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第1章 はじまるまでの5週間
22、同僚高田兄さんの「たろちゃんが可愛すぎてつらい」話
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最近、たろちゃんの様子がおかしいと思っていたら案の定だった。
同性から見ても惚れ惚れするような容姿を持つ同級生は、悲しきかな立派な独身貴族になってしまった。
たろちゃんはストイックなプロフェッショナル集団の1課に配属されている。
あまり社交的な方ではなく、いつもまっすぐ前を向いているきれいな顔。
中学・高校と一緒だったから普通にからめるが、他から見ると整い過ぎて無表情に見えるらしい。
そんなたろちゃんを、俺は密かにクールビューティーと呼んでいたりする。
口を開けて笑うと八重歯が見えて可愛かったりするのにもったいない。
飲めばそれなりに饒舌になる男だけど、1課は忙しさのあまり飲み会も少なく、女性社員を誘う事もほとんどない。
他の部署は事務の女の子を呼んだりしているが、1課には女の子に声をかけるようなキャラの社員がいないのも敗因だと思う。
今は退職してしまったが、同期の女の子は6年在籍したうち4年以上たろちゃんをとっつきにくい人間だと思っていたくらいだ。
1課は社内でも高齢の独身者割合が異常に高い部署な気がする。
そんな「最後の大物独身社員」のオーラを纏うたろちゃんが週末は定時ダッシュ、出張をほのめかすと嫌な顔をするようになった。
デートの相手が出来たらしい。
日々多忙なだけの真新しいネタの無い社内で、あのたろちゃんの恋愛ネタ。
うわぁ、これほど美味しいものは無い。
久々に会社が楽しくなってきたんですけど。
月曜、出社すると後輩の若手社員が寄ってきて声を潜めた。
「高田さんってたろ先輩と仲いいですよね?」
何を声を潜める事があるのだろうと思うと、若手はすごい情報を提供してきた。
「昨日、彼女と動物園行ったらたろ先輩見かけたんですけど、きれいな人と一緒に小さい女の子もいたんですよ。たろ先輩って独身でしたよね?」
ちょっと動揺した。
えと、たろちゃんの彼女ってシングルマザーとかなの?
そうか、そういうのも珍しくない時代だよな。
偏見とか持っちゃいけないんだとは思うけど、なんかいろいろ大変そうだな、と思ってしまう。
「たろちゃん、動物園デートしてたってホント?彼女どんな人?」
休憩に行く途中、同じフロアのたろちゃんの横を通る際、軽い調子を装って聞いてみた。
「ちゃちゃっと作った味噌汁がすごい美味かった」
仕事の手を止めずに意外とあっさりと答えられた。
あぁ━━うん。
それはポイント高いね。
最強かも。
でもたろちゃん、味噌汁に陥落?
そんなにイケメンなのに、そんなにチョロかったの?
なんかちょっとショックかも。
「付き合うようになったんだ?」
聞けば、たろちゃんはチラリとこちらを見てから、すぐにディスプレイに視線を戻した。
「まぁ、な」と言いながら。
一瞬。
ほんの一瞬だけ、たろちゃんの美麗な顔が━━ゆるんだ。
ちょっ!
何それ!
なんか恥ずかしいんですけど!
たろちゃんヤバいって、その破壊力。
いい年してこっちが赤面もんなんだけど!
これまで合コンに出ようと、同期の女の子との仲を取り持とうともしても、イマイチ発展しないか、付き合っても短期間で終わっていた。
勤務形態に原因があるのか、たろちゃんに原因があるのかは定かではないが、こんなたろちゃんを見るのは長い付き合いの中でも初めてだ。
そんな、おそらく日々薔薇色なたろちゃんに残念なお知らせがあります。
「ごめん、たろちゃん。やっぱ出張入るかも」
それを聞いたたろちゃんの顔たるや。
俺のせいじゃないからそんなに睨むのはどうかと思う!
その日の夕方。
自動販売機の並ぶ休憩スペースで残業前のひと息をついていると遅れてたろちゃんが現れた。
ふとスマートフォンを見て表情を和らげるクールビューティー。
うっわ! たろちゃん分かりやす!
