39 / 47
第2章 その後のふたり
10、美術館とお茶椀 <後>
しおりを挟む
ランチを楽しんだ後たろさんは「今日見てちょっと興味持ったんだよね。ずっと弟さんの食器使わせてもらってるし」そう言ってうつわ屋さんへ入った。
前回わたしが長居したシックなうつわのお店。
うわぁ。
好みのお店だったから嬉しい反面、これは物欲との戦いになりそうだ。
前に見た器あるかなぁ。
土の風合いの残った、黄色い花の野草が描かれている素朴なシリーズ。
でもたろさん、弟のお茶椀は100均なんです。
いいお茶椀は割れやすい気がするんです。
湯呑は割と丈夫だけど、お茶椀は━━っ。
「堀ちゃん、それ前も見てた?」
手に取った器をひょいとのぞいて言われた。
「よく覚えてますね」
わたし、あの時そんなに物欲と戦ってましたか。
「何か気になるのありました?」
「それ、いいよね。それにしようかな」
え、ほんとですか?
この一目ぼれの器が我が家の食器棚に並ぶと? ときめくんですけどっ。
100均の食器が半数以上を占める中、あからさまに浮きそうだけど、この際王様としてお迎えさせていただきます。
たろさんが会計を済ませる間、「他の見てていいよ」と言われて、店頭のショーウィンドウの季節の小物を見に行かせてもらった。
小さめの器に実のついた枝が生けてある。
これまた風情のある感じで。
こういうのを自然にセンス良く出来たらいいのになぁ。
店員さんが梱包してくれている間、たろさんが戻り「あ、和だ」などと言うので同意して笑ってしまった。
うちに帰って、早速「お高い器」が我が家でどう見えるかが気になって許可を取って紙袋を開けてみたら、ん? なんか変なんですが。
お茶椀1つにしては、妙に大きな、厳重に梱包された包み。
開けてみれば━━
夫婦茶碗、だよねぇ?
お店の人、そんな間違いしないよねぇ?
腕組みしてしばらく見詰め、上着をハンガーに掛けてコタツに入ったたろさんを見やれば、こちらをじっと見ていた。
楽しそうな、微笑を浮かべて。
くっ━━!
わたしの間抜けな様子をずっと観察していましたね?
えー、これお高いですよねー?
1点3千円位しませんでしたっけ?
金額を考えて、思わず聞いてしまった。
「これ、わたし使っていいんですか?」
「他に誰が使うの」
たろさんに笑われてしまった。
「ありがとうございます」
ああ、今めっちゃ笑顔だっただろうな。
自分の現金さをいたく実感する。
たろさん、少し面食らったみたいだったもんね。
これを割ったら、というプレッシャー、正直ありますよ。
とにかく大事にさせていただきます。
惚れ惚れと器を見ていたら。
「千佳さん」
呼ばれてもう一度たろさんを見やればトントン、とコタツの天板を叩かれた。
そこには穏やかな笑顔。
少し細められた目は優しく誘っていた。
「こっちおいで」と如実に語る瞳は、妙に艶めかしい。
その瞳にあてられて、吸い寄せられるように隣に座ろうとしたら、たろさんの腕の中に座るよう促された。
うーん、子供がお父さんの胡坐に座ってるみたいだ。
いや、胡坐には座ってないんだけどね。
たろさんコタツからだいぶ出てますよ。
まだ夕方は冷えますが、寒くないですか。
「ご飯が美味しく頂けそうです」
腕の中に閉じ込められたので、体を斜め横に倒して背後を見上げるように言えば「堀ちゃんのご飯はいつも美味しいよ」とキスされた。
あ、白ご飯と言うべきだったか。
またそうやってわたしを甘やかす。
なんだかんだで、やっぱり年上にはかなわない。
ウエストに腕が回され、うなじキスが落とされる。
今日はアップにしてたもんなぁ。
たろさんの手の甲に手を重ね、にやにやを抑えきれず聞いてみる。
「うなじですか」
たろさんも、うなじには弱い方ですか。
世間一般の男子はうなじに弱いもんなんですよね?
