24 / 81
学園へ
しおりを挟む
『梓馬視点』
「はぁっ……あ、んっ」
「そう、いい子だね…梓馬…そのまま飲み込んで」
口を硬く閉ざして零さないように、喉を上下に動かして飲み込む。
レオンハルトに確認してもらうために口を開いて舌を出す。
そこにはさっきまで口の中に入っていたものがなくなっていた。
レオンハルトは嬉しそうに微笑み、口の端に微量に付いてしまっていたものを指で掬い自らの舌で舐めた。
「これで、俺は魔法が使えるのか?」
「そうだね、本当は梓馬に魔法の練習をさせたいが時間がないんだ」
そう言うレオンハルトに、レオンハルトが全て用意してくれた荷物が入った大型のキャリーバッグを渡された。
さっき飲んだものは魔力の安定剤というものだと聞いている。
本来の使い道は魔力のコントロールが上手く出来ない魔導士が、魔力を暴走させないために飲むものらしい。
俺は人間で、魔力を受け入れられる身体になっていない。
それをいきなりレオンハルトの魔力を注ぎ込んだから身体が驚いてしまった。
このままほっとくと魔力が暴走するのはまだ良い方で、最悪死ぬかもしれない。
だからレオンハルトは部屋に常備してある救急セットをベッド横から取り出して中の錠剤を見せた。
まだ少し身体が熱いだけだから錠剤を飲めばすぐに治まるだろう。
身体が魔力に馴染めば薬はいらなくなるが、しばらく持っていた方がいいと薬を小瓶ごと貰った。
馴染みのある普通の白く丸い錠剤で水で飲めばいいから楽だ。
特効性の薬だったみたいでだんだん熱も引いてきて、普通の体調に戻った。
「学園への手続きはもう終わったから明日の朝に向かう、いいか?」
「分かった、歩夢を助けるのは早い方がいい」
「梓馬、学園に入る前に君に言っておきたい事がある」
レオンハルトは救急セットを元の場所に戻しながら、真剣な眼差しで見つめられた。
まだあるのかと俺も緊張してきて、ベッドの上で正座した。
レオンハルトは学園での俺の立ち位置の説明をしてくれた。
当然魔導士育成学園だから人間は入れない、歩夢だけが特別な人間だ。
とはいえ俺が偽名の魔導士として通っても、歩夢と接触すると必ずバレてしまう。
だから先祖返りの魔導士として学園に通うと、歩夢が人間でも兄が魔導士でも可笑しくないらしい。
「実際に人間の両親が生まれた魔導士もいたからな、ごく稀だが」
「…分かった、歩夢にもそう説明する」
「あまり目立つ行動は好ましくないよ」
「うっ……頑張る」
歩夢を助けるために、目立つなというのは難しい気もするが…なるべく気をつけよう。
そして一日休んでから明日の朝イチで学園に向かう事になった。
ーーーーー
ーーー
ー
翌日、目を覚ますと部屋にレオンハルトの姿はなかった。
ベッド横に置き手紙があり、レオンハルトが書いたのだろう。
手紙には細かい学園までの地図と「梓馬へ、僕は梓馬と学年が違うから四六時中は一緒にいられない…学園生活初日頑張ってくれ、いつも見守っているよ」というメッセージがあった。
後輩には見えないからレオンハルトは先輩だったのか、俺一人で魔導士のフリを出来るか心配だな。
でも歩夢を助けるためだ、演技には自信はないがやってやる。
そして、部屋に戻って制服に身を包み荷物を掴んで、使用人達に「お世話になりました」とお辞儀してレオンハルトの屋敷を出た。
えーっと、地図によると魔導帝国にあるバス停から学園行きのバスが出てるから先にそこに行こう。
レオンハルトの家は魔導帝国の端にあるみたいで、バス停まで少し距離があるな。
歩いていると広場が見えた、人通りも多くて空を見ると人が宙を浮いていて思わず足を止めた。
魔法使いといえばホウキで空を飛ぶって思ってはいたが、実際はホウキではなくまるで背中に羽根が生えたように優雅に飛ぶんだな。
今の俺はレオンハルトの力があるし、飛べたりするのかな?
