俺の弟が一番かわいい

ー結月ー

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レオンハルトの物語4

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『レオンハルト視点』

「んっ…」

ズキズキと頭が痛い、身体も怠い…魂切りの後遺症はここまでだとは思わなかった。
歪む視界がだんだんはっきりしてきた。

僕の目の前に三人の男達がいた。

ニヤニヤと嫌な笑みを向けていて、眉を寄せる。
監獄クラスで気を失って、まだここは監獄クラスだろうな。

手足が上手く動かない、ぎちぎち音が聞こえるから縄のようなもので縛られているのかもしれない。

「可哀想になぁ、俺達みたいな奴らの巣に美しい王子様が紛れこんでさぁ」

「おい大丈夫かよ、いくら縛られても王位継承者だぞ」

「何ビビってんだよ、ファントム様が魂切りを行ったんだ…いくら王位継承者でも俺達と戦う力なんてねぇよ」

三人でぶつぶつ話していて、僕は放っておいて後ろで縛られている手を壁に当てて、座る事が出来た。
ここは教室なんだろうが、授業が出来るような雰囲気には見えない。

机と椅子は破壊されて奥の方に積み重なっていて、窓はヒビが割れて隙間風が冷たい。
ドアも外れかかっていて、歪に立っている。

監獄クラスでまともに授業を受ける生徒がいないとこうやって荒れてしまうのかもな。
だから監獄クラスは無法地帯、授業をする先生も居なくなったんだ。

男の一人が僕の方に歩いてきて、上を見上げる。

「いいねぇ、その自分の立場を分かっていない顔…支配したくなる」

「……」

男が僕に向かって手を伸ばしてきた、反吐が出るな。
手に力を込めると、全身に電流をまとうと触れた男は痺れて倒れた。

他の二人も怯えた様子だが、自分達が優位に立ちたいのか無理矢理笑みを浮かべている。

両手足が使えなくても、自分の身を守る力は持っている。
小さく息を吐くと、集中してより強い力を引き起こす。

教室の照明が電気に当てられて粉々に粉砕した。

縄を切れる力はないが、でも目の前の男達に痛い目見せる事は出来る。
もう少し、強く…この校舎を飲み込むほどの強い力を…

「…はぁ」

「おい!近付いてないのに足が痺れてきたんだけど」

「ちょ、ちょっと待てって!俺達は見張りを頼まれただけで」

「……」

「な、仲良くしたかっただけで冗談だって…な?」

「お嬢にバレたら大変だ!何でもするから、落ち着こう!な?」

「じゃあ今すぐ僕の縄を解け」

慌て出したから、言う事を聞かせる事が出来ると思って力を抑えた。

もうきっと朝食の時間が過ぎてしまったけど、夕食は逃したくない。
食い意地を張っているような感じは自分でもするが梓馬の手料理だから僕は食べたいんだ。

男の一人は縄を解こうと、僕の後ろに回り込んでいた。
もう一人は足の縄を解こうとしていた。
触られるのは嫌だが仕方ない、刃物を持って来られたら僕が不利になるからあくまで素手で取れと言ってある。

素手で結んだなら素手で取れるだろう、キツく結んであるように思うが…恨むなら結んだ相手を恨め。

「…ったく、やっぱりまともに見張りも出来ねぇじゃねぇか」

「…お、お嬢っ」

「その名前で呼ぶなって言ってんだろうが!!今度やったら地下に堕とすからな!!」

壊れたドアを蹴り飛ばして、ラルフが派手に登場してきた。
ラルフは僕の縄を解こうとしている奴と、最初に電流で気絶している男を教室から放り投げた。
恐怖から男達はすぐに逃げていった。

少し縄は緩んだ気がするが、手の縄はまだ抜け出せるほどの隙間がない。

ラルフを見ると、ラルフは僕の顔の横の壁を蹴っていた。
威力はないが、挑発しているんだという事は分かる。

「随分と舐めた事してくれるじゃん、逃げられなくて残念だったな」

「……」

「何とか言えよ、それとも俺を見て怖くなったのかよ」

「それはもしかして脅しか?すまなかった、足が短くてそうは見えなかった」

「テメェ…」

ラルフは僕を睨みつけて怒りを何とか堪えようとしている。
でも、上手く堪えきれていなくて身体を震わせていた。

さっきの男に言えた事ではないな、君だって怒りで前が見えていないように見える。
僕がわざと怒らせているとは考えないのか?

