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未開拓の地へ

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『ルシア視点』

「えーっと、ルシアくんね…特技はあるのかな」

「薪割りです!」

「…………他は?」

「草むしりです!」

「この街には君に合った仕事はなさそうだね」

「…そ、そんな」

街に降りて、通行手形で中に入ってウキウキ気分でギルドに向かった。
ゲームの仕事案内所と言えばギルドだって思ったからだ。

ギルドに登録して、早速窓口のおじさんと話した。

まさか俺の特技が生かせないと、早速壁にぶち当たってしまった。
この街は、俺が思っているように進化していた。

火、水は守護精霊の力により魔石と呼ばれる石を使えば出来るようになっていた。
その魔石も守護精霊公認で普通に売られている。
俺が知っているゲームは、火も水も俺達のように原始的な方法でやっていた筈だ。
だから薪も必要だと思ったのに、今ではあまり使われていないらしい。

街の外にある牧場を紹介されて、ギルドから追い出されてしまった。
街の外に出稼ぎなんて言ったら両親になんて言われるか。
すぐにまた山小屋に元通りになるに決まっている。

せめてなにか、他の仕事を探さないとなと虚無感を抱いてベンチに座る。
走り回って遊ぶ子供達が目の前にいて微笑ましい。

俺にはあんな子供時代なかったな、友達いなかったし…
あ、でもあの子はいたな…一度会いに行きたいが俺との約束なんて覚えてないよな。

いろんなお店があるのに、俺の居場所はどこにもない。
…いや違う、自分で探しに行かないと…薪割り以外にも俺の才能がなにかあるはずだ。

くそっ、ゲームしか思いつかないがゲーマーなんて薪割りよりも使い道がない!

ぐぅ…とお腹が減り、そういえば今日から街に入れると思って朝飯食べていなかった。
今の時間は多分昼だから昼飯になるのかな。
一応僅かだが、お金は貰っている…飯と一日の宿代で全て吹っ飛ぶけど…

目に付いたカフェにフラフラと入っていった。

カランカランと鈴の音を響かせて、ドアを開ける。

「おかえりなさいませ!ご主人様!」

「……へ?ごしゅ…?」

店員さんが出迎えてくれたのはいいけど、目を丸くした。

俺、誰かのご主人様になった覚えはないんだけどな。
そういえばこの店員さん、頭に耳が生えている…獣人とかなのかな。
でも俺はご主人様ではないんだけどなと戸惑っていたら、席に案内された。

周りを見ると客が店員さんと一緒に歌を歌っていた。
あ、あっちの店員さんと客は楽しそうに話している。

そこで俺は未知なる場所に踏み入れたんだとやっと気付いた。

「ご主人!べ、別に帰ってきたのが嬉しいわけじゃねぇし!」

「急にツンデレ!?」

メニューを渡されて、さっきの虚無感を忘れるほどワクワクしていた。

ここってメイドカフェ?それともコンセプトカフェとかいうのか?
まさかこんなバリバリの異世界に現代文化があるとは思わなかった。
ファンタジーだから許されるのか、俺は大歓迎だ!

生前も一度くらいは好奇心で行ってみたかったが、陰キャでビビリの俺にはハードルが高かった。
今でもここがそういう店だと知ってたら、興味はあるが絶対に行かなかった。
でも一度入ってしまえばコッチのもんだ。

「あ、あの…こ、これ」

「どれ?」

「え、あ…」

「どれ?」

「水、下さい」

店に入ったからといって、何でも出来るわけではなかった。

メニューの全てが口に出すのも恥ずかしい名前のものだった。
俺は泣く泣く水を頼むと、店員さんは行ってしまった。

食べたかったな「野菜とお肉のラブラブサラダ」…俺には無理だった。
水を運ばれて、俺が飲んでると他に注文あると思っているのか店員さんが待ってくれている。

普通だったらああやって楽しくするんだろうな。

そういえば、見た目が可愛いし獣耳と尻尾効果で気付かなかったけどもしかして店員さん皆男の子?

「何見てるんだよ、ご主人」

「い、いや…周りについていけなくて」

「ここ、初めてか?」

店員さんに言われて頷くと、好きなものと嫌いなものを聞かれた。
俺は好きとか嫌いとか分からない…貧乏だったし何でも食べた。
しいて言うなら食べ物なら何でも美味しかった。
嫌いなものはないって言うと、店員さんが別の店員さん、を呼び止めてなにか話していた。

それを見送って、店員さんが俺の向かいの席に座った。

まだ緊張して体を凍らせる俺を見て、八重歯を見せて笑っていた。
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