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第1章 はじまるまでの5週間
19、3週目 日曜日 <付き合ってないけど、おうちデート?>
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「すみません、思い付きで行動する妹で」
なぜよりにもよってケーキにするかな。
まぁ、たろさんも家に上がるのは緊張するだろうから、良かったっちゃ良かったのかもしれないけど。
「たろさん、ケーキ平気ですか?」
「うん、平気。女の人って男はケーキ食べないと思ってるよね」
たろさんは面白そうに笑った。
いい声だなぁ。
「最近は食べる機会がないからここ数年食べてないけどね」
へ? 数年っ?
え、男の人ってそんなもの?
……たろさん、それは彼女がいない期間と比例したりしますか。
「うち、ここから近いんですけどうちで食べます?」
たろさんの動揺がビシバシ、それはもうはっきりと伝わってきて━━あの、そこまで反応されたらいたたまれないんだけど。
妹め、どこで食べろと!?
わたしがケーキと言えばコーヒーは絶対飲みたい人なの知ってるはずなのに。
「掃除は昨日してるんですけど、ちょこっと隠したいものがるので5分ほどお待ちいただく事になりますが」
冗談めかして言えば、やっとたろさんの緊張が解けた。
いや、まだ13時過ぎですから。
日は高いですし。
そんなに緊張しないでください。
女子ですか。
こっちが恥ずかしくなりますから。
そして箱を開けて思う。
妹よ、3つか。
うん、まぁ食べれるけどさ。
ケーキの箱を開いて「先にどうぞ」と譲り合い、半分ずつ食べて全種類制覇をお願いすればたろさんは驚いてから快諾してくれた。
やった。抹茶のケーキとチーズケーキを選びきれなかったので嬉しい。
「堀ちゃん、上がりこんでなんだけど、こんな簡単に男を家にあげるのはどうかと思うよ?」
コタツでケーキをつついていたら、たろさんはそんなことを言い出した。
「お父さんがいる……」
「おじさん年齢だからね」
30過ぎにしか見えないのに何をおっしゃいますか。
「お父さんついでに言わせてもらうと、この間だってタクシーで乗り合わせとか、下手したら妙なのに家知られちゃったりするんだからさ」
珍しくたろさんの表情が険しい。
本気で心配されている。
なんだかとても申し訳なくて、自分が浅はかだった気がしてきた。
いや、その通りなんだろうけど。
「わたし、たろさんち、だいたい分かってたんですよねー。専務のお宅の町内ですよね。あの頃、駐車券の優先順位つけるんで社員さんの住所チェックしてたんで」
あの会社は飛行機での出張者が多いので、短期出張や営業担当者用に15台分ほど駐車場を借りていた。
部長は手前の方、偉そうな営業のおじさんは奥じゃないと文句言う、とか暗黙のルールがあってやりくりが大変だったのを覚えている。
利用希望者殺到だったので遠い人に優先して渡していた。
「まぁ、一人暮らしし始めてる可能性もあったけど、たろさんなら大丈夫かと。勤め先も知ってますしねぇ」
「もうしちゃダメだよ」
「しませんって」
笑って言ったら、たろさんは「はー」とため息をついた。
「用心深いわりに人を信用してるよね。意味ないから、それ」
「はい、肝に銘じます。たろさんじゃなかったらしません」
じと目で見られた。
そしてもう一度ため息をつかれ、頭に手を乗せられる。
正方形のこたつに正面ではなく、テーブルの角を挟んで隣に座っていたので手は簡単に届いた。
それから今日のカワウソやさくらの話をしていたら日が暮れた。
今日は可愛い系癒し動物しか回らなかったが、「爬虫類系見たかったんじゃない?」と笑顔で言われた。
最近気になるのはフクロウ系です。
日が暮れる前に洗濯物を下ろした。
なんだろう。
たろさんにはその辺、甘えられるなぁ。
「今日のお礼に晩ご飯食べて行かれません? 家にある物で簡単なものしか作れないですけど」
のんびりしてたら中途半端な時間になってしまったのでそう言えば、「堀ちゃん、俺の言ったこと分かってないでしょ」とまたお叱りを受けた。
いやいや、たろさんだからですってば。
女癖やら酒癖やらが悪い人の話はそれとなく入ってくるもんなんだよね、会社って。
そんな中でたろさんのそんな話を聞い覚えはないし、そもそもその気になれば女の子に不自由しないでしょうし。
お礼したくてもたろさんは簡単に受け取ってくれない気がするし、いい方法を思い付いたと思ったんだけど。
たろさんに誰でも家に入れる女だと思われるのはつらい。
あぁ、やっぱり。
そういう事だ。
今日だってそうだ。
昨日、妹に言われて気付いた。
いや、ぐっさり刺されたような気がした。
『お姉ちゃんが断らないんだから、いい人なんでしょ?』
可愛い姪っ子に会わせられないような相手なら、妹に許可を取るまでもなく断ってる。
そういう、事なんだよなぁ。
なぜよりにもよってケーキにするかな。
まぁ、たろさんも家に上がるのは緊張するだろうから、良かったっちゃ良かったのかもしれないけど。
「たろさん、ケーキ平気ですか?」
「うん、平気。女の人って男はケーキ食べないと思ってるよね」
たろさんは面白そうに笑った。
いい声だなぁ。
「最近は食べる機会がないからここ数年食べてないけどね」
へ? 数年っ?
