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ゲーム実況者の人生

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カメラよし、画面よし、マイクよし…それじゃあ始めるか。

画面の前で「どうもこんにちは!鬼畜ゲーム実況チャンネルへようこそ!」と声を出す。
この部屋に誰かがいるわけではなく、俺が話しかけているのは画面の向こう側にいる視聴者だ。

動画配信サイトで動画をアップロードしつづけて三年目、まだまだやったばかりだがそれなりに人が見てくれるようになった。
大学もあるから毎日はアップ出来ないが、それでもなるべく沢山アップしようと大学から帰ってきたらすぐにパソコン画面にしがみついた。

大学では分厚いメガネを掛けて、前髪で隠している陰キャだし動画で顔は晒していないからバレてはいない…と思う。
すぐに家に帰るから大学で友達が出来ない、でも俺には視聴者がいるから寂しくない!

俺がしている動画配信は、チャンネル名の通りゲームの実況だ。
「鬼畜ゲーム実況チャンネル」という名前だけ見れば俺が鬼畜というわけではない。

俺は鬼畜ゲームという、高難易度のゲームを好んで攻略するゲーム実況者だ。
昔からゲームが好きで、俺がゲームをしているところを見てほしいと思ったのがきっかけだった。

昔は普通のゲームをやっていたが、だんだん難しいゲームに魅力を感じて今になる。
ゲームが凄く得意というわけではない、何度もゲームオーバーになっている。
それでも諦めずに、クリアした時の達成感が半端ない。
そのために俺はずっとこのゲーム実況チャンネルを続けている。

「今日は前回の続きからですね!あの追いかけられ方はヤバかったですねぇ」

一人暮らしだから、人の目を気にしなくて済むが独り言をずっと喋っていると時々寂しく感じる事がある。
それを吹き飛ばすように明るい声で騒いだりする。
俺はそのために防音のマンションに住んでいるんだから。

やっとゲームが終わって、カメラを止めて背伸びする。
これから動画編集しなきゃいけないけど、その前に一息つこうと思ってキッチンに向かって歩いた。
ココアでも作ろうかなと思って、小さな冷蔵庫から牛乳を取り出した。

次は何のゲームをやろうかなと思いながら、棚からココアの素の袋を取り出した。
コーヒーは苦くて飲めないから、いつもココアを毎日一杯飲む事を日課にしている。
ココアは落ち着くし、好きだからココアの素を切らさないようにしている。

後一杯分くらいしかないな、明日大学の帰りにコンビニに寄っていこう。

そう思いながら温まったマグカップを持って机に向かった。

動画編集をする前に自分のSNSを開いて確認する。
すると同じ名前の人物から何通か届いている事に気付いてため息を吐いた。

またか…と思いながらも、見ずに消すのは悪いと思い一応開いた。

その内容は「動画見たよ」から始まり、長文の文章が書かれていた。
褒め言葉の合間に「なんで僕に気付いてくれないの?」とか「こんなに愛しているのに」とか送られてきた。

見るんじゃなかった…とすぐにダイレクトメッセージを閉じた。

顔も見せていない俺に冗談か分からないDMを送ってくる。
ガチ恋なんていないとは思っているが、俺の事からかっているのか?
文章からして男のような気がするがネットでは分からない。
偏見はないけど、女の子が好きだし…こんな事をされても付き合えない。
女の子でも、見ず知らずの子はちょっと怖いけど…

いや、DMだけだし…冗談だと流して動画の編集をする。

昔から俺は普通の人に好かれた記憶が一つもない。

小学生の頃、酷いイジメをされて不登校になった事があった。
その時一緒に学校に行こうと優しく行ってくれたクラスメイトがいた。
初めて友達が出来て嬉しかった、だから告白された時は驚いた。
でも、普通の友達でいたかったから告白を断った。

そしてすぐに気付く事になった、彼がイジメの主犯格だった事に…

中学はちょっと無理して遠い中学に行く事に決めた。
彼と会うとトラウマがまた蘇ってしまいそうになるから…

中学では誰とも関わらずひっそりとしていて、空気にとけ込めた。
でも、クラスメイト達は恋愛の話に盛り上がって俺もしてみたいと思うようになった。

高校では俺の陰キャ時代の知り合いがいないところを選んだ。
陰キャがなかなか抜けなかったが、頑張って周りに話しかけたりもした。
小学生の頃のトラウマも消えかけていて、新しい人生を歩もうと思った。

