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第2章 その後のふたり
9、たろさんの「堀ちゃんが想像以上に大物だった」話
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以前、堀ちゃんが気になると言っていた古民家カフェは大正末期に作られた建物をリノベーションした物で、それは趣のある店内だった。
和装の花嫁をずいぶんと落ち着いた様子で見ていたので、「教会でドレス派」かと思ってそれとなく尋ねれば━━
「わたし、無神論者なんですよねぇ」
オーダーした食事を待っている間、堀ちゃんはしみじみと言った。
今日の堀ちゃんは朝の天気予報を見て「今日は気温が上がりそうですねぇ」と髪をアップスタイルにしている。
上着を脱ぐと首筋やうなじについ目が行く。
妙なところで春めいてきたと実感した。
「普段信仰もしてないのに突然行って誓われても、神様も困るんじゃないかと思うんですよねぇ。あ、もちろん出席する分には全然気にならないんですよ? 神前式は厳かなのがいいですよね。残すべき日本文化って感じで大切だと思うし、最近のチャペルはすっごくきれいで、ちゃんと盛り上がってるんですよ? でも自分が、となるとなんか違うかなぁ、人前式がベストなのかなぁ、と。親兄弟やら友達に誓った方がよっぽど重いと言うか、こう、後にひけない感がありません?」
━━うん?
なんか結婚に対する熱と言うか、ときめき的な盛り上がりが思った以上に堀ちゃん少ないような。
ていうか、なんかそれものすごい鬼気迫る感じがする気がするんだけど、気のせいか?
結婚式ってそんなシビアに考える物なのか?
みんな軽いノリ、と言っては悪いけど「憧れ」とかで決めるもんじゃないのか?
あとは家のしきたりとか?
うちも特にしきたりはない家だから兄貴の時も、「嫁さんの希望」でチャペルウェディングだったハズ。
え、俺間違ってないよな?
堀ちゃんらしいと言えば、本当に堀ちゃんらしいんだけど。
でもってそう言われたら、それがものすごく自然な気がしてきたんだけど。
「まあ、ゲストに美味しい物を喜んでもらえたらそれでいいんじゃないかと。わたし、30件以上出席したんですけど、結局覚えてるのって食事が美味しかった所なんですよ」
ずいぶんと遠い目をして堀ちゃんは言った。
さん、じゅっけん……?
「最近は親しい人だけでこじんまり、も増えてますけど10年位前って同僚も招待するのが普通だったじゃないですか。あの会社って女の子少ないから、他部署の先輩とか、回転の速い総務の寿退職にも毎回ご招待いただいてたんで。30件を超えてから回数が分からなくなったんですけど、中小企業の社長かって感じですよねぇ。経理課長には『絶対取り戻せないね』って笑われました」
何とも悲惨な話に聞こえたが、「中小企業の社長」でツボに入った。
男性社員はチーム内の人間や、親しい同僚の時に呼ばれるくらいだからそんなに機会はないが、人当たりの良さが徒となった堀ちゃんが気の毒に思えた。
「まぁ、もし人前式というスタイルが発祥して無ければ、わたしもチャペルだったんだろうとは思いますけど。あ、信仰薄いのに神社でお守り買ったり、七福神参りとか言っちゃってましたね。ミーハーですみません」
「いや、まぁ、誰もそこまで考えて初詣もしてないだろうしね」
「それもそうですね」
堀ちゃんが楽しそうに笑った所でオーダーした食事が来て、その話題は締められてしまった。
30件も出席して結婚の話題にも動じなくなってしまったのか、堀ちゃんは世間話で終わらせてしまった。
もうちょっと違う反応が見たかったのだけど。
和装の花嫁をずいぶんと落ち着いた様子で見ていたので、「教会でドレス派」かと思ってそれとなく尋ねれば━━
「わたし、無神論者なんですよねぇ」
オーダーした食事を待っている間、堀ちゃんはしみじみと言った。
今日の堀ちゃんは朝の天気予報を見て「今日は気温が上がりそうですねぇ」と髪をアップスタイルにしている。
上着を脱ぐと首筋やうなじについ目が行く。
妙なところで春めいてきたと実感した。
「普段信仰もしてないのに突然行って誓われても、神様も困るんじゃないかと思うんですよねぇ。あ、もちろん出席する分には全然気にならないんですよ? 神前式は厳かなのがいいですよね。残すべき日本文化って感じで大切だと思うし、最近のチャペルはすっごくきれいで、ちゃんと盛り上がってるんですよ? でも自分が、となるとなんか違うかなぁ、人前式がベストなのかなぁ、と。親兄弟やら友達に誓った方がよっぽど重いと言うか、こう、後にひけない感がありません?」
━━うん?
なんか結婚に対する熱と言うか、ときめき的な盛り上がりが思った以上に堀ちゃん少ないような。
ていうか、なんかそれものすごい鬼気迫る感じがする気がするんだけど、気のせいか?
結婚式ってそんなシビアに考える物なのか?
みんな軽いノリ、と言っては悪いけど「憧れ」とかで決めるもんじゃないのか?
あとは家のしきたりとか?
うちも特にしきたりはない家だから兄貴の時も、「嫁さんの希望」でチャペルウェディングだったハズ。
え、俺間違ってないよな?
堀ちゃんらしいと言えば、本当に堀ちゃんらしいんだけど。
でもってそう言われたら、それがものすごく自然な気がしてきたんだけど。
「まあ、ゲストに美味しい物を喜んでもらえたらそれでいいんじゃないかと。わたし、30件以上出席したんですけど、結局覚えてるのって食事が美味しかった所なんですよ」
ずいぶんと遠い目をして堀ちゃんは言った。
さん、じゅっけん……?
「最近は親しい人だけでこじんまり、も増えてますけど10年位前って同僚も招待するのが普通だったじゃないですか。あの会社って女の子少ないから、他部署の先輩とか、回転の速い総務の寿退職にも毎回ご招待いただいてたんで。30件を超えてから回数が分からなくなったんですけど、中小企業の社長かって感じですよねぇ。経理課長には『絶対取り戻せないね』って笑われました」
何とも悲惨な話に聞こえたが、「中小企業の社長」でツボに入った。
男性社員はチーム内の人間や、親しい同僚の時に呼ばれるくらいだからそんなに機会はないが、人当たりの良さが徒となった堀ちゃんが気の毒に思えた。
「まぁ、もし人前式というスタイルが発祥して無ければ、わたしもチャペルだったんだろうとは思いますけど。あ、信仰薄いのに神社でお守り買ったり、七福神参りとか言っちゃってましたね。ミーハーですみません」
「いや、まぁ、誰もそこまで考えて初詣もしてないだろうしね」
「それもそうですね」
堀ちゃんが楽しそうに笑った所でオーダーした食事が来て、その話題は締められてしまった。
30件も出席して結婚の話題にも動じなくなってしまったのか、堀ちゃんは世間話で終わらせてしまった。
もうちょっと違う反応が見たかったのだけど。
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