…歩夢を助けるために学園に入るのに楽しんでどうするんだ。
気を引き締めてキャリーバッグを引いて広場を抜ける。
バス停はこの先の酒屋を右に曲がってまっすぐ行くと見えるんだな。
酒屋を右に曲がろうとしたら、反対方向の左側から声が聞こえた。
決して普通の声ではない、言い争うような不穏な雰囲気だった。
「やめてっ!離してよ!」
「思わせぶりな態度を取りやがって、責任取れや!!」
小柄な子の腕を大柄な男が掴んで引っ張っていた…会話からすると大柄な男の言い分はめちゃくちゃだ。
小柄な子は俺と同じ制服を着ていて、女の子だと思っていたら男のようだった。
大柄な男の顔は真っ赤に色付いていて、朝まで酒を飲んだ帰りだと思う。
レオンハルトには目立つなと言われたが、ここは学園じゃないし…困っている人をほっとけない。
遅刻したら謝ればいいし、目の前にいる子を助けられなくて歩夢を助け出せるわけがない。
少年を掴んでいる男の手を掴むと、二人は俺の方を見た。
「おい、嫌がってるのを無理矢理やるなよ」
「あ?なんだテメェ、ぶっ殺すぞ!」
男が思いっきり俺の手を振り払い、ネクタイを掴んできた。
突然俺を掴んでいた男の手が人間離れした大きな手になった。
なんだこれ、魔法使いってこんな特殊能力があるやつがいるのか!?
その手が紐のように解けて、俺の身体を縄で縛るように拘束した。
片手だけは使えるようにしたくて手を上げていたから拘束されなかったが身動きが取れずに、もがいていたら目の前にいた筈の男が消えていた。
周りを見ても誰もいない、あの少年までもいない…逃げれたならそれでいいけど…
すると耳元で、風を切るような音が聞こえた…人が拳で殴る時のような音だ。
俺は条件反射で、音が聞こえた方向に手を出すとなにかを捕えた。
そこには何もないのに、拳のようなものに感じた…何処からか男の舌打ちが聞こえた。
なにかを掴んでいる手はバチバチと電気を発していた。
これはもしかしてレオンハルトの魔法…そうだ、ここは俺がいた世界ではない。
手に力を込めると、より電気が強くなり…掴んでいるなにかは察して俺に離してほしくて暴れている。
でも絶対に離さない、これがあの男のだと思うから…
「お、お前雷属性だったのかよっ」
「少し目を覚まさせてやるよ、酒はほどほどにな」
「ぐぁぁぁっっ!!!!」
より集中すると雷が強くなり、俺を拘束しているものがなくなった。
代わりに、あの男が俺に拳を掴まれたまま地面に倒れていた。
化け物のような形をしていない普通の手に、あれはなんだったのか首を傾げる。
手を見たら、雷がバチバチと覆っている…初めての魔法だったけどあまりにも男が気持ち悪くて拒否反応で偶然使えたな。
……あれ?どうやったらこの雷引っ込むんだろう、腕を振ってみても念じてみても全然消えない。
魔法の使い方を知らない状態で無理矢理使ったからか。
今日は誰にも触らないようにすれば大丈夫かな、見守っていると言っていたから学園内にいるであろうレオンハルトを見つけて戻す方法を聞こう。
いくら悪党でも勝負がついた相手を放置するのはどうかと思い踏まれないように酒屋の壁に寄りかかるように座らせた。
そして広場の方からベルの音が聞こえて、慌ててバス停に向かった。
「はぁっ……あ、んっ」
「そう、いい子だね…梓馬…そのまま飲み込んで」
口を硬く閉ざして零さないように、喉を上下に動かして飲み込む。
レオンハルトに確認してもらうために口を開いて舌を出す。
そこにはさっきまで口の中に入っていたものがなくなっていた。
