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拾う神あり

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何事もなく、家に帰るだけじゃなくて良かった。
役に立てるなら、来た意味が少しはある。

酔っ払いはよろけながらも、まだ向かってくるみたいで体をずらすと勝手に転けた。
酔っ払いだし、早く終わらせよう…腹が減って俺も体力がないんだ。

顔の横に拳を突き出してきたから、腕を掴んで足を蹴ると転げた。
酒が回ったのか、そのまま気絶するように眠っていた。

「重っ!」

腕を離して、気持ち良さそうに眠る男を見つめる。
さっさと守護精霊の誰かに引き渡そう。
この国の治安は騎士団である守護精霊達が守ってるから、これも立派な仕事だ。

騎士団の中でも服装が違うからすぐに見つかるだろう。
守護精霊が見つからなくても、騎士に引き渡せばいい…とりあえずもう悪い事をしないように叱ってもらえば悪酔いしなくなるだろう。

そう思って周りを見て、びっくりして後ずさった。

店から数人覗いていて、俺達の様子を伺っていた。

「えっと、この人を騎士に引き渡して…下さ…」

最後まで言う前に、俺の体力も限界になっていた。
そのまま糸が切れたように俺の意識はなくなった。






眩しい光に目がチカチカと痛くなって、目が開けられない。
そう思っていたら、影に覆われて眩しくなくなった。

ゆっくりと目を開けると、俺の顔を覗くツンデレ店員がいた。
という事は、ここは店の中なのだろうか…そして硬いのはソファーの上か。

「同僚を助けてくれてありがとうな」

「俺は大した事は…」

「相手がいくら酔っ払いでも、喧嘩慣れしてるって感じがした!」

「喧嘩なんてした事ないよ、子供の頃から体力を鍛えていただけの筋肉ゴリラなだけだから」

「その割には見た目はヒョロそうだな」

笑われて、俺も釣られて笑みを浮かべる。
 
腹がぐぅ…と鳴ってしまって、恥ずかしさで顔が真っ赤になる。
ツンデレ店員は「腹空いたのか?」と聞いてきた。
今朝から何も食べていないと言うと、凄い驚かれた。

仕事を探しても見つからなくて、田舎に帰るしかないと店員に話していた。
人は弱っている時、余計な事まで話してしまう。
こんな情けない話なんてされても、困るだけだろ。

鼻をくすぐる、美味しそうなにおいがする。
余計に腹が減ってきて、辛くなる。

ソファーの前にあるテーブルに置かれた食事に身を乗り出した。
俺が酔っ払いから助けた可愛い男の子が運んできてくれた。

「残り物の材料で作った料理だけど、良かったら食べて」

「良いの!?」

「うん、助けてくれたお礼」

残り物と言っても、肉の野菜炒めでスタミナと栄養が付きそうだ。
手を合わせていただきますと言ってから、口いっぱいに詰め込む。
慌てて食べたせいで、喉に詰まってしまい胸を叩く。
可愛い男の子に水が入ったコップを渡されて一気に飲んだ。

大きく息を吐いて、落ち着いた。

二人に見守られて、苦笑いしながら残りの肉野菜炒めを食べ終わった。
ただで食事まで出してくれて、お金もないしどうしよう。
食べ終わってから冷静になった。

「俺、今お金がなくて…」

「残り物だから気にしなくていいよ」

「ありがとう、どうお礼したらいいか」

人の優しさに涙が出てきて、嬉しかった。
俺はただ酔っ払いを止めただけだ、もっとなにかお礼がしたい。
そう二人に言ったら、二人は目を見合わせていた。

そして、俺に向かって目を輝かしていた。

何を言われるのか分からず、変に緊張してしまう。
そして、言われた言葉は思ってもみない事だった。

「実は変なお客さんが増えて困ってて…前に用心棒がいたんだけど、腰を痛めて辞めちゃって」

「そうだったのか」

「うん、それで用心棒になってもらいたくて」

その言葉は、俺にとっての光であり希望に満ち溢れていた。
可愛い男の子の手を両手で握り、ジッと見つめた。
ほんのりと赤く色付いた頬が可愛い、店で人気あるんだろうな。

そんな事は今はよくて、もげてしまいそうなほど頭を縦に振った。

こうして俺は、このお店の用心棒として雇ってもらえる事になった。
可愛い男の子は店主の息子みたいで、だから簡単に決められたのだろう。

これは運命だ、俺はその運命を大切に一生懸命働きます!

「用心棒の住み込み部屋に案内するから」

「はい!」

そして、ツンデレ店員に案内されたのは店の裏にある倉庫だった。

これも、ツンデレだから冗談…だよね。
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