会社一のイケメン王子は立派な独身貴族になりました。(令和ver.)

志野まつこ

文字の大きさ
上 下
38 / 47
第2章 その後のふたり

9、たろさんの「堀ちゃんが想像以上に大物だった」話

しおりを挟む
 以前、堀ちゃんが気になると言っていた古民家カフェは大正末期に作られた建物をリノベーションした物で、それは趣のある店内だった。
 和装の花嫁をずいぶんと落ち着いた様子で見ていたので、「教会でドレス派」かと思ってそれとなく尋ねれば━━

「わたし、無神論者なんですよねぇ」
 オーダーした食事を待っている間、堀ちゃんはしみじみと言った。
 今日の堀ちゃんは朝の天気予報を見て「今日は気温が上がりそうですねぇ」と髪をアップスタイルにしている。
 上着を脱ぐと首筋やうなじについ目が行く。
 妙なところで春めいてきたと実感した。

「普段信仰もしてないのに突然行って誓われても、神様も困るんじゃないかと思うんですよねぇ。あ、もちろん出席する分には全然気にならないんですよ? 神前式は厳かなのがいいですよね。残すべき日本文化って感じで大切だと思うし、最近のチャペルはすっごくきれいで、ちゃんと盛り上がってるんですよ? でも自分が、となるとなんか違うかなぁ、人前式がベストなのかなぁ、と。親兄弟やら友達に誓った方がよっぽど重いと言うか、こう、後にひけない感がありません?」

 ━━うん?
 なんか結婚に対する熱と言うか、ときめき的な盛り上がりが思った以上に堀ちゃん少ないような。
 ていうか、なんかそれものすごい鬼気迫る感じがする気がするんだけど、気のせいか?
 結婚式ってそんなシビアに考える物なのか?
 みんな軽いノリ、と言っては悪いけど「憧れ」とかで決めるもんじゃないのか?
 あとは家のしきたりとか?
 うちも特にしきたりはない家だから兄貴の時も、「嫁さんの希望」でチャペルウェディングだったハズ。
 え、俺間違ってないよな?
 堀ちゃんらしいと言えば、本当に堀ちゃんらしいんだけど。
 でもってそう言われたら、それがものすごく自然な気がしてきたんだけど。

「まあ、ゲストに美味しい物を喜んでもらえたらそれでいいんじゃないかと。わたし、30件以上出席したんですけど、結局覚えてるのって食事が美味しかった所なんですよ」
 ずいぶんと遠い目をして堀ちゃんは言った。
 さん、じゅっけん……?

「最近は親しい人だけでこじんまり、も増えてますけど10年位前って同僚も招待するのが普通だったじゃないですか。あの会社って女の子少ないから、他部署の先輩とか、回転の速い総務の寿退職にも毎回ご招待いただいてたんで。30件を超えてから回数が分からなくなったんですけど、中小企業の社長かって感じですよねぇ。経理課長には『絶対取り戻せないね』って笑われました」
 何とも悲惨な話に聞こえたが、「中小企業の社長」でツボに入った。
 男性社員はチーム内の人間や、親しい同僚の時に呼ばれるくらいだからそんなに機会はないが、人当たりの良さがあだとなった堀ちゃんが気の毒に思えた。

「まぁ、もし人前式というスタイルが発祥して無ければ、わたしもチャペルだったんだろうとは思いますけど。あ、信仰薄いのに神社でお守り買ったり、七福神参りとか言っちゃってましたね。ミーハーですみません」
「いや、まぁ、誰もそこまで考えて初詣もしてないだろうしね」
「それもそうですね」
 堀ちゃんが楽しそうに笑った所でオーダーした食事が来て、その話題は締められてしまった。
 30件も出席して結婚の話題にも動じなくなってしまったのか、堀ちゃんは世間話で終わらせてしまった。
 もうちょっと違う反応が見たかったのだけど。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...