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12、夏はトマト投げ合戦、かーらーのー

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 夏の最大イベント、それは「トマト投げ合戦」━━からの「水かけ祭り」。

 初日にトマトをぶつけあい、二日目はトマトまみれになった街を洗い流すのを兼ねて盛大に水かけ祭りが開催される。
 この二日間は朝から無礼講でお互いトマトをぶつけあい、水を掛けあうという、どこかで聞いたような祭りで、子供から大人まで暑気払いを兼ねて町全体で盛り上がる。
 飛び入り参加歓迎のせいもあって、こんな田舎にも多少の観光客が訪れたりもするけれど、二日目の水かけ祭りはハムスターさんみたいな小さい皆さんは道端で溺死の可能性があるという、なかなかデンジャーなお祭りだったりする。
 だから日本で小動物と言われるようなちびっ子さん達は、大きな人の肩なんかに乗って参戦。
 私の右肩にもフクロモモンガのハリーさんと、リスさん。左肩には初対面のフェレットさんが乗って、腕にはウォンバットさん。

 そう、オーストラリアの保護動物!
 人懐っこくて抱っこ大好き、お腹ナデナデ大好き、動物好きが憧れてやまないウォンバットさんですよ!

 今までウォンバットさんをお見かけしたことはないので旅行者さんなのかも。
 初対面なのに『延々お腹ナデナデモフモフしていいのよ』という神対応をしていただき、お言葉に甘えて延々抱っこさせていただいています。
 小型犬サイズでいらっしゃるので、水たまりで溺れるなんて危険性は少ないのかもしれないけど、もしかしたらお水が嫌いなのかも。
 オーストラリアって乾燥してるイメージだし。
 まあ、まだ水かけ祭り、始まってないんだけどね。

 朝は今日1日の食料を確保する時間で、うちもいつもより大量のパンを捌いた。
 とりあえず朝の分は完売してしまって、今は成型したパンを寝かせて最後の発酵中。

 祭りの日はいつにも増して朝が早い。
 というか深夜のうちからパン製造をしている。
 少し時間が開いたので表に出て祭りの朝の様子を見ながら、こわばった体を伸びでほぐしていると、小動物の皆さんに群がっていただいた。
 通りかかったウォンバットさんが「抱っこタイムか!?」とばかりに走って来られた時にはもう、この世の天国かと思った。

 つかの間の休憩時間に店先の階段に座ってモフモフを堪能していると、商店街の青年部のスタッフTシャツ姿の千秋さんが慌ただしくリストを片手に最終チェックをしながら通りを颯爽と歩いて来られた。
 千秋さんは商店街の商工会の青年部部長さんなので、こういった時には必ず実行委員会のメンバーをされている。 
 水捌けが悪い通りへの進入禁止表示や、その他もろもろを確認して回ってるっぽい。
 千秋さんも昨日の「トマト投げ合戦」から連日出ずっぱり。
 普段はちゃんと櫛を通されたたてがみが、今日はちょっと乱れてて申し訳ないながら「いいもの見たなぁ」なんて思ってしまう。

「おはようございます。朝からお疲れ様です」
「おはよう━━」
 お忙しいだろうに笑顔でこちらを振り向いてくれた千秋さんは、何か気になる事を見付けたのか少し真剣な表情になった。

「お前ら、暇なら手伝え」
 そう言ってフクロモモンガのハリーさん、リスさん、フェレットさんをつまみ上げるようにして自分の肩に乗せる。
 まぁ背の高い千秋さんの方が安全だもんね。
 残念ながら千秋さんの肩に乗せられるなりみんな「そろそろ水の準備するわ、じゃーなー」とあからさまに逃げて行ったけど。
 何気にひどいなみんな。

「ご観光ですか、祭りの見物でしたら通りの街路樹の上がおススメですよ」
 そう言って、友達甲斐の無いメンバー達を気にする風もなくウォンバットさんを抱き上げる千秋さん。
「いや、俺はここで」
「私もこれからそちらに向かいますから、ご案内しますね」
 さすが何年もされているだけあって観光客の案内までスマートだなぁ。
 大きな黒獅子さんの腕の中で、短くて太い手足をバタバタさせて暴れるウォンバットさん。
 お可愛いらしいわぁ。

「今年も昼も販売するんだよね?」
「あ、はい」
 ランチタイムは観光客の方がターゲットっす。
 荒稼ぎ、とまでは行かないけどかなりの売上になる。
 ああ、お昼と言えば。

「今、本部への納品分冷ましてる所なのでもう少ししたら納品に行くんですけど、どなたかいらっしゃいますか?」
 実行委員会のスタッフさんのお昼は、ありがたい事にうちに発注をいただいている。
 これまでお昼は各自で準備、だったらしいんだけど千秋さんが実行委員会に掛けあってくれて、「お客さん」の自立支援の要素もあるって事で発注いただきました。
 実行委員さんからも「時間がないから手軽に取れる昼食が出るのはありがたい」、と好評をいただいているそうです。
 うん。
 完全にボランティアみたいなもんだし、お昼ぐらいの役得はあっていいと思う。
 ただ、納品に行ったら本部なのに皆さん忙しすぎて去年は無人で途方に暮れた。
 置いといていいと言ってもらってはいるけど、日本人のせいかちょっとそれは気が引けるもんで。

「ああ、これ終わったら本部への搬入手伝うから」
 チェックリストを軽く掲げながらそう言ってもらったけど、祭りの実行委員でも若手の千秋さんはとにかくご多忙。
 なのでお気持ちだけいただきました。 
 誰もいらっしゃらなかったら置いて帰ります。

「明日の朝ごはんってもう確保されてます? これからうちの朝の分も焼くんですけど一緒に取っときましょうか?」
 千秋さんはお料理上手だけど、おそらく明日の朝はお疲れだろうから朝は手軽に済ませたいはず。
「あ、それはすごい助かる。お願いしてもいい?」
 もちろんで御座いますよ、普段散々お世話になってますからね。

 ちなみにはじめは何やら暴れていらしたウォンバットさんは、千秋さんの「お腹なでなでテクニック」にメロメロになってました。
 千秋さんは何をやっても器用にこなすなぁ。
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