルによってイゴロウの動きは最適化されているのだ。
 最善を選び続ける無駄のない戦闘技術。それを鍛え上げたイゴロウの肉体――高い筋力値STR敏捷値AGI――で振るっているのだ。だというのに、それを哪吒は封殺している。信じがたい技量の高さだ。

(つーか、なんで無事なんだよ、こいつ)

 イゴロウの短剣は【バジリスクの血剣】という。この短剣には『斬り付けた相手に猛毒を付与する』、『麻痺を付与する』、『石化を付与する』といった相手を弱体化させる機能がある。傷を負わせなくても斬り結んだだけで相手に付与する理不尽な仕様だ。しかし、眼前の哪吒はピンピンしている。何らかの異常に蝕まれている様子はない。

(あー。『封神演義』や『西遊記』によると哪吒は蓮の花を肉体にしているって話だったか。成程、人間やそこらの魔物よりも弱体化デバフに対して耐性があっても不思議じゃねえのか)

 蓮の花――蓮華はヒンドゥー教や仏教において清浄さや聖性の象徴とされている。泥水から生じて美しい花を咲かせる姿に人々は、俗世の欲に塗れずに生きるイメージを見たのだ。
 清らかで聖なるもの。その性質が猛毒や石化を寄せ付けない能力に繋がっていてもおかしくはない。

弱体化デバフを期待するだけ無駄って事だな。となると、この【盗神の手ヘルメス】とで戦うしかねえって事か。ハッ、面倒くせえな)

 戦闘の手を休めずに苦笑を交えるイゴロウ。元はただの不運な一般人だった彼も、異世界転生後の経験で戦闘中に笑える程の度胸を得た。

「よっと!」

 タイミングを見計らって攻防から一歩退く。一歩といっても超人である彼が踏めば十数メートルもの移動だ。哪吒がテンポを崩すが、僅かでしかない。すぐさま離れたイゴロウを追う。
 その哪吒に向けてイゴロウは渾身の力で槍を投げた。着地と同時に地面を蹴り、膂力に推進力を加算した投擲だ。強化バフされた身体能力による槍投げは小型ミサイルに匹敵する威力だ。防御などすれば粉々に砕け散る。それを直感した哪吒は左半身を傾げて槍を躱す。
 目標を失った槍はそのまま壁際の地面に激突し、凄まじい爆音と共に五メートル級のクレーターを作った。

 イゴロウが哪吒の目と鼻の先に迫っていた。

「【盗神の手ヘルメス】!」

 イゴロウの魔法が発動する。直後、哪吒の右手に持っていた白剣がイゴロウの右手に渡った。

「しゃあっ!」

 そのまま逆袈裟に斬り上げるイゴロウ。彼は完全に隙を突いたと確信していた。片剣を奪われた哪吒は為すすべなく斬られるしかないと思っていた。

「――【陰陽剣おんみょうけん・接合】」

 だが、そうはならなかった。
 哪吒が剣の名を呼ぶと、白剣が黒剣に引き寄せられた。刃同士がまるで磁石のように吸着する。あらぬ方向に行った斬撃に力が入る筈もなく、当たりこそしたものの哪吒に与えられたのは掠り傷だけだ。
 戸惑いを隠せないイゴロウに哪吒が右手をかざす。

「――【乾坤圏けんこんけん】」
「ぬおっ!?」

 哪吒の手首に嵌められていた金の腕輪が輪状の刃に変形する。輪刃は矢の如く射出され、イゴロウを襲った。意表を突かれたものの、装飾品のスキルがイゴロウの右半身を反らして輪刃を躱させる。
 直後、哪吒が黒剣を振り下ろした。黒剣から白剣は既に離れていた。イゴロウは回避したばかりで咄嗟には動けない。如何に『一定確率で相手の攻撃を回避する』といっても、それが原理的に不可能ゼロパーセントとなれば、どれ程の幸運値であっても改変しようがないのだ。
 イゴロウの右胸から右腰に掛けて斬撃が通る。鮮血が噴出し、大地を赤く染めた。

「ぐっおおおっ!」

 激痛と屈辱にイゴロウが歯を食い縛りながらたたらを踏む。彼の背後から輪刃が飛んで哪吒の右手首に戻った。

「……へえ。今のは仕留めたと思ったのに、まだ生きているんだ。面白いね」
「あぁん!?」

 面白いなどと言われてイゴロウが憤慨する。殺し合いの最中だというのに馬鹿にしているのかと思ったのだ。実際、そう受け取られても仕方のない発言だ。

「だって面白いでしょ? 傷付けて、傷付けられて、どうやって戦おうかって考えて。そういう壊し甲斐がある奴ってさ、実際に壊した時に『自分が凄いんだ』って達成感が沸かない?」

 だが、哪吒は薄く笑っていた。他人を虚仮こけにしている者の笑みではない。冷たい刀のような、歓喜と殺意に満ちた笑みだ。

「はあ? 何だそりゃ、共感できねえなあ。俺は一方的な無双が好きだ。自分を危険に晒すなんざ極力控えたいね」

 そんな哪吒の発言をイゴロウは無下にする。今日までどれだけ血生臭い戦場を駆け抜けてきたといっても、彼の性根は地球の一般人だ。猟奇的嗜好や戦闘狂は理解の外にある。

「……そう。趣味が合わないね。じゃあ」

 白剣を拾い上げ、改めて哪吒が構える。剣を両手に、切っ先を左右に広げた様は、まるで翼のようだった。高所から獲物を見つけた猛禽類の如き迫力だ。

「僕一人だけで楽しむ事にするよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...