実際ラルフが暴れて乱闘でもしてくれたら、その隙に抜け出そうと考えていた。
手の縄は抜け出せないが、足なら何処かに引っ掛ける事が出来れば抜け出せる。

ラルフは怒っているが、まだ理性を失うほどではないようだ。

「ファントムの魂切りで辛いのに、死に急いでんじゃねぇよ」

「小さくて可愛いんだから、そんな汚い言葉を使っちゃダメだろ…お嬢」

「今すぐ俺が殺してやる!!」

ラルフはとうとう我慢が出来ず、僕に向かって殴りかかってきた。
身体をずらして、ラルフの拳を避けて挑発を続けた。

走って避ける事が出来ないから足で地面を蹴って軽く飛び跳ねながら移動した。
避けられ続けて、ラルフの怒りもだんだん上がっていく。

ラルフの力は幻想だ、あらゆるものを自由自在に作る事が出来る。
ラルフは針を数本指に挟んで投げてきた。
壁に突き刺さって、いいものを作ったなと密かに笑みを浮かべた。
本当は、破壊された机に引っ掛けて縄を取ろうと思っていたがこの針の方が丈夫そうだな。

後は、周りの奴らを巻き込んでくれれば僕の作戦は完璧なんだけど…そう簡単にはいかないだろうな。

ラルフが暴れているのを見た監獄クラスの生徒達はラルフを止めようと身体を押さえていた。

ラルフは前が見えていないのか、普段からやっているのか分からないが監獄クラスの奴らを殴り飛ばしている。

乱闘騒ぎになってきたところで、僕はこっそりとラルフ達から離れる。
足の縄を壁に刺さった針に引っ掛けて、思いっきり引っ張ると靴が脱げたがそれと同時に縄も取れた。

「おやおや、これはいったいどうなっているのかな」

やっぱり来たか、ファントムがこの騒ぎに駆けつけないわけがない。
ただ通りすがっただけの気もするが…

僕はすぐにこの場から離れようと思っていたが、ガチャンとなにかの音が聞こえた。
首も不思議と重くなり、首に触れるとなにか硬いものが首に巻かれていた。

ファントムの方を見ると、僕の方に手を向けていて微笑んでいた。
暴れているラルフの腕を掴んでいて、ラルフの攻撃を笑いながらかわしている。
手馴れているところを見ると、日常の風景なんだろう。

「ラルフも何を怒ってるんだか」

「うるせぇ離せ!!コイツを殺さないと俺の気が済まねぇ!」

「…えー、私の楽しみに協力してもらおうと思ったのに」

ファントムがそう言うと、周りの空気が一気に冷えていった。

周りの生徒達がファントムを怒らせてはいけないと察して動きを止めていた。
ラルフまでも頭が冷えてしまって、落ち着いていた。

ファントムが僕の方に近付いてきて、首の飾りに触れていた。
僕は監獄クラスの…ファントムの下僕ではないから腕を振り払った。

それを気にする事なくファントムは笑みを浮かべていた。

「その首輪には私の魂切りを込めたものだよ」

「……」

「私の命令一つで、君の首を吹き飛ばす事が出来るんだよ」

つまり、ファントムの手に僕の命は握られているというわけか。
梓馬に掛けた呪いに似たものが僕の首に掛けられている状態のようだ…まだ僕は呪いを掛けられていないけど…

ここまでして、ファントムは僕に何をさせる気なんだ?
楽しみに協力って、何の話だ?

生徒の一人が椅子を持ってきてファントムがそこに座った。
足は自由になったが、首輪の事もあるから結局逃げられない。

「僕になにか?」

「チッ、今は一時休戦してやるが…終わったら容赦しねぇからな」

「…僕は本当の事しか言ってないけど」

「お前またっ!!」

「ラルフ」

ファントムの言葉に、また殴りかかって来ようとはしなかった。

ラルフは僕に一枚の写真を見せた。
それは、三原歩夢の写真だった。
笑っている、見切れているが隣には生徒会長のエルダらしき人物がいた。
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