俺の弟が一番かわいい

ー結月ー

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レオンハルトの物語

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『レオンハルト視点』

僕の両親は王位継承者ではなかったが、優秀な雷の魔導士の家系だった。

貴族でもあり、魔導帝国の中では名の知れた一族だ。

家族よりも仕事人間で、前の雷の王位継承者の騎士で家に帰って来ない日も珍しくなかった。

僕は両親の愛情は知らないが、周りには使用人達がいるから寂しくはなかった。

でも愛情がいらないと言ったら嘘になる、使用人達も仕事で接しているだけで…それは本物ではない。

本当の愛情ってどんな感じなんだろう、興味だけならあった。

そんなある日僕は家の庭に出来た大きな切れ目を見つけた。

ジッと見つめていたら、ブラックホールのように吸い込まれそうだ。

この先が何処に繋がっているのか、想像も出来なかった。

入ってはいけないと心の中で分かっているのに、その真っ黒い空間に手を伸ばしていた。

一歩一歩前に進んで、僕の目の前が真っ黒に染まった。

そして、切れ目の先にあったのは見た事もない街だった。

騒がしい音にビックリして、目を丸くして固まった。

チカチカ光る電気からは魔力が全く感じられない。

流れる川にも水の精霊が一人もいない、そんな事あり得ない。

魔法が当たり前の僕にとって、初めて魔法がない国に足を踏み入れた。

ここが噂程度に聞いていた、人間が住む国なんだ。

知らない事を本ではなく現実で知る事が出来ると嬉しかった。

未知なる場所に対して、不安は感じていなかった。

そこで僕はいろんな人を見た、仲良く歩く三人の家族や友達同士で楽しげに話している人達。

その中でも、手を繋いで歩いている男女の姿があり幸せそうに見えた。

愛とは何なのか、本でしか見た事がなかった僕は興味が湧いた。

この国は愛が溢れている、いろんな種類の愛情が…

自分だけが知っているのはもったいないなと思い始めた。

早速切れ目に戻って、使用人達にさっき見た愛について話した。

人間の国の話をする僕に驚いていたが、楽しそうな顔を見て使用人達も笑顔になった。

両親も今は冷めているが、恋をして結ばれたから僕が居ると思っている。

僕もいつか誰かと恋をしたい、出来るかな…恋愛初心者の僕に。

王位継承者とか帝王とか、そんなものに興味はない。

選ばれるとは思っていないが、誰が王位継承者になってもどうでもいい。

僕の興味はたった一つ、ただの魔導士として普通に誰かを愛したいって思っていた。

でも、そんな僕に現実は残酷な未来を映し出していたんだ。

恋愛の本を呼んで、将来出会うであろう人を想像していた時…部屋でつい眠ってしまった。

真っ暗な空間が見えて、僕はただそこに座っていた。

目の前に現れたのは、歴史の本で見た王位継承者の前にしか現れないと言われていた雷獣だった。

雷獣は黄色く光る瞳で僕を見て、年老いた声で語りかけてきた。

『汝か、我を起こしたのは…』

「いや、起こしてないけど」

『なに?我の歪みに触れただろ』

歪み、何を勘違いしているのか…歪みで思い出すのは人間の世界に繋がっていたあの切れ目だけだ。

ただの好奇心で、誰かのなにかなんて考えていなかった。

そう思っていただけなのに雷獣には全て聞こえているかのように頷いた。

あれは雷獣が力を解放した時に割れたみたいで、なんで自分の家の庭で暴れているんだと冷めた瞳で雷獣を見ていた。

もう王位継承者達から神獣達が離れて、新たな王位継承者達を探している噂は知っていた。

しかしまさか自分の家の近くにいるなんて思いもしなかった。

『その歳でお前の魔力は強い、我を使役するのに十分な素質があるな』

「…そんなの知らない、僕は興味がない」

『お前は王になりたくはないのか?』

「なりたくないよ、僕は恋がしたいだけ…帝王なんかになったら知らない人と結婚させられるって聞いたから嫌だ」

雷獣は獣の顔だから変化がイマイチ分からないが、呆然としているのは何となく分かった。

生半可な気持ちで恋愛に憧れているわけではない、僕は王になって自由に人を好きになれないのは嫌だ。

それに僕に雷獣を扱えるとは思えない、まだ10年しか生きてないし…

僕よりも相応しい人なんていくらでもいるんだから、そっちに行ってほしい。

口に出さなくても雷獣には聞こえているのか、雷獣は突然笑い出した。

豪快に笑う雷獣に、今度は僕が驚いて目を丸くする。

そんなに可笑しな事を言ったつもりはないんだけど。

『まさか我の誘いを断るとは初めてだぞ、小僧』と楽しげに雷獣に言われた。

皆そんなに帝王になりたいのか、わざわざ面倒な事をやりたがるなんて変わっているな。

僕は嫌だった、ただそれだけのシンプルな理由だ。

『お前は帝王より、愛する事を選ぶのか…気に入ったぞ』

「……いや、気に入られても」

『帝王になれば相手を選び放題だぞ』

「それって僕が帝王だから寄ってきてるだけでしょ、僕は自分自身を見てくれる人がいい」

雷獣の言葉を聞いてムスッとして、視線を外した。

誰でもいいから付き合いたいと思っている軽い男に見えるのか?

帝王だからと言い寄る人は多い、だから帝王は決められた身分の女性と結婚させられる。

魔導士の未来を繋ぐためとか聞こえがいい事を言っているが、やっぱり愛がないのは嫌だ。

『お前はまだ若い、人生の中で必ずお前自身を愛する者が現れるだろう…その時お前はその者を守れる力があるのか?』

「……」

『我が手伝ってやろう、お前を王位継承者としてではなく愛する者を守れる力を授けるために力を受け取れ』

雷獣が一歩一歩近付く度に、ビリビリと空気が肌に突き刺さる。

これが雷獣の力か、威圧感に押し潰されそうになり固まる。

僕の契約は他の魔導士のように、帝王になりたい…国民を守りたい…力が欲しい…どの目的でもなかった。

ただ一つ、愛する人を守りたい…そのために雷獣の力に触れた。

雷獣の力が全身を包み、満たされた時思っていた感じと違った。

雷獣という強い神獣の力を全て受け継ぐ事になるから、痛いと勝手に想像していた。

でも、暖かいものに包まれて気持ちがいい…心地がいい感じだった。

身体が馴染んできた時、雷獣は何処にもいなかった。

でも僕には分かる、いつも傍に雷獣がいるんだと。

雷獣は王位継承者にならなくてもいいと言っていたが、そういうわけにもいかないと今なら分かる。

雷の王位継承者だけが不在なんて、許されるわけがない…だから王位継承者となる。

あの時、雷獣に触れなかったら僕は梓馬を助ける事が出来なかった。

梓馬との大切な繋がりを結んでくれて、とても感謝している。
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