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第1章 はじまるまでの5週間

23、たろさんの「出張に行く」話

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 火曜になって水曜からの出張が決まった。
 つまり「明日から出張」と言われた。
 この会社は万事そんな調子だ。
 予定なんて立てられてものじゃない。

 出張計画では7日間。
 せっかく正式に付き合う事になったのにこの仕打ち。
 国内だったのがせめてもの救いか。
 海外だと距離的な事で精神的に来る気がした。

 昨日、夕方仕事が終わったらしい堀ちゃんから腕の安否を確認するメールがあった。
 あの時は多少の筋肉痛を感じる程度だったけど、今日は少しだるい気がする。
 筋肉痛が遅れて出るようになった事に軽いショックを受けた。

 堀ちゃんに1週間の出張が決まった旨の連絡を入れると「国内ですか? じゃあ10日ぐらいになりますかねぇ」と笑顔マーク付きで返ってきた。
 ……さすがだ、堀ちゃん。

 火曜の仕事帰り、遅くなったが堀ちゃんのアパートに寄った。
 といっても来客用駐車場も、路駐できる場所もないので堀ちゃんを乗せて、ドライブがてら近くの河川敷公園の駐車場まで行って車内で話した。
 2人分の膝掛持参で来た堀ちゃんに感心してしまう。
 手慣れているのではなく、「かあさん」なんだな、と思ってしまった。
 言わないけど。

 そんな堀ちゃんと、初めてキスが出来た。
 もっと一緒に過ごしたかったが「朝イチの飛行機ですよね?」と言われてしまう。

「明日早いんだから遅くならない方がいいですよ」
 こちらの心配をしてくれているワケだから、複雑な話だ。
 まさかここで堀ちゃんの「かあさん」モードに手を焼く事になろうとは。

 そして仕事や出張に理解があるのはありがたいが、誤魔化しもきかない事に気付かされた。

 7日間の予定は案の定延びて10泊11日になった。
 堀ちゃんに土曜の最終便で帰るとメールをしたら『良ければ空港までお迎え行きますよ?』と言ってくれた。
 催促したつもりはないけど、結果的にそうなってしまったかと反省しつつ、会えるのは嬉しい。
 本当に嬉しい。
 やばい。
 今、絶対人に見られたくない顔になってる。
 自覚はあったが止められないので、口元を無意味に片手で覆った。

 普段、飛行機での移動中は寝て過ごす事が多いが、今日はまったく眠れなかった。
 早く帰るために連日深夜残業したというのに。
 堀ちゃんに会うのがどれだけ楽しみなんだろうと自分でも呆れる。

 堀ちゃんは大抵17時半で終業し、ジムに行ったり、ショッピングモールやスーパーに買い物に行ったりと平日でもちょこちょこ動いているようだった。
 今週からは4月に幼稚園に入園するというさくらちゃんの巾着やランチマットなどの入園用品を縫うのだと言っていた。
 赤ちゃんの世話で裁縫など不可能な妹さんに代わって堀ちゃんが作るらしい。

 趣味などを満喫してくれている方が、こちらとしてはありがたい。
 さみしい思いをさせている、と感じなくて済むから。
 もっとも、あの堀ちゃんがさみしい思いをしてくれるかどうかは甚だ怪しいけれど。 

 到着ゲートを出て、預けた荷物を受け取る為にコンベアーに向かった。
 普段は手荷物で済むサイズだが、今回は部品の持ち帰りがあった。
 一抱えほどの段ボールが1つ。車での迎えは本当にありがたい。

 堀ちゃんは『久々の空港なのでお店見て時間潰してます』と言っていたので連絡する前に見渡してみる。
 この間温泉街でも土産物屋を堪能していたのでそんなに珍しい物はないと思うが、ご当地キャラなど真剣に見ていた堀ちゃんだ。今日も満喫しているような気がした。
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