でもなー、この間は飲んだって言ってたけど、子供置いて飲みに行くような人だったらちょっと、なぁ。
まぁ、親に預けるとか色々あるだろうし、もしかしたら子供可の居酒屋とかかもしれないし。
いやでも子供可の居酒屋でも夜遅くなったりするよなー。
悶々としていると、どうやら難しい顔になっていたらしく、居合わせた隣の課の課長に心配された。
同性から見ても惚れ惚れするような容姿を持つ同級生は、悲しきかな立派な独身貴族になってしまった。
たろちゃんはストイックなプロフェッショナル集団の1課に配属されている。
あまり社交的な方ではなく、いつもまっすぐ前を向いているきれいな顔。
中学・高校と一緒だったから普通にからめるが、他から見ると整い過ぎて無表情に見えるらしい。
そんなたろちゃんを、俺は密かにクールビューティーと呼んでいたりする。
口を開けて笑うと八重歯が見えて可愛かったりするのにもったいない。
飲めばそれなりに饒舌になる男だけど、1課は忙しさのあまり飲み会も少なく、女性社員を誘う事もほとんどない。
他の部署は事務の女の子を呼んだりしているが、1課には女の子に声をかけるようなキャラの社員がいないのも敗因だと思う。
今は退職してしまったが、同期の女の子は6年在籍したうち4年以上たろちゃんをとっつきにくい人間だと思っていたくらいだ。
1課は社内でも高齢の独身者割合が異常に高い部署な気がする。
そんな「最後の大物独身社員」のオーラを纏うたろちゃんが週末は定時ダッシュ、出張をほのめかすと嫌な顔をするようになった。
デートの相手が出来たらしい。
日々多忙なだけの真新しいネタの無い社内で、あのたろちゃんの恋愛ネタ。
うわぁ、これほど美味しいものは無い。
久々に会社が楽しくなってきたんですけど。
月曜、出社すると後輩の若手社員が寄ってきて声を潜めた。
「高田さんってたろ先輩と仲いいですよね?」
何を声を潜める事があるのだろうと思うと、若手はすごい情報を提供してきた。
「昨日、彼女と動物園行ったらたろ先輩見かけたんですけど、きれいな人と一緒に小さい女の子もいたんですよ。たろ先輩って独身でしたよね?」
ちょっと動揺した。
えと、たろちゃんの彼女ってシングルマザーとかなの?
そうか、そういうのも珍しくない時代だよな。
偏見とか持っちゃいけないんだとは思うけど、なんかいろいろ大変そうだな、と思ってしまう。
「たろちゃん、動物園デートしてたってホント?彼女どんな人?」
休憩に行く途中、同じフロアのたろちゃんの横を通る際、軽い調子を装って聞いてみた。
「ちゃちゃっと作った味噌汁がすごい美味かった」
仕事の手を止めずに意外とあっさりと答えられた。
あぁ━━うん。
それはポイント高いね。
最強かも。
でもたろちゃん、味噌汁に陥落?
そんなにイケメンなのに、そんなにチョロかったの?
なんかちょっとショックかも。
「付き合うようになったんだ?」
聞けば、たろちゃんはチラリとこちらを見てから、すぐにディスプレイに視線を戻した。
「まぁ、な」と言いながら。
一瞬。
ほんの一瞬だけ、たろちゃんの美麗な顔が━━ゆるんだ。
ちょっ!
何それ!
なんか恥ずかしいんですけど!
たろちゃんヤバいって、その破壊力。
いい年してこっちが赤面もんなんだけど!
これまで合コンに出ようと、同期の女の子との仲を取り持とうともしても、イマイチ発展しないか、付き合っても短期間で終わっていた。
勤務形態に原因があるのか、たろちゃんに原因があるのかは定かではないが、こんなたろちゃんを見るのは長い付き合いの中でも初めてだ。
そんな、おそらく日々薔薇色なたろちゃんに残念なお知らせがあります。
「ごめん、たろちゃん。やっぱ出張入るかも」
それを聞いたたろちゃんの顔たるや。
俺のせいじゃないからそんなに睨むのはどうかと思う!
その日の夕方。
自動販売機の並ぶ休憩スペースで残業前のひと息をついていると遅れてたろちゃんが現れた。
ふとスマートフォンを見て表情を和らげるクールビューティー。
うっわ! たろちゃん分かりやす!
でもなー、この間は飲んだって言ってたけど、子供置いて飲みに行くような人だったらちょっと、なぁ。
まぁ、親に預けるとか色々あるだろうし、もしかしたら子供可の居酒屋とかかもしれないし。
いやでも子供可の居酒屋でも夜遅くなったりするよなー。
悶々としていると、どうやら難しい顔になっていたらしく、居合わせた隣の課の課長に心配された。
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