「んー、うなじだけというワケでも、ないんだけどね」
笑いながら、ついばむように口づけられる。
うなじに唇を当てたまま話されると、くすぐったい。
うなじへのキスは、首筋へと移った。
あれ、これはいただかれちゃうってやつか。
白ご飯より先にいただかれちゃうのか。
うなじの威力、恐るべし。
前回わたしが長居したシックなうつわのお店。
うわぁ。
好みのお店だったから嬉しい反面、これは物欲との戦いになりそうだ。
前に見た器あるかなぁ。
土の風合いの残った、黄色い花の野草が描かれている素朴なシリーズ。
でもたろさん、弟のお茶椀は100均なんです。
いいお茶椀は割れやすい気がするんです。
湯呑は割と丈夫だけど、お茶椀は━━っ。
「堀ちゃん、それ前も見てた?」
手に取った器をひょいとのぞいて言われた。
「よく覚えてますね」
わたし、あの時そんなに物欲と戦ってましたか。
「何か気になるのありました?」
「それ、いいよね。それにしようかな」
え、ほんとですか?
この一目ぼれの器が我が家の食器棚に並ぶと? ときめくんですけどっ。
100均の食器が半数以上を占める中、あからさまに浮きそうだけど、この際王様としてお迎えさせていただきます。
たろさんが会計を済ませる間、「他の見てていいよ」と言われて、店頭のショーウィンドウの季節の小物を見に行かせてもらった。
小さめの器に実のついた枝が生けてある。
これまた風情のある感じで。
こういうのを自然にセンス良く出来たらいいのになぁ。
店員さんが梱包してくれている間、たろさんが戻り「あ、和だ」などと言うので同意して笑ってしまった。
うちに帰って、早速「お高い器」が我が家でどう見えるかが気になって許可を取って紙袋を開けてみたら、ん? なんか変なんですが。
お茶椀1つにしては、妙に大きな、厳重に梱包された包み。
開けてみれば━━
夫婦茶碗、だよねぇ?
お店の人、そんな間違いしないよねぇ?
腕組みしてしばらく見詰め、上着をハンガーに掛けてコタツに入ったたろさんを見やれば、こちらをじっと見ていた。
楽しそうな、微笑を浮かべて。
くっ━━!
わたしの間抜けな様子をずっと観察していましたね?
えー、これお高いですよねー?
1点3千円位しませんでしたっけ?
金額を考えて、思わず聞いてしまった。
「これ、わたし使っていいんですか?」
「他に誰が使うの」
たろさんに笑われてしまった。
「ありがとうございます」
ああ、今めっちゃ笑顔だっただろうな。
自分の現金さをいたく実感する。
たろさん、少し面食らったみたいだったもんね。
これを割ったら、というプレッシャー、正直ありますよ。
とにかく大事にさせていただきます。
惚れ惚れと器を見ていたら。
「千佳さん」
呼ばれてもう一度たろさんを見やればトントン、とコタツの天板を叩かれた。
そこには穏やかな笑顔。
少し細められた目は優しく誘っていた。
「こっちおいで」と如実に語る瞳は、妙に艶めかしい。
その瞳にあてられて、吸い寄せられるように隣に座ろうとしたら、たろさんの腕の中に座るよう促された。
うーん、子供がお父さんの胡坐に座ってるみたいだ。
いや、胡坐には座ってないんだけどね。
たろさんコタツからだいぶ出てますよ。
まだ夕方は冷えますが、寒くないですか。
「ご飯が美味しく頂けそうです」
腕の中に閉じ込められたので、体を斜め横に倒して背後を見上げるように言えば「堀ちゃんのご飯はいつも美味しいよ」とキスされた。
あ、白ご飯と言うべきだったか。
またそうやってわたしを甘やかす。
なんだかんだで、やっぱり年上にはかなわない。
ウエストに腕が回され、うなじキスが落とされる。
今日はアップにしてたもんなぁ。
たろさんの手の甲に手を重ね、にやにやを抑えきれず聞いてみる。
「うなじですか」
たろさんも、うなじには弱い方ですか。
世間一般の男子はうなじに弱いもんなんですよね?
「んー、うなじだけというワケでも、ないんだけどね」
笑いながら、ついばむように口づけられる。
うなじに唇を当てたまま話されると、くすぐったい。
うなじへのキスは、首筋へと移った。
あれ、これはいただかれちゃうってやつか。
白ご飯より先にいただかれちゃうのか。
うなじの威力、恐るべし。
10
お気に入りに追加
287
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる