俺の弟が一番かわいい

ー結月ー

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ナイトの物語

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『ナイト視点』

梓馬が風呂に入っている間、する事がなくてボーッとしていると横からの視線に気付いた。

横にはレオンハルトさんがいて、俺の事をジッと見つめていた。

梓馬の事はほとんど知らなかった、歩夢の兄という事だけだ。

歩夢からは酷い話しか聞いていなかったから、弟に欲情するヤバい奴だと思っていた。

梓馬とレオンハルトさんが知り合いだとは誰も思わないだろう。

同じ雷を使う事しか共通している事はないし、そんな奴この学園には大勢いる。

どういう知り合いか分からないが、親しい事には変わりない。

俺が知っているレオンハルトさんは、人とあまり関わらない人だった。

だから梓馬と話しているレオンハルトさんは知らない顔だった。

「レオンハルトさんって梓馬とどういう関係なんですか?」

「何故?」

「気になったので」

「君には関係ない」

俺の力よりも冷たくそう突き放すような事を言われた。

レオンハルトさんは分かってるのだろうか、そんな事を言われたら余計気になるものだろ。

梓馬は王位継承者ではない筈だ。

梓馬の力は雷、雷の王位継承者はレオンハルトさんだから梓馬ではない。

なのに何故梓馬がこの寮にいるのか分からない。

この寮は王位継承者のために作られた特別な寮だ。

一般人が立ち入る事は当然無理なのに住んでいる。

一瞬だけ、レオンハルトさんの従者かと思った…それなら納得出来る。

でも話を聞いていると、レオンハルトさんと対等の関係に思えた。

先輩後輩とも違う関係は、どう見てもお互い特別な関係だと言っているようなものだ。

俺はそれを知る権利がある筈だ。

梓馬は俺を受け入れて背中を押してくれた、俺の怖いと思う気持ちに寄り添って守ると言ってくれた。

好きという言葉はお互い口にしていないが、言葉にしなくてもお互いの目を見れば気持ちが通じる……それが夫婦なんだと母が言っていた。

だから俺はそれに応えようって決めたんだ、梓馬を幸せにすると…

それには他の男との交友関係を知るのも夫として当然だ。

梓馬は男だし、男の交友関係があっても変じゃないがレオンハルトさんが隠すから余計に変な感じではないかと疑ってしまう。

信じる事も夫婦として当然かもしれないが…うーん。

歩夢はレオンハルトさんの事を気に入っていた、一度も話した事はなさそうだが…

兄弟なら歩夢と同じ好みであっても不思議ではない。

レオンハルトさんは何も話さないから全部妄想だけど。

「ナイトは梓馬と友人か?」

「違う、夫婦だ」

俺はレオンハルトさんと違い、隠す気がないから正直に言った。

レオンハルトさんは驚いた顔をして目を丸くしていた。

二人がどういう関係であれ、俺達は夫婦なのに変わりはない。

そう思っていたら、レオンハルトは小さなため息を吐いた。

「本当に?」と疑いの眼差しで見られて、俺が嘘を付いて何になるんだと首を傾げた。

俺と梓馬が夫婦でもそれこそレオンハルトさんには関係ないと思うけど…

男同士の恋愛はそう珍しいものではない、そんなに驚く事か?

どんな愛でも自由なのは魔導帝国のいいところだと思う。

「俺と梓馬は愛し合ったんだけど」

「愛しって…まさか、身体を重ねたのか!?」

「身体?」

「……ナイトが王位継承者なら…どうすれば」

レオンハルトさんは何やら考え事をしてしまった。

梓馬と身体を重ねる事は、ダンスの練習をした時くらいか。

そんな事を言っているんじゃないってすぐに分かるけど。

身体を重ねるって、エロい事って事だよな…考えてもいなかった。

そういう事に無縁だったから、梓馬の事をそう見ていなかった。

魅力がないとかではなく、初対面前の印象が強いせいだな。

そもそもついさっき夫婦になったばかりだから、早すぎる。

いや、梓馬が求めているなら夫として全力で応えるけど…

焦る事はない、これから先の人生は長いんだから。

レオンハルトさんは俺と梓馬がそういう事をしているのがそんなに気になるのか?

爽やかな顔をしてむっつりなのか?でも、難しい顔でぶつぶつ言っている。

もしかして、俺が梓馬と付き合ったから帝王の座を奪われると思っているのか?

