俺の弟が一番かわいい

ー結月ー

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可愛い子

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「梓馬!離れろ!!」

「何言ってんだレオンハルト、歩夢だろ…」

レオンハルトが何を言ってるのか分からず、歩夢の方を向いた。

歩夢はニコッと笑っていて、いつもの歩夢だと俺も微笑んだ。

レオンハルトが近付いてきて、歩夢は俺の腕を腕で絡められた。

確かにいつもこんなスキンシップはしない、むしろ俺の事うざがってたし…

不安に思い、歩夢の名前を言うと首を傾げて俺の肩にもたれ掛かっていた。

レオンハルトは俺の肩を掴んで、歩夢の事を睨んでいた。

歩夢は「いやっ!お兄ちゃんは渡さないから!」と俺の腕を引っ張っていた。

嬉しいけど、やっぱり今日の歩夢変だ。

「歩夢、本当に歩夢なのか?」

「本当だよ、お兄ちゃんは僕の身体を知り尽くしてるんだから分かるよね」

歩夢と子供の頃、よく風呂に入っていたけど知り尽くしているというほどではない。

歩夢はそう言って、自分のスカートを捲っていた。

そこで、すぐに歩夢の言っている事を理解した。

何を言ってるんだ、そんな事するな!

歩夢と俺は、そんな関係じゃないし…歩夢への愛は全部兄弟愛だ。

俺と歩夢の関係を知らないって事は、レオンハルトの言っている通り歩夢じゃない!?

慌てて歩夢のスカートを掴んで下ろそうとした。

その時、スカートの隙間からなにか見えた。

「本当にバカな変態兄貴だな」

歩夢の口から、歩夢じゃない知らない声が聞こえた。

スカートの下から出てきたのはふさふさのしっぽだった。

捲られたスカートから足が出てきて、俺に向かって蹴り上げた。

レオンハルトが後ろに引いてくれて、直接当たる事はなかった。

蹴る力は強くて、触れていないのに顔が痛い。

歩夢の姿をしたなにかは笑っていた。

俺が必死に追いかけていたのは歩夢じゃなかったのか?

歩夢の事になると、周りが見えなくなるのも考えものだな。

「ごめん、レオンハルトの言ってる事を素直に信じていたら」

「いや、僕も確信がなかったから手を出せなかった……ここは彼の領域だ」

レオンハルトと同時に歩夢の姿が歪んで変わっていく。

身長は歩夢とそんなに変わっていない。

頭に耳を付けて、しっぽが揺れていた。

歩夢ほどではないが、可愛い感じの男子生徒がそこにいた。

本当に男…?男装してる女性じゃなく?

レオンハルトが俺を庇うように前に出て、俺はさっきの事があるから大人しくする事にした。

可愛い生徒は俺を見て「ふんっ」と鼻で笑っていた。

その瞬間、ジッと見ていた周りの奴らも出てきて俺達を囲んだ。

レオンハルトと背中合わせになり、警戒する。

「退屈してんだよ、もっと楽しませろよ」

「歩夢は…」

「歩夢?…あー、あの人間か…知らねぇよ、噂に違わぬ変態兄貴をからかってたんだよ、幻覚も分かんねぇんだな…そんなに大事にしてるくせに」

胸に突き刺さる痛みは、兄貴失格だと言われているようだった。

確かに、歩夢を見分ける事が出来なかったから兄貴失格だ。

ごめんな歩夢、今度はお兄ちゃん騙されないからな!

可愛い生徒は、顔に似合わず悪そうな顔をしていた。

監獄クラスの生徒だって言われたら納得してしまうほどに…

「やっぱり乱闘が楽しいよなぁ!」と可愛い生徒の声を合図に他の生徒達も襲いかかってきた。

レオンハルトと俺は、腕を振るって殴り付けた。

学生の頃、目を付けられていた事があるから喧嘩はした事がある。

目を付けられる理由は難しくはない、顔がムカつくとかそんなものだ。

まさか、こんなところで役立つとは思わなかった。

監獄クラスの生徒達は、真っ黒な人に姿を変えていた。

まるで泥棒のようだなと思い、苦笑いした。

「くそっ!これじゃあキリがない」

「僕の魔力が戻れば…ファントムのところに行くしかない」

レオンハルトの話では、ファントムという人のところに行けばレオンハルトの魔力が戻るみたいだ。

首に触れていて、レオンハルトの首を集中して見てみた。

首輪のようなのが見える、これが関係してるのか。

外そうと思えば外せるのに、まだ付けているって事はそれが答えだ。

何処が進めるのか、幻覚で森を見せているだけで実際は校舎だ。

奥行きがあるように見えて、本当は壁かもしれない。

道があるとしたら、俺達が来た道とこの生徒がいる道だけだ。

素直に通してくれるわけじゃないし、戦うしかない。

このくらいの小柄の子なら可哀想だけど戦える。

可愛い生徒に近付く前にレオンハルトのところに行った。

また自分勝手に突っ走るわけにはいかないと学んだからな。

「レオンハルト、あの子の後ろが道だからあそこを突破すれば」

「甘くみない方がいい、彼は幻想の王位継承者だ…素手の僕達が勝てる相手ではない」

「……ま、マジか」

レオンハルトに聞いて良かった、あのまま突進したら死んでいたかもしれない。
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