会社一のイケメン王子は立派な独身貴族になりました。(令和ver.)

志野まつこ

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第2章 その後のふたり

10、美術館とお茶椀 <後>

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 ランチを楽しんだ後たろさんは「今日見てちょっと興味持ったんだよね。ずっと弟さんの食器使わせてもらってるし」そう言ってうつわ屋さんへ入った。
 前回わたしが長居したシックなうつわのお店。
 うわぁ。
 好みのお店だったから嬉しい反面、これは物欲との戦いになりそうだ。

 前に見た器あるかなぁ。
 土の風合いの残った、黄色い花の野草が描かれている素朴なシリーズ。
 でもたろさん、弟のお茶椀は100均なんです。
 いいお茶椀は割れやすい気がするんです。
 湯呑は割と丈夫だけど、お茶椀は━━っ。

「堀ちゃん、それ前も見てた?」
 手に取った器をひょいとのぞいて言われた。
「よく覚えてますね」
 わたし、あの時そんなに物欲と戦ってましたか。

「何か気になるのありました?」
「それ、いいよね。それにしようかな」
 え、ほんとですか?
 この一目ぼれの器が我が家の食器棚に並ぶと? ときめくんですけどっ。
 100均の食器が半数以上を占める中、あからさまに浮きそうだけど、この際王様としてお迎えさせていただきます。
 たろさんが会計を済ませる間、「他の見てていいよ」と言われて、店頭のショーウィンドウの季節の小物を見に行かせてもらった。
 小さめの器に実のついた枝が生けてある。
 これまた風情のある感じで。
 こういうのを自然にセンス良く出来たらいいのになぁ。
 店員さんが梱包してくれている間、たろさんが戻り「あ、和だ」などと言うので同意して笑ってしまった。

 うちに帰って、早速「お高い器」が我が家でどう見えるかが気になって許可を取って紙袋を開けてみたら、ん? なんか変なんですが。
 お茶椀1つにしては、妙に大きな、厳重に梱包された包み。
 開けてみれば━━

 夫婦めおと茶碗、だよねぇ?
 お店の人、そんな間違いしないよねぇ?

 腕組みしてしばらく見詰め、上着をハンガーに掛けてコタツに入ったたろさんを見やれば、こちらをじっと見ていた。
 楽しそうな、微笑を浮かべて。
 くっ━━!
 わたしの間抜けな様子をずっと観察していましたね?
 えー、これお高いですよねー?
 1点3千円位しませんでしたっけ?
 金額を考えて、思わず聞いてしまった。
「これ、わたし使っていいんですか?」
「他に誰が使うの」
 たろさんに笑われてしまった。

「ありがとうございます」
 ああ、今めっちゃ笑顔だっただろうな。
 自分の現金さをいたく実感する。
 たろさん、少し面食らったみたいだったもんね。

 これを割ったら、というプレッシャー、正直ありますよ。
 とにかく大事にさせていただきます。

 惚れ惚れと器を見ていたら。
「千佳さん」
 呼ばれてもう一度たろさんを見やればトントン、とコタツの天板を叩かれた。
 そこには穏やかな笑顔。
 少し細められた目は優しく誘っていた。
「こっちおいで」と如実に語る瞳は、妙に艶めかしい。
 その瞳にあてられて、吸い寄せられるように隣に座ろうとしたら、たろさんの腕の中に座るよう促された。
 うーん、子供がお父さんの胡坐あぐらに座ってるみたいだ。
 いや、胡坐には座ってないんだけどね。
 たろさんコタツからだいぶ出てますよ。
 まだ夕方は冷えますが、寒くないですか。

「ご飯が美味しく頂けそうです」
 腕の中に閉じ込められたので、体を斜め横に倒して背後を見上げるように言えば「堀ちゃんのご飯はいつも美味しいよ」とキスされた。
 あ、白ご飯と言うべきだったか。
 またそうやってわたしを甘やかす。
 なんだかんだで、やっぱり年上にはかなわない。

 ウエストに腕が回され、うなじキスが落とされる。
 今日はアップにしてたもんなぁ。
 たろさんの手の甲に手を重ね、にやにやを抑えきれず聞いてみる。

「うなじですか」
 たろさんも、うなじには弱い方ですか。
 世間一般の男子はうなじに弱いもんなんですよね?

「んー、うなじだけというワケでも、ないんだけどね」
 笑いながら、ついばむように口づけられる。
 うなじに唇を当てたまま話されると、くすぐったい。

 うなじへのキスは、首筋へと移った。
 あれ、これはいただかれちゃうってやつか。
 白ご飯より先にいただかれちゃうのか。
 うなじの威力、恐るべし。
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