会社一のイケメン王子は立派な独身貴族になりました。(令和ver.)

志野まつこ

文字の大きさ
上 下
37 / 47
第2章 その後のふたり

8、美術館とお茶椀 <前>

しおりを挟む
 結婚式のスタイルについての記述がありますが、批判ではありませんのでなにとぞご了承ください。
********************************************

 目が覚めると目の前にはスリーピングビューティー、首の下には腕。
 うーん、こんなきれいな人が目の前で眠っている事が、いまだにちょっと信じられないなぁ。
 わたし、もう宝くじ当たらないと思う。
 運を全部使い果たした気がする。
 いや、もともと買う方ではないんだけど。

 そしていつの間に腕枕してくれたのか。
 寝る前に外したはずなのに。
 口元が緩んだ。

 ホントに嬉しい。嬉しいけども。
 枕と首の隙間に腕を入れているから負担はないと言うけど、もしそのまま向こう側へ寝返りをうったら肩、ゴキッって言うんじゃ……とか、考えただけでも痛いんですけど。
 わたしも負担をかけまいと無意識に首に力が入っちゃうので、起こさないようにそっと腕を外した。

 こちらの方が布団に余裕があるような気がする。
 たろさんの方を向いて腕を伸ばしてちゃんと布団が掛かっているか確認した。
 少しだけたろさんの方へ布団を寄せると、腕が回される。
 ああ、男の人の腕だなぁ、当然の事なんだけど。
 抱き寄せられつつ、すり寄りつつ、ぎゅーっと、お互いじゃれるように強く抱き締めあって何度か軽く口づけた。

「布団、ギリギリですよね。大きいのに買い替えようかなぁ」
 幸いな事に二人とも寝相がいいし、くっついて寝るので寒いという事もないんだけど。
「堀ちゃん小さいからけっこう平気。もうすぐあったかくなるし、このままでいいんじゃない?」
 シングル布団に大人が二人。
 なんかの歌詞っぽい。
 でもそんな年でもないような気がして。

 年明けに結婚式でブーケを分かち合った彼氏持ちの友達に、機会があってふと聞いてみたら「小さい布団に大の大人が二人ってなんか可愛くない? 今しか出来ないし」と言われた。
 やっぱり?
 わたしもちょっとそう思うんだよね。
 たろさんも問題なさそうだし、それでいいのか。

 今日は市内の小さな美術館で開催中の「地元の工芸作家展」にお出かけ。
 最近では出先で手を繋ぐ事がすっかり当たり前になっていた。
 一人で行こうと思っていたら、たろさんもなぜか興味を示して一緒に行く事に。
 社会に出てから美術館に行った記憶がないそうで、ご相伴にあずかる的な感じらしい。

 本音を言うと美術館は一人で行きたい方なんだけど。
 気に入った物は心行くまで観賞し、気になった作品にまた戻ってうろうろして、と時間をかけてゆっくり見たい。
 そんなわたしを、たろさんは邪魔しなかった。
 わたしの後に付き添い、わたしの先には行かない。
 わたしが次に移れば、一緒に移動する。
 館内に入ってから手は繋いでいないにもかかわらず。
 ふと見終わった作品が気になってちらりと振り返れば、「あれ気になる?」そう言ってくれた。

 やきものは手びねりとろくろの作品。
 県の伝統工芸品である竹細工に、絵画も。
 たろさん自身も楽しんでくれたのか、時間をせかす空気が一切なくて━━ばっちり堪能できました。

 物づくりの会社に入社したくらい、人間が作る物や、作る過程に興味がある。
 現在もその会社に在籍するたろさんも、それは例外ではなかったようで、「作り方」に興味津々だった。
 バリバリの文系なわたしと、理系男子であるたろさんの物の見方は少し違っていて、それも興味深くて。
 美術や工芸に関して専門的な知識もないまま、二人でああだこうだと言いながら館内をそぞろ歩くのは新鮮でとても楽しかった。

「すごいです、たろさん。なんかものすごく堪能出来ちゃいました」
「ああいうのは自分のペースでゆっくり見たいだろうしね。でも俺も思ってた以上に楽しめてびっくりした。堀ちゃんが嫌じゃなかったらまた一緒させて」
 マイナー分野の企画展だと思ったけど、意外と楽しんでいただけたようで何よりです。

 お昼はたろさんの提案で以前「観光客ごっこ」をした温泉地の古民家カフェに。
 コインパークに車停めないといけないから郊外でも良かったんだけど、覚えていてくれたのは嬉しい。

 通りがかった温泉の建物の前で、結婚式の前撮りが行われていた。
 日本最古の温泉で、重要文化財でもある建物。
 そこをバックに撮影できるという事で、和装で撮影したいカップルの人気のスポットなのだ。
「うちの妹も上の神社で神前式だったんですよ。人力車もばっちり乗ってました」
 裏の山の上に神社があって、神前式を行った後、人力車に乗って路面電車まで移動して、復元された蒸気機関車で市内のホテルまで白無垢のまま移動。
 ひそかに人気があるらしい。
 たろさんは意外だったのか少し驚いた顔をした。
「堀川家は神前式?」
「いえいえ、単に妹が白無垢に憧れてたからです」
 父が酔うと面倒なので「二人だけで海外挙式でもいい」と母と弟が言ったくらい、しきたりなどはない。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

処理中です...