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2、推理過程 魔術会系キース隊長は昨夜を整理する
しおりを挟む逞しい体に男くさい精悍な顔立ちのラズル隊長は市井のたたき上げ出身で、無精髭と伸びた髪を雑に一つに括った風貌と相まって締まりのない雑然とした人物に見える。しかしいざ任務となると別人のような鋭さで数々の実績をあげ、実力のある優秀な人物と認められている人のハズなのに。
少し低い身長は不利にも思えるがそれを物ともせずその強さは他とは一線を画し、人望の篤さから統率力も高い。
そんな彼が率いるラズル隊は剣術部でもトップクラスの実力集団と言われている、ハズなのに。
昨夜は無理矢理このコミュ力お化けの権化のような剣術部ラズル隊長に飲み会に参加させられた。
魔術部と剣術部は同じ任務に就いて組む事は少なくないが、それだけの関係で終われば解散が常だというのに。
魔力持ちは孤児でも富裕層が引き取る。富裕層には国からその義務が課せられている。そのまま悪の道に走られると面倒だからだ。
よって魔力部隊の隊員達は裕福な家庭の出身が多い。
黒い軍服を纏う魔力部隊は、濃緑の軍服の剣術部隊からは『クロフク』とも呼ばれる。それは昔から魔力部隊の方が高給で、お互い少しの階級意識が消えないからだ。
どちらも体を張り、時には両者命をかけて人民を守るのだから給与の差はあっても格付けなど不必要だ。市井出身の魔術師が大部分を占める現在、限りなく平等に近い。けれどだからといって馴れあう事も無い。
庶民的な食堂を貸し切っての宴会に魔力部隊の隊員が戸惑う中、ラズル隊は慣れた様子でヒートアップして行った。
ラズル隊長は『褒め殺し魔』だという。
「アンディ! お前ちゃんと訓練したんだな! 良くなってたぞ!」
「サージ、いい筋肉だ! ナイスマッチョ!」
「グレン、お前はお姉さん隊員の癒しだ!」
「アンナ! お前の補助は今日も素晴らしかった! 今夜は三人までお持ち帰りしてヨシ!」
「ラズル隊長、それ完全にセクハラです! 訴えられたくなければ今度ケーキ買ってきてください! 並ぶとこのですよ!」
酔っぱらうと片っ端から褒めて褒めて褒めまくるのだと、セクハラを軽くいなしたラズル隊のアンナ副隊長が「困った人でしょ」とでも言うように笑って肩をすくめた。
うちの隊員もことごとくその餌食となった。ここ数日一緒に任務に当たっただけだというのにうちの隊員まで一人一人褒めて回っている。
「君! あのタイミングでの結界、あれはすごかった! さすがキール隊!」
「すごいセンスいい攻撃だったよミアちゃん! 彼氏は? え? 募集中? 剣術部隊は対象外だったりする? あ、大丈夫? うちにもけっこう顔いいのとか筋肉いっぱいいるからね! どれでも持って行っていいよ!」
「ミナウス君だったよねっ? 二日目、回復ありがとう! めっちゃ効いた! 気持ちよかった!」
中には「耳の形がいい!」だの「痺れるいい声だ!」だの雑なものも混じっていたが、所詮は酔っ払い。ストレートな労いにみな嫌がるどころか照れたように笑ったり、実に楽しそうにしている。
そして顔を赤くして完全に出来上がった様子のラズル隊長が隣に来たのが運の尽きだった。
「キース隊長! ホントお前はすげぇよ! 滅茶苦茶やりやすかった! 相当研究とかした? おかげでうちの隊員も大した怪我も無く済んだ! ありがとう! この男前め!」
肩を組まれ、ぐしゃぐしゃと頭をかき混ぜられた。犬でも撫でるかのような雑な扱いにラズル隊の女性達がぎょっとし「キース隊長の髪が!」と悲鳴を上げながらラズル隊長を拘束した。
その様子に両隊員が笑いこけているが、本格的に床に拘束され痛みを訴えるラズル隊長の絶叫は本物だったように思う。
「今日はご一緒できてとても楽しかったです。楽しすぎてうちの隊長がハメを外してしまって申し訳ありません」
一応自分では立っているがフラフラ、ヘラヘラしているラズル隊長を見て店を出た所でアンナ副隊長はそう言って申し訳なさそうに軽く頭を下げた。
なぜかラズル隊長を送る事になっていた。官舎までの行きがかりだから断る事も出来なかった。ラズル隊にも官舎暮らしはいるだろうに。
「鍵は首から下げてますけど、玄関の前に転がしといて大丈夫ですから。面倒だったらアパートの前でもかまいません」
実にひどい言い様だが、その表情を見ればラズル隊長が嫌われてのことではないと分かる。
ラズル隊長は隊員に慕われている。それは任務中の様子から以前から感じていた。魔力部隊ともこうして交流できる彼は人として魅力的なんだろう。
そう思ったのだが。
「なぁ、はじめっからもう一回お願いしてい?」って。
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