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13、性懲りもせず事故りかける
しおりを挟むキース隊との合同任務を終え、反省を兼ねた軽い打ち合わせと明日の予定を連絡して解散する。ここからが真の反省会だ。
いつもの店へ続く道にはうちの濃緑の制服とクロフクが入り乱れ、のんびりだらだらと向かうその背にふと口元が緩んだ。任務後の合同飲み会ももはや一連の流れで、誘い合う事さえなく自然とクロフクと濃緑の制服が入り混じって馴染みの店に足を向ける様子は不思議な光景だが悪くない。
クロフク連中と連携が取れるようになってから確実に効率が上がり、怪我人も減った。
見えない壁も一度越えてしまえば何の確執があったのかと馬鹿らしくなるほどで、昔からの慣例も世代交代で若い連中の柔軟な考え方が大半を占めるようになり薄まったのだろう。
要するに、俺はとにかくご機嫌だったんだ。
「キース隊長、最近官舎の食堂で夕食取られてないんですよね? 女性陣が寂しがってますよ」
姿を見る機会がないと女性陣が嘆いている、そうロイが隣のキースに絡む。あのキースにだ。ずいぶん打ち解けたものだ。
「こいつ当たり前みたいな顔してうち来るからなぁ」
キースとの肉体関係は続いているが公にはしていない。男同士だからと後ろ指をさされるような事はないがわざわざ吹聴する事でもない。
「まぁ確かに隊長のご飯ってめちゃくちゃ美味いですもんねぇ」
しみじみと言うロイの杯に「そうだろうそうだろう」と酒を足してやる。
「長期作戦で野営する時にたまに食事作ってくれるんですよ」
正面にいた副隊長のアンナがロイの後頭部をしばきながらキースに補足するかのように声をかけた。なんで今ロイしばいたんだ、アンナ。
「なるほど、野営でラズル隊長の食事を食べられるなら悪くないですね」
めずらしく人前で俺を持ち上げるキースに気をよくした俺は、浮かれてとっておきの秘密を口にした。
「だろ? 退役したら飯屋やろうと思ってんだよ。店開けたらキースも食いに来いよ」
言った途端となりのアンナがヒュッと変に喉を鳴らした。
あ、そういやキースにこの話すんの初めてだったな。まぁうちの隊員達はみな知ってるから聞いてるかもしれねぇが。
タンっ、と少し大きな音を立ててキースは空いた杯をテーブルに置く。また酔っているのかと顔を確かめれば眉を顰め料理を睨んでいる。嫌いなものでもあったか?
「ラズル隊長ンち、物ないでしょう?」
そうキースに尋ねるロイの姿にずいぶん打ち解けたものだと口元が緩む。
「店を持つって人生設計があると無駄遣いしないんだなーって尊敬します。その代わり風俗に遣ってるけどそこはまぁ」
「いや、そっちはもう長いこと行ってねぇよ」
給料ぶっこんだのは入隊して数年の若い頃だけでその後まともと言っちゃなんだがそれなりに遊び方を覚えたし、口にはしないがキースのおかげで行く今は必要がなくなった。
いつまでも娼館通いしてねぇよと笑えば目の前でロイがアンナに吊るされた。ロイの顎を掴んで立ち上がったアンナは入口の方の女の子集団にロイの顎を向ける。なんでロイを吊るすんだアンナ。同じ部隊の隊員にする扱いではないがまぁ酒の席だしな。
「ほら、いつまでミアちゃんほったらかしてるの」
有無を言わさぬ強い口調のアンナはギリギリと顎を持ち上げ、アンナの目配せに反応したミアちゃんが心得たように呻くロイを引き取りに来た。両隊の女の子同士の中もいいようで何よりだが、今日のアンナはえらく荒々しい。何か嫌なことでもあったのか。最近男はいないはずだが。
「すみませんキース隊長、うちって頭に筋肉しか詰まってないのばかりで配慮ってものが出来なくて。うちの隊はいつも通り明日は一日休暇です」
アンナは妙に改まった様子でキースに明日の予定を連絡する。なんでよその隊長に明日の行動予定をそんなに真剣に伝達してんだ。アンナがそんなに酔うなんて珍しいこともあるもんだ。
「分かりました。ありがとうございます」
キースも気付いているのか酔っ払いに合わせて神妙な態度で応じている。
「アンナ酔ってんの?」
「酔ってないですよ。隊長のせいで酔いも吹っ飛びましたよ」
心配したのに怒られた。酔っ払いはそう言うもんなんだよ。
「今日は完全に隊長が悪いです。反省してください」
「あーはいはい、俺が悪かったよ。珍しいな、お前がそんなに酔うなんて」
「酔ってません」
ダメだ、言っていることが支離滅裂すぎる。今日のアンナは完全に出来上がっている。
キース隊との合同反省会という名の打ち上げ飲み会は定例となり、それが終わればキースと一緒に帰宅するのもお決まりのコースになっている。
それはいい。キースがいると最悪は風呂に入らなくても魔力を遣って身綺麗にしてくれるし、作戦後の昂ぶった心身を持てあますことなく発散できる。抱かれる事に慣れてしまって風俗に行く気にもならない。気を遣って女の子と寝るより受け身で抱かれる方がよっぽど気持ちがいい。
ヤベェなー、まあ結婚願望もないからいいんだけど。
家に着くなり噛みつくような口づけでベッドまで追いやられ、その勢いでそのまま押し倒される。何かに追い立てられるような手つきで制服を剥かれ、そっちがその気ならと負けじと黒い制服の襟元の留め具に手をかけた。
「ロイはここに来たことがあるんですか」
「あー、たまに深刻に悩んでるヤツとか連れてきて飯食わせるからな。入隊してすぐの官舎や生活になじめない若いのを一晩泊めたり」
言ったそばからキースに舌打ちされる。
嘘だろ、なんでだよ。
舌打ちしたのにキスはやめない。
それどころかより深く舌をねじ込んでくる。酒気と酸欠で軽く頭がくらくらして思わず笑いがこみ上げた。やばい、今頃酔いが回ってきたか?
「ふ、はは……イッ!」
耳の下の首筋を強く噛まれ、咄嗟に突き放そうと手が出た。その手首を取られ愕然とする。
こっちは肉体勝負の剣術部隊だぞ。
「なんですか、食べに来い?」
低く言うキースの目はひどく暗く見えた。欲情に熱を持つ目じゃない。
「なに……」
を言っているのか。
なんかキース怒ってんな。何に腹を立てているのか、思い当たる事はないんだが。
「ふざけないでくださいよ。アンタから離れる気はないからな」
ぞわりとしたものが体の芯を走った。
キースが「アンタ」と使う時は素を見せている時だ。
素で、言っている。かっと心臓が熱を帯びる。
だめだ。
よく分からないが、こりゃ今日は食われるわと覚悟した。
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