俺の弟が一番かわいい

ー結月ー

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「食堂の他に購買があるんですか?」

「うん、ほとんどの子達は食堂に行っちゃうけど購買のパンは美味しいからそれだけ買う子もいるんだよ」

「確かにこれは買っちゃいますね」

サンドイッチを食べている時、そういえば訓練所の奥に見た建物が気になった。

ハイド先生の話を聞いて特クラスがあるのかと思ったが、一般クラスと渡り廊下で繋がっていないから特クラスではないだろう。

そもそも孤立している建物だから別の施設だろうな。

サンドイッチを食べるハイド先生にあの建物はなんなのか聞いてみた。

ハイド先生は一瞬目を丸くさせてから、困ったように苦笑いしていた。

そして「あそこには絶対に近付いたらダメだよ」と真剣な眼差しで言われた。

「分かりました、近付きません」

「あ、でも君が校則違反したらペナルティであそこの建物の清掃に行ってもらうから気を付けてね」

近付いたらいけないところではないのか?そう思っていたらハイド先生は無邪気な顔であそこの建物の清掃ペナルティはかなり生徒に効き目があるそうだ。

そこまであの建物が入ってはいけないところという事だろう。

気になるが、そんなに止められると入る気が失せる。

だけど、有り得ないとは思うがもし万が一歩夢がペナルティであそこの清掃に向かうなら俺も付いて行きそうだ。

ハイド先生はもう一度念入りに「ダメだからね」と言った。

そしてハイド先生は教えてくれた、一般クラスでも特クラスでもない第三のクラスの事を…

「あそこにある建物も校舎なんだけどね、旧校舎を改装した場所なんだ」

「そうなんですか」

「うん、僕達教師が手に負えなくなった問題児が入る場所だよ」

「……え」

「監獄クラスと呼ばれているんだよ、問題を起こした生徒をまとめて管理する場所だよ」

そうか、だから近付いちゃダメなのか…危ない場所だから…

そこの清掃は絶対にやりたくない、校則には気を付けよう。

監獄クラスには雷と氷と炎の魔導士は少数で、幻想の魔導士が半数いて後は全て晦冥の魔導士だという。

晦冥の魔導士で一般校舎にいるのは風紀委員会のみだと言っていた。

晦冥って確か、死神の姿の神獣だったよな…他のとは明らかに違っていた。

ハイド先生は「晦冥の魔導士は他とは異質で強いんだけど、それだけプライドが高くて人の言う事を聞かないんだ」と苦笑いしていた。

そうなのか、歩夢と関わらないならどんな相手かは興味ないな。

昼飯を食べ終わり、魔力検査も終わったから訓練所を出た。

外に出るとナツが外にいて、俺と目が合うと手を上げていた。

「梓馬!終わったか?」

「あぁ、待っててくれたのか?」

「へへっ…梓馬に俺の友達紹介しようと思ってな!」

ナツにそう言われて、隣にいた少年が少し前に出てきた。

糸目の温厚そうな少年は手を差し伸ばしてきたから握り返した。

「ヨシュア・コールド、よろしくな」と自己紹介を終わらせて三人で校舎に向かった。

初日で友達が出来るなんて思わなかった、友達を作る事は普通だから目立つ事じゃないよな?

手を見ると、電流が小さくなっていた…もうすぐ消えそうだな。

でも今後のためにコントロールの仕方を教えてもらうかな。

ナツは隣のクラスに雷の魔導士がいるって言ってたよな。

放課後に行ってみるかな、レオンハルトは特クラスだろうから特クラスに一般生徒が入れるとは思えないし……それこそ目立つ行動だよな。

そして、午後の授業は魔法を使うものではなく魔導士の歴史の授業だった。

いろんな属性の魔導士が帝王になった事があり、その中でも史上最凶な帝王がいた。

それが晦冥の魔導士が帝王であった五百年ほど前の出来事。

晦冥の帝王は残虐的な思考の持ち主で、本来なら他の王位継承者が側近としているが晦冥の帝王は他の王位継承者を殺して一人で魔導帝国を支配したと言われている。

独裁的で歴代魔導士の中で一番力が強く、無慈悲な人物だった。

歴代の戦いに敗れた晦冥の王位継承者達は帝王になれない事を分かると、側近にならずに姿を消したという。

それほどまでに協調性がない魔導士が多かったのだと言った。

だから晦冥の魔導士は監獄クラスにいるのか、そういう歴史があるから…

でも晦冥の魔導士が皆が皆そうだとは思えないけど、晦冥の魔導士とは一度も会った事ないから何とも言えない。

「今の晦冥の王位継承者は晦冥王の末裔だって噂なんだよ」

「…そうなのか?」

「あぁ、かなり強い魔導士なんだけどヤバい奴だって言われてる」

隣にいるナツが話しかけてきて、小声で教えてくれた。

そんな奴が歩夢のパトロンじゃなくて良かった、もしそうなら人間の俺なんて簡単に殺されるからな。

そして、本日の授業は終了して放課後になりそれぞれの生徒が動き出した。

俺も教科書とかをカバンに詰め込んでいたら、ハイド先生がやって来た。

そして俺に片手サイズの箱を渡されて「借り物だから卒業したら返すものだから壊したり無くしたりしちゃダメだよ」と言われた。

箱を開けるとそこにはスマホがあり、これがレオンハルトが言っていた魔力で動くスマホか。

ハイド先生はまた明日ねと言われて教室を後にした。

スマホを弄っていると、あまり俺の持っているスマホと変わりないな。

試しに今持っているスマホに電話を掛けてみたが、繋がらなかった。

「あっ、それって人間の世界の通信道具?似てるんだな」

「あぁ、でも繋がらないんだな」

「そりゃあその通信道具は人間が使うものだから魔力を使わないからな」

ナツにそう言われて、魔力が電波代わりなのかと思った。

ナツにアドレス交換しようと言われて、電話番号とメッセージ機能のアドレスを交換した。

そして、確認のためにアドレスの一覧を見るとナツ以外の名前があった。

ハイド先生のアドレスは緊急時用で入れてくれたのだろう。

しかし、ハイド先生とナツの他にもう一人のアドレスがあった。

レオンハルトの名前があった、レオンハルトも入れたのか…じゃあハイド先生は俺とレオンハルトの関係知ってるのか。

もういないハイド先生の事を考えていたら、ナツがヨシュアを呼んだ。

ヨシュアともアドレスを交換して、隣のクラスに行く事にした。

ナツとヨシュアも一緒に来てくれると言ってくれてありがたかった。

「なぁ、このクラスに雷の魔導士いなかったか?」

「あー、エーリンか…もう教室の中にはいないな」

ナツが教室を出るところだった生徒に声を掛けたが、どうやらもういないらしい。

隣のクラスには雷の魔導士はいないらしく、この学園では三番目に雷の魔導士が少ないようだ。

他のクラスに行こうと思っていたら、急にバチッと手に鋭い痛みが走った。

眉を寄せて手を片手で握りしめて、ヒリヒリと痛い手を見つめた。

…あれ?電流が走っていた手に、電流がなくなっていた。

自然とコントロールが出来たって事なのだろうか、でも手が熱くて痛い。

「おい、どうした?梓馬」

「凄い汗だけど」

自分が今どうなっているのか分からないけど、ナツとヨシュアの慌てっぷりを見るとヤバい事は分かる。

神経が焼けたように痛い、視界がぐるぐると歪んでいる。

ナツとヨシュアや周りの騒がしい声が遠くに聞こえている。

俺の意識はそこまでで、プツンと切れたように意識がなくなった。
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