30 / 47
第2章 その後のふたり
1、発言を取り消します
しおりを挟む
「相変わらず遅い時間な上に不規則になるから。振り回すのは悪いし」
そう言うたろさんとは平日はほとんど会わないし、お泊りもあまりない。
お互いの週末の出勤状態による。
まぁ、休日はなんとかそれなりに会えているから、ありがたい話だ。
「付き合い始めからいきなり入り浸ってたら、なあなあになるしね。そのまま一日家で過ごすようになるのはまだ早いかな、と思うんだけど」
ロマンチストなのか、それともこっちが年下だから「外でデートしたいんじゃないか」的な事を気にしてくれているのか。
くすぐったい気もするけど、やっぱり嬉しい。
ただ、ふと以前、わたしがあまり会わなくていい方だと言っていたのを気にしているのかと思って聞いてみた事がある。
うちで夕飯を食べていた時の事だ。
「ああ、ごめん。忘れてた。そう言ってたよね。あの会社でそれなりに会えてるから満足してた、かな。俺としてはもうちょっと会いたい気もするけど……月に2,3回会えたら良かったんだっけ?」
そう、珍しく意地悪な笑みを浮かべて言われた。
そんな表情、初めて見るかも。役得だわぁ。
はい、確かにワタクシそういう人でした。
実際たろさんにそう言っちゃってるしね。
「長期出張になると1ヵ月とか会えない可能性がある事を考えると、会えるうちに会っとくという方針に変更しました。さすがに1ヵ月はさみしくなると思いますのでご安心ください」
たろさんに合わせていじけたように返せば、どうやら何かのスイッチを入れてしまったらしい。
その日は「猫かわいがり」の猫の方を、身をもって体験する事になった。
「まぁご不在の間に普段出来ないような事を、しこたま実行する可能性も大いにありますけどね。悲観するよりも有意義に過ごした方が、お互い精神的にもいいと思うんですよね」
たろさんの腕の中でそう宣言すれば、そこからはもっと大変だった。
ぎゅーっと、かなり強く抱きしめられた後、それが緩められるとともにたろさんは大きな吐息を一つ。
そして一言。
「堀ちゃん、最高です」
肩口に顔をうずめられていたので表情は見えなかった。
たろさん、それは言い過ぎだと思います!
あ、ちなみにすべて着衣の状態ですから。
◆◇◆
先日、最近のバレンタイン事情の調査を行うという、なんとも乙女な行為を何年か振りにしてしまった。
悩みに悩んだ末、これまた恐ろしく久し振りにガトーショコラを作り、残業帰りのたろさんに寄ってもらった。
車を停める所がないので渡すだけになったになっちゃったけど。たろさんご飯食べてないしね。
というのもこの所たろさんはお忙しくて、『終わりが読めない』タイプの残業続き。その帰りに寄ってもらうのが申し訳ないくらいだった。
その時たろさんは「角の所に月極めあるよね? あそこ借りようかな、と企んでるんだけど……いいかな?」と、そんな事を言い出した。
確かに近所に月極の駐車場がある。
田舎なので一戸建ての人はみんな家に停められるせいもあって、ほとんど借りられてない。
なぜあそこで月極駐車場をしようと思ったのか、と思った事もある場所だ。
この辺りの相場は月3千円から5千円と言ったところだけど。
「あ、まだ入り浸るつもりはありませんので」
毎月それだけ出費させるのもなぁ、と思っていたらそう言われたので笑ってしまった。
ただでさえ「家での食事代の代わりに」と、外出先の食事代のほとんどをたろさんが出してくれているというのに。
たろさんばかりに負担させるのは心苦しい物があるんだけど━━
ホテル代に比べたら安い物かと思う事にして納得する事にした。
こちらも働いているんだから、デート代などフィフティ&フィフティが理想なわけで、本音を言うとホテル代だって負担したい派である。
友達には「世間一般ではそんなの少数派だけど、あんたらしい」と言われる。
うん、分かってる。
そして仮にわたしが実家暮らしだった場合、たろさんは絶対に出させる人ではないわけで。
それが現在一人暮らし。
行く必要もなかろうという事で、そこは経費ゼロとみなそうではないか。
羞恥心と戦いながら、その辺りを協議する過酷な時間を設けなくていいのは非常に助かった。
その代わり、頑張って美味しい物を作るよう心がけます。
個人の手作り看板の連絡先に問い合わせたら、月極駐車場の隣が持ち主だったそうで、その日から置かせてもらえるようになったらしい。
しかも月5千円だけど、今月は半分終わってるから千円でいいって。
どんな計算方法なんだろう。
あれだけ空いてるから、借りてもらえるだけで嬉しいのかもしれない。
田舎の土地持ちのおばさま、ありがとう。
この辺りのおばちゃんはアバウトで話しやすくてあったかい人が多い。
「ご家族とか友達が来た時に停めてもらっていいから」
そう言ってくれたたろさん。
その見事なまでの配慮に思わずときめいてしまった。
これまでの付き合いを考えると、そういうのは主にわたしがメインだったように思う。
キャラが逆転したようなこの関係は、とても新鮮だったし、なんとも穏やかな安心感を与えてもらえる。
ああ、もう、ほんとに。
たろさんも最高ですよ。
そう言うたろさんとは平日はほとんど会わないし、お泊りもあまりない。
お互いの週末の出勤状態による。
まぁ、休日はなんとかそれなりに会えているから、ありがたい話だ。
「付き合い始めからいきなり入り浸ってたら、なあなあになるしね。そのまま一日家で過ごすようになるのはまだ早いかな、と思うんだけど」
ロマンチストなのか、それともこっちが年下だから「外でデートしたいんじゃないか」的な事を気にしてくれているのか。
くすぐったい気もするけど、やっぱり嬉しい。
ただ、ふと以前、わたしがあまり会わなくていい方だと言っていたのを気にしているのかと思って聞いてみた事がある。
うちで夕飯を食べていた時の事だ。
「ああ、ごめん。忘れてた。そう言ってたよね。あの会社でそれなりに会えてるから満足してた、かな。俺としてはもうちょっと会いたい気もするけど……月に2,3回会えたら良かったんだっけ?」
そう、珍しく意地悪な笑みを浮かべて言われた。
そんな表情、初めて見るかも。役得だわぁ。
はい、確かにワタクシそういう人でした。
実際たろさんにそう言っちゃってるしね。
「長期出張になると1ヵ月とか会えない可能性がある事を考えると、会えるうちに会っとくという方針に変更しました。さすがに1ヵ月はさみしくなると思いますのでご安心ください」
たろさんに合わせていじけたように返せば、どうやら何かのスイッチを入れてしまったらしい。
その日は「猫かわいがり」の猫の方を、身をもって体験する事になった。
「まぁご不在の間に普段出来ないような事を、しこたま実行する可能性も大いにありますけどね。悲観するよりも有意義に過ごした方が、お互い精神的にもいいと思うんですよね」
たろさんの腕の中でそう宣言すれば、そこからはもっと大変だった。
ぎゅーっと、かなり強く抱きしめられた後、それが緩められるとともにたろさんは大きな吐息を一つ。
そして一言。
「堀ちゃん、最高です」
肩口に顔をうずめられていたので表情は見えなかった。
たろさん、それは言い過ぎだと思います!
あ、ちなみにすべて着衣の状態ですから。
◆◇◆
先日、最近のバレンタイン事情の調査を行うという、なんとも乙女な行為を何年か振りにしてしまった。
悩みに悩んだ末、これまた恐ろしく久し振りにガトーショコラを作り、残業帰りのたろさんに寄ってもらった。
車を停める所がないので渡すだけになったになっちゃったけど。たろさんご飯食べてないしね。
というのもこの所たろさんはお忙しくて、『終わりが読めない』タイプの残業続き。その帰りに寄ってもらうのが申し訳ないくらいだった。
その時たろさんは「角の所に月極めあるよね? あそこ借りようかな、と企んでるんだけど……いいかな?」と、そんな事を言い出した。
確かに近所に月極の駐車場がある。
田舎なので一戸建ての人はみんな家に停められるせいもあって、ほとんど借りられてない。
なぜあそこで月極駐車場をしようと思ったのか、と思った事もある場所だ。
この辺りの相場は月3千円から5千円と言ったところだけど。
「あ、まだ入り浸るつもりはありませんので」
毎月それだけ出費させるのもなぁ、と思っていたらそう言われたので笑ってしまった。
ただでさえ「家での食事代の代わりに」と、外出先の食事代のほとんどをたろさんが出してくれているというのに。
たろさんばかりに負担させるのは心苦しい物があるんだけど━━
ホテル代に比べたら安い物かと思う事にして納得する事にした。
こちらも働いているんだから、デート代などフィフティ&フィフティが理想なわけで、本音を言うとホテル代だって負担したい派である。
友達には「世間一般ではそんなの少数派だけど、あんたらしい」と言われる。
うん、分かってる。
そして仮にわたしが実家暮らしだった場合、たろさんは絶対に出させる人ではないわけで。
それが現在一人暮らし。
行く必要もなかろうという事で、そこは経費ゼロとみなそうではないか。
羞恥心と戦いながら、その辺りを協議する過酷な時間を設けなくていいのは非常に助かった。
その代わり、頑張って美味しい物を作るよう心がけます。
個人の手作り看板の連絡先に問い合わせたら、月極駐車場の隣が持ち主だったそうで、その日から置かせてもらえるようになったらしい。
しかも月5千円だけど、今月は半分終わってるから千円でいいって。
どんな計算方法なんだろう。
あれだけ空いてるから、借りてもらえるだけで嬉しいのかもしれない。
田舎の土地持ちのおばさま、ありがとう。
この辺りのおばちゃんはアバウトで話しやすくてあったかい人が多い。
「ご家族とか友達が来た時に停めてもらっていいから」
そう言ってくれたたろさん。
その見事なまでの配慮に思わずときめいてしまった。
これまでの付き合いを考えると、そういうのは主にわたしがメインだったように思う。
キャラが逆転したようなこの関係は、とても新鮮だったし、なんとも穏やかな安心感を与えてもらえる。
ああ、もう、ほんとに。
たろさんも最高ですよ。
10
お気に入りに追加
287
あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる