会社一のイケメン王子は立派な独身貴族になりました。(令和ver.)

志野まつこ

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第1章 はじまるまでの5週間

25、たろさんの「思い出した」話。

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 大きい荷物だった為か、出てきたのはかなり後になってからだった。
 ロビーに出ると、松下達と楽しそうに話している堀ちゃんを見つけた。

「お待たせ」と声を掛ければ後輩二人は首を傾げるような態度を見せる。
 なにを妙に可愛い仕草をするんだ。
 お前らに言ったんじゃないのは分かるだろうが。

「お疲れ様デス」
 ぎこちなく言った堀ちゃんを、松下がすごい勢いで振り返る。
 首の筋、痛めるぞと言いたくなるくらいの勢いだった。

「え、そうなんスか、堀川さん」
 松下が驚愕の顔で堀ちゃんに尋ねる。
 なんで俺に聞かないんだ、松下。
 ふと堀ちゃんが無自覚年下キラーだった事を思い出す。

「あぁ、うん、まぁ、何と言うか、最近そういう事になった、みたいな?」
 堀ちゃんはこちらを気にしながら、しどろもどろに答えた。
 不必要なまでに困り果てていた。

「じゃ、お疲れさん」
 もうお前ら帰れ。
 言外に促せば、松下がはっとした表情を浮かべる。
「あ、はい、お疲れさまでした。あっ、部品、すみませんがお願いします」
 松下は後輩に顎をしゃくって合図をすると会釈をして踵を返した。
 空気を読める奴で良かった。
 堀ちゃんは二人に「お疲れさまだったねぇ。気をつけてね」と笑顔で手を振っていた。

「すみません、何も考えずにゲート前で待っちゃいました。みんなに知られたくなかったんですね。後で松くんにメールしときましょうか?」
 堀ちゃん、松下のメアド知ってたりするのか。
 しかも「松くん」と来たか。
 さすが年下キラー。

 出張費の申請と受け取りは新人の仕事だ。
 経理から戻った新人は皆心なしか嬉しそうだった。
 出張続きで会社が嫌になる可能性がる若手に、出発前は励まし、帰れば労いの一言があったらしい。 
 さっきみたいなやつか。

 あの頃は今より少し髪は短かった。
 肩の長さの自然な明るさのストレートヘアを前下がりにカットした堀ちゃんは、新入社員には「きれいな経理のお姉さん」と見られていた。
 そう言えば、会社の飲み会で若手に異性関係の話を話を振れば「経理に行くの緊張します。堀川さん、憧れっすね」という奴も少なくなかったな。

 若手の言うのはあくまでも「憧れ」ではあったけど━━あの頃はそう聞いても大した感想は持たなかった。
 他の年長者が「お、お前年上狙いか」なんてからかうのを見ながら、「それなら次から経理への雑用は積極的に若手に任せればいいか、ラク出来るな」なんて思った程度だ。
 あの頃はこんな風に後輩と楽しそうに話す姿を見て複雑になるなんて、思いもしなかった。
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