レオンハルトは嬉しそうに微笑み、口の端に微量に付いてしまっていたものを指で掬い自らの舌で舐めた。
「これで、俺は魔法が使えるのか?」
「そうだね、本当は梓馬に魔法の練習をさせたいが時間がないんだ」
そう言うレオンハルトに、レオンハルトが全て用意してくれた荷物が入った大型のキャリーバッグを渡された。
さっき飲んだものは魔力の安定剤というものだと聞いている。
本来の使い道は魔力のコントロールが上手く出来ない魔導士が、魔力を暴走させないために飲むものらしい。
俺は人間で、魔力を受け入れられる身体になっていない。
それをいきなりレオンハルトの魔力を注ぎ込んだから身体が驚いてしまった。
このままほっとくと魔力が暴走するのはまだ良い方で、最悪死ぬかもしれない。
だからレオンハルトは部屋に常備してある救急セットをベッド横から取り出して中の錠剤を見せた。
まだ少し身体が熱いだけだから錠剤を飲めばすぐに治まるだろう。
身体が魔力に馴染めば薬はいらなくなるが、しばらく持っていた方がいいと薬を小瓶ごと貰った。
馴染みのある普通の白く丸い錠剤で水で飲めばいいから楽だ。
特効性の薬だったみたいでだんだん熱も引いてきて、普通の体調に戻った。
「学園への手続きはもう終わったから明日の朝に向かう、いいか?」
「分かった、歩夢を助けるのは早い方がいい」
「梓馬、学園に入る前に君に言っておきたい事がある」
レオンハルトは救急セットを元の場所に戻しながら、真剣な眼差しで見つめられた。
まだあるのかと俺も緊張してきて、ベッドの上で正座した。
レオンハルトは学園での俺の立ち位置の説明をしてくれた。
当然魔導士育成学園だから人間は入れない、歩夢だけが特別な人間だ。
とはいえ俺が偽名の魔導士として通っても、歩夢と接触すると必ずバレてしまう。
だから先祖返りの魔導士として学園に通うと、歩夢が人間でも兄が魔導士でも可笑しくないらしい。
「実際に人間の両親が生まれた魔導士もいたからな、ごく稀だが」
「…分かった、歩夢にもそう説明する」
「あまり目立つ行動は好ましくないよ」
「うっ……頑張る」
歩夢を助けるために、目立つなというのは難しい気もするが…なるべく気をつけよう。
そして一日休んでから明日の朝イチで学園に向かう事になった。
ーーーーー
ーーー
ー
翌日、目を覚ますと部屋にレオンハルトの姿はなかった。
ベッド横に置き手紙があり、レオンハルトが書いたのだろう。
手紙には細かい学園までの地図と「梓馬へ、僕は梓馬と学年が違うから四六時中は一緒にいられない…学園生活初日頑張ってくれ、いつも見守っているよ」というメッセージがあった。
後輩には見えないからレオンハルトは先輩だったのか、俺一人で魔導士のフリを出来るか心配だな。
でも歩夢を助けるためだ、演技には自信はないがやってやる。
そして、部屋に戻って制服に身を包み荷物を掴んで、使用人達に「お世話になりました」とお辞儀してレオンハルトの屋敷を出た。
えーっと、地図によると魔導帝国にあるバス停から学園行きのバスが出てるから先にそこに行こう。
レオンハルトの家は魔導帝国の端にあるみたいで、バス停まで少し距離があるな。
歩いていると広場が見えた、人通りも多くて空を見ると人が宙を浮いていて思わず足を止めた。
魔法使いといえばホウキで空を飛ぶって思ってはいたが、実際はホウキではなくまるで背中に羽根が生えたように優雅に飛ぶんだな。
今の俺はレオンハルトの力があるし、飛べたりするのかな?
…歩夢を助けるために学園に入るのに楽しんでどうするんだ。
気を引き締めてキャリーバッグを引いて広場を抜ける。
バス停はこの先の酒屋を右に曲がってまっすぐ行くと見えるんだな。
酒屋を右に曲がろうとしたら、反対方向の左側から声が聞こえた。
決して普通の声ではない、言い争うような不穏な雰囲気だった。
「やめてっ!離してよ!」
「思わせぶりな態度を取りやがって、責任取れや!!」
小柄な子の腕を大柄な男が掴んで引っ張っていた…会話からすると大柄な男の言い分はめちゃくちゃだ。
小柄な子は俺と同じ制服を着ていて、女の子だと思っていたら男のようだった。
大柄な男の顔は真っ赤に色付いていて、朝まで酒を飲んだ帰りだと思う。
レオンハルトには目立つなと言われたが、ここは学園じゃないし…困っている人をほっとけない。
遅刻したら謝ればいいし、目の前にいる子を助けられなくて歩夢を助け出せるわけがない。
少年を掴んでいる男の手を掴むと、二人は俺の方を見た。
「おい、嫌がってるのを無理矢理やるなよ」
「あ?なんだテメェ、ぶっ殺すぞ!」
男が思いっきり俺の手を振り払い、ネクタイを掴んできた。
突然俺を掴んでいた男の手が人間離れした大きな手になった。
なんだこれ、魔法使いってこんな特殊能力があるやつがいるのか!?
その手が紐のように解けて、俺の身体を縄で縛るように拘束した。
片手だけは使えるようにしたくて手を上げていたから拘束されなかったが身動きが取れずに、もがいていたら目の前にいた筈の男が消えていた。
周りを見ても誰もいない、あの少年までもいない…逃げれたならそれでいいけど…
すると耳元で、風を切るような音が聞こえた…人が拳で殴る時のような音だ。
俺は条件反射で、音が聞こえた方向に手を出すとなにかを捕えた。
そこには何もないのに、拳のようなものに感じた…何処からか男の舌打ちが聞こえた。
なにかを掴んでいる手はバチバチと電気を発していた。
これはもしかしてレオンハルトの魔法…そうだ、ここは俺がいた世界ではない。
手に力を込めると、より電気が強くなり…掴んでいるなにかは察して俺に離してほしくて暴れている。
でも絶対に離さない、これがあの男のだと思うから…
「お、お前雷属性だったのかよっ」
「少し目を覚まさせてやるよ、酒はほどほどにな」
「ぐぁぁぁっっ!!!!」
より集中すると雷が強くなり、俺を拘束しているものがなくなった。
代わりに、あの男が俺に拳を掴まれたまま地面に倒れていた。
化け物のような形をしていない普通の手に、あれはなんだったのか首を傾げる。
手を見たら、雷がバチバチと覆っている…初めての魔法だったけどあまりにも男が気持ち悪くて拒否反応で偶然使えたな。
……あれ?どうやったらこの雷引っ込むんだろう、腕を振ってみても念じてみても全然消えない。
魔法の使い方を知らない状態で無理矢理使ったからか。
今日は誰にも触らないようにすれば大丈夫かな、見守っていると言っていたから学園内にいるであろうレオンハルトを見つけて戻す方法を聞こう。
いくら悪党でも勝負がついた相手を放置するのはどうかと思い踏まれないように酒屋の壁に寄りかかるように座らせた。
そして広場の方からベルの音が聞こえて、慌ててバス停に向かった。
11
お気に入りに追加
679
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
生徒会会長と会計は王道から逃げたい
玲翔
BL
生徒会長 皇晴舞(すめらぎはるま)
生徒会会計 如月莉琉(きさらぎりる)
王道学園に入学した2人…
晴舞と莉琉は昔からの幼馴染、そして腐男子。
慣れ行きで生徒会に入ってしまったため、王道学園で必要な俺様とチャラ男を演じることにしたのだが…
アンチ転校生がやってきて!?
風紀委員長×生徒会長
親衛隊隊長×生徒会会計
投稿ゆったり進めていきます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
BlueRose
雨衣
BL
学園の人気者が集まる生徒会
しかし、その会計である直紘は前髪が長くメガネをかけており、あまり目立つとは言えない容姿をしていた。
その直紘には色々なウワサがあり…?
アンチ王道気味です。
加筆&修正しました。
話思いついたら追加します。
王道学園なのに会長だけなんか違くない?
ばなな
BL
※更新遅め
この学園。柵野下学園の生徒会はよくある王道的なも
のだった。
…だが会長は違ったーー
この作品は王道の俺様会長では無い面倒くさがりな主人公とその周りの話です。
ちなみに会長総受け…になる予定?です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる