会社一のイケメン王子は立派な独身貴族になりました。(令和ver.)

志野まつこ

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第1章 はじまるまでの5週間

28、たろさんの「いろいろと言いづらい」話

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「うん、男の嗜みとして一応常備してます。ごめん、気付かなくて」
 本当に、自分を情けなく思う。
  こんな心配を女の子にさせて、しかもあろう事か言わせてしまうとは。

  おまけに付き合って間もない状態であるにもかかわらず、常備してるとか勢いで告白してしまった。
  出張中、コンビニに行った時ふと目について「ああ、要るな」とついで買いした。
  家にはあったがもう古いので使う気にはならず、「そのうち」と考えての購入だったけど。
  さすがに不安になって尋ねた。

「━━ひいた?」
「いえそんな事はない、です。えと、お気遣い? ご、ご準備? 感謝します、みたいな?」
  堀ちゃんは少し笑ってくれたけど、相当緊張していたはずだ。
  それなのに、空気を和らげようとしてくれているのが分かって、ますます申し訳なく思った。

 「ほんとごめん。女の子にこんな事言わせて」
 「こちらこそ、すみません。たろさんがそういうのちゃんとしてくれる人だって分かって、嬉しいというか、安心しました」
  堀ちゃんの声はどんどん小さくなって行く。

 「たろさんこそ、ひきませんでした?」
  吹っ切るように、努めて明る言おうとしていたが分かった。
  あぁ、もう堀ちゃん。
  そんなに恐縮しないでいいから。
  運転中でなければ抱きしめて安心させてあげたいのに。

 「そういうちゃんとしてるとこも、すごいいいなと思う」
  頭に手を乗せれば「ど、ども」と小さな声で頷いた。

  大したものではないから部品は車に載せたままにしようとしたら、「万が一の事があるといけないから」と堀ちゃんが真剣な顔で言うので部屋に上げた。
 「ニュースとかで車上荒らしで個人情報の入ったパソコン盗まれたとか、手形取られたとかあるじゃないですか」
  あぁ、さすが事務職の子は違うなぁ。
  それとも堀ちゃんだからなのか。

 「もし何かあったらたろさんの責任とか、大変なことになっちゃいますし」
  心配されたのが嬉しくて、玄関のカギを後ろ手で締めながら堀ちゃんの額にキスした。
  額にキスしたら、それだけでは足りなくて抱きしめて口づける。
  堀ちゃんも背中に腕を回してくれた。
  それがまた嬉しくて、胸が熱くなる気がした。

 あー、やっとだなぁ。
 こうしてちゃんと彼女を抱きしめるまで随分長かった気がする。
  小さい堀ちゃんが腕を回すと腕の高さがバラバラだった。
  木にしがみついたコアラみたいで可愛い。

  車ではああ言ったものの、抱き合った瞬間そのままなし崩しで彼女を求めたい衝動に駆られる。

 「とりあえず上がりましょう。お風呂沸かします」
  堀ちゃんは簡単に流されてはくれなかった。

  流れでこんな状況になったけど、もう少し先でも良かったというのは本音だ。
  この年でがっついてるとは思われたくないし、余裕を見せたかったというのもあった。
  でも、まぁ。
  堀ちゃんが一人暮らしなので遅かれ早かれ、か。
  現に堀ちゃんに逃げられて非常に残念だと思ってしまっているのだから。
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