俺が王位継承者だからって、肩書きだけで王になるとは言ってないんだからそんな警戒しなくてもいいのに…

それに、伴侶の有無で決めるなんて話は聞いた事がない。

「僕と梓馬は恋人同士だ」

「………愛人?」

梓馬の夫は俺だから、レオンハルトさんは愛人かと思った。

まさかここに愛人がいるとは、考えてもいなかった。

梓馬はそう言うのがいいのか、梓馬がそれでいいなら俺は構わない。

俺の目に梓馬が映って、梓馬の目に俺が映るんだ。

俺への愛がいつまでも変わらずに居てくれたら、他の奴なんていないようなものだ。

レオンハルトさんは俺の言葉に呆れたような顔をしていた。

「そういう事ではない、梓馬が君に何をして何を言ったのか知らないが…梓馬に今後近付くのは遠慮してもらいたい」

「何故そんな事を言われなきゃいけないんだ」

梓馬に近付くななんて、なんで他人に言われなきゃいけないんだ。

いくらレオンハルトさんでも、流石に気分が悪い。

梓馬を独り占めにしたいって事なのか?それなら俺も分かる。

でも、結局梓馬と二人っきりになれば独り占めになるだろ。

梓馬だってプライベートがある、束縛はしたくない。

俺は梓馬と今後も関わっていくし、レオンハルトさんの言う事を聞かない。

お互い一歩も引かず、レオンハルトさんと睨み合った。

その時、梓馬が戻ってきて会話が終わった。

レオンハルトさんが頑なに言わなかった事、梓馬なら教えてくれるだろうか。

梓馬にいろいろ聞きたいが、俺の体力が切れて梓馬の部屋で寝る事にした。

梓馬とレオンハルトさんを二人っきりにしたくないが、睡魔は自分でコントロール出来ない。

梓馬のベッドで横になって瞳を閉じたがリーシャに『本当に王位継承者になって後悔していないか?』と言われた。

後悔していない、と言ったら嘘になる…俺は目立つ事が嫌いだ。

だからA階級試験を手抜きしてB階級に自ら選んだ。

リーシャが神獣だという事は知っている、昔に本人から聞いたからな。

だけど俺はリーシャが神獣だと周りに言わなかった、言ったら俺が王位継承者だと思われるだろ?

歩夢にも王位継承者じゃないと言った筈だが、何故か俺を王位継承者だと思っている…さっきまで本当に王位継承者じゃなかったんだけどな。

後悔している、というほどではない…王位継承者になる事は嫌だった。

でも俺は王位継承者になったわけではない、リーシャと本物の家族になった…それだけだ。

それに、梓馬もリーシャと同じくらい大切な家族だ。

リーシャはペットだとして、梓馬はいったいなんだろうと考えていた。

そしてやっぱり妻しかないだろうという事になった、梓馬といると楽しい…他人を避けて生きてきた俺がプライベートに踏み込まれても怒りは湧かなかった。

もっと触れてほしいし梓馬に触れたい、誰も知らない部分を…

歩夢から聞いていた変態兄貴の話、今思えばあれから興味があったのかもな…恋愛までいかない小さな興味から…

実際に話してみたらただのブラコンの兄だった、歩夢に対してもそこまでな感じだ。

恋愛感情ではなく、普通に弟を大切にしている…そこも共感出来る。

レオンハルトさんに言われて、そっちの事にも興味が出てきた。

俺は両親を超えるために、梓馬には頑張ってもらわないと…目指すは6人!

そこまで考えていたら、コンコンと部屋のドアがノックされた。

梓馬が呼びに来たのかと、ベッドから起き上がりドアを開けた。

目を瞑って考え事をしているだけで、だいぶ休めた。

それでもまだ眠くて、頭が少し働いていないけど。

しかしそこにいたのは梓馬ではなく、レオンハルトさんだった。

レオンハルトさんは王位継承者の中では一番まともな人だから、一年生の憧れの存在だ。

魔力は強くて容姿にも優れて運動神経も抜群、隙がない。

属性は違っても、あの人を目標にする魔導士は少なくない。

俺は軽く話すくらいの知り合いだったが、さっきの事を思い出すと微妙な気持ちになる。

あの人はどんな人に好かれても興味がなさそうで、恋愛に興味がないと思っていた。

でも、まさか梓馬の愛人だとは思わなかった…この場合どうすればいいのか分からない。

恋愛のライバルになるのか?梓馬がどう思っているのかが問題だ。

俺達に争ってほしくないなら、梓馬が嫌がる事はしたくない。

「夕飯出来ましたか?」

「その事ではない、君に話す事がある」

「…話?」

「梓馬の話だ」

まだなにかあるのか?何度言われても俺の考えは同じだ。

梓馬と今後も関わるし、レオンハルトさんの話は聞く必要はない。

まだ夕飯の時間じゃないなら、もう一眠りしようかな。

「俺はないんで、おやすみなさい」とレオンハルトさんに背を向けると、空気が一瞬でぴりついた。

後ろを振り返ると、レオンハルトさんが笑みを浮かべていた。

その顔とは真逆に、レオンハルトさんの手には電流が流れていた。
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