そして、俺と同じような地味な女の子と付き合い出した。
普通の恋愛が出来ると思っていた、付き合って数週間後までは…

束縛が激しいと思ってから、彼女がメンヘラなんだと気付いた。
俺の行動を監視されたり、少し待ち合わせ時間を過ぎたら橋から飛び降りようとしたり…俺の精神も追いつめられていった。

初めて出来た彼女を大切にしたかったが、別れ話をする事にした。
しかし当然簡単に別れる事も出来ず、包丁を持ってきて襲われそうになったから彼女の家から外に逃げたら追いかけてきて、死を覚悟した。

たまたま通りかかってきた通行人に取り押さえられて連れていかれた。
この場合、どうしたらいいのか分からず…ただ見ている事しか出来なかった。
後日謝るために、家に行ったらお母さんが現れて引っ越す事にしたと聞いた。

お母さんに謝って、帰る事にした…ちゃんと別れた事になっていない感じがして心残りだった。
でも、彼女も新しい人生を歩もうとしている…俺が会う事でまた心が乱れてしまうのなら俺はもう関わらない方がいい。

そして、俺は再び誰とも関わらない陰キャに戻った。
一人でスマホを弄っている時、動画配信サイトのゲーム実況に出会った。
好きな事をして、顔も住所も出さずに交流出来る。

今の俺があるのは、きっと経験を重ねたからなんだろう。

こんな俺の事を好きになってくれてありがとう。
俺は、配信を通して新しい人生を歩む事になった。
陰キャは直らないが、俺の性格的にこれがいいと思った。

翌日、今日は大学が休みだから一日ゲーム実況を撮ろうと考えていた。

今日やるゲームは視聴者さんに教えてもらった乙女ゲームだった。
恋愛ゲームはやった事がなくて、なにが難しいのかと思ったらRPG要素があるらしい。
いろんなゲーム実況者達がチャレンジして挫折していた。

RPGならレベル上げを根気よくしていればクリア出来るだろうと思っていたが、そんな簡単なものではなかった。
そもそもレベル上げがないゲームで、戦略をちゃんとしないとクリア出来ない。
いろいろ批判があったのか、新バージョンで優しい難易度が設定出来るようになった。

でも、やるなら旧バージョンだろと思ってパッチは入れていない。

ヒロインの少女がプレイヤーで、攻略キャラクターのイケメン達と恋愛しながら敵と戦う。

ざっくり説明すると、そんなストーリーでさっそく始める。
最新ゲーム機で発売したゲームで、テレビに繋げて録画する。

花と自然が豊かな平和なファネル王国が舞台で始まる。
少女は両親が死に、親戚達に厄介者扱いされて家を追い出された時美しい青年と出会う。

守護精霊の力を持つ人達に守られ、少女は大天使の力を持ってサポートしていた。
その中でも最初に出会った青年の力は他の守護精霊の人とは違い、強かった。
暴走する力を少女に支えてもらい、いつか惹かれあっていった。

思ったより頭を使う戦略をしないといけないから、何度もゲームオーバーになりつつ絶対にクリアしてやるという気になった。
動画配信サイトのコメントでも応援してくれる人がいて、頑張れた。

そして数日が経ち、ちょっと休憩しようと思ってココアを飲もうと棚を見た。

ココアの素が入っている袋は空で、そういえば昨日全部飲んだ事を思い出した。
ゲームに夢中で忘れていた、外を見るとすっかり暗くなっていた。

出歩くの面倒だけど、俺の体はココアを求めているからココアを買いにコンビニに行く事にした。
外はまだ冷えるから上着を着てポケットに財布とスマホを押し込んで外に出た。






ココアの素を買って、コンビニから家に帰る時だった。
信号待ちをしていた時、後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
俺の名前というか、ネット上の名前で…それを無視した。
なんで俺だってバレた?いや、偶然かもしれない。
そうだ、そうに違いない…他人のフリをすれば諦める。

「ねぇ、なんで無視するの?あんなに愛してるって言ったのに」

その声に反応して、血の気が引いた……まさかあのDMの?
後ろを振り返ろうとしたら、迫ってくる車のライトで相手の顔は見えなかった。
でも、知らない人なんだと思った…なんとなくだけど…

背中に強い衝撃が加わり、道路に倒れて避ける暇なく目の前に車が迫っていた。

最後に聞こえた声は、笑っていた…俺の周りにココアの粉が散らばっていた。
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