え、男の人ってそんなもの?
……たろさん、それは彼女がいない期間と比例したりしますか。
「うち、ここから近いんですけどうちで食べます?」
たろさんの動揺がビシバシ、それはもうはっきりと伝わってきて━━あの、そこまで反応されたらいたたまれないんだけど。
妹め、どこで食べろと!?
わたしがケーキと言えばコーヒーは絶対飲みたい人なの知ってるはずなのに。
「掃除は昨日してるんですけど、ちょこっと隠したいものがるので5分ほどお待ちいただく事になりますが」
冗談めかして言えば、やっとたろさんの緊張が解けた。
いや、まだ13時過ぎですから。
日は高いですし。
そんなに緊張しないでください。
女子ですか。
こっちが恥ずかしくなりますから。
そして箱を開けて思う。
妹よ、3つか。
うん、まぁ食べれるけどさ。
ケーキの箱を開いて「先にどうぞ」と譲り合い、半分ずつ食べて全種類制覇をお願いすればたろさんは驚いてから快諾してくれた。
やった。抹茶のケーキとチーズケーキを選びきれなかったので嬉しい。
「堀ちゃん、上がりこんでなんだけど、こんな簡単に男を家にあげるのはどうかと思うよ?」
コタツでケーキをつついていたら、たろさんはそんなことを言い出した。
「お父さんがいる……」
「おじさん年齢だからね」
30過ぎにしか見えないのに何をおっしゃいますか。
「お父さんついでに言わせてもらうと、この間だってタクシーで乗り合わせとか、下手したら妙なのに家知られちゃったりするんだからさ」
珍しくたろさんの表情が険しい。
本気で心配されている。
なんだかとても申し訳なくて、自分が浅はかだった気がしてきた。
いや、その通りなんだろうけど。
「わたし、たろさんち、だいたい分かってたんですよねー。専務のお宅の町内ですよね。あの頃、駐車券の優先順位つけるんで社員さんの住所チェックしてたんで」
あの会社は飛行機での出張者が多いので、短期出張や営業担当者用に15台分ほど駐車場を借りていた。
部長は手前の方、偉そうな営業のおじさんは奥じゃないと文句言う、とか暗黙のルールがあってやりくりが大変だったのを覚えている。
利用希望者殺到だったので遠い人に優先して渡していた。
「まぁ、一人暮らしし始めてる可能性もあったけど、たろさんなら大丈夫かと。勤め先も知ってますしねぇ」
「もうしちゃダメだよ」
「しませんって」
笑って言ったら、たろさんは「はー」とため息をついた。
「用心深いわりに人を信用してるよね。意味ないから、それ」
「はい、肝に銘じます。たろさんじゃなかったらしません」
じと目で見られた。
そしてもう一度ため息をつかれ、頭に手を乗せられる。
正方形のこたつに正面ではなく、テーブルの角を挟んで隣に座っていたので手は簡単に届いた。
それから今日のカワウソやさくらの話をしていたら日が暮れた。
今日は可愛い系癒し動物しか回らなかったが、「爬虫類系見たかったんじゃない?」と笑顔で言われた。
最近気になるのはフクロウ系です。
日が暮れる前に洗濯物を下ろした。
なんだろう。
たろさんにはその辺、甘えられるなぁ。
「今日のお礼に晩ご飯食べて行かれません? 家にある物で簡単なものしか作れないですけど」
のんびりしてたら中途半端な時間になってしまったのでそう言えば、「堀ちゃん、俺の言ったこと分かってないでしょ」とまたお叱りを受けた。
いやいや、たろさんだからですってば。
女癖やら酒癖やらが悪い人の話はそれとなく入ってくるもんなんだよね、会社って。
そんな中でたろさんのそんな話を聞い覚えはないし、そもそもその気になれば女の子に不自由しないでしょうし。
お礼したくてもたろさんは簡単に受け取ってくれない気がするし、いい方法を思い付いたと思ったんだけど。
たろさんに誰でも家に入れる女だと思われるのはつらい。
あぁ、やっぱり。
そういう事だ。
今日だってそうだ。
昨日、妹に言われて気付いた。
いや、ぐっさり刺されたような気がした。
『お姉ちゃんが断らないんだから、いい人なんでしょ?』
可愛い姪っ子に会わせられないような相手なら、妹に許可を取るまでもなく断ってる。
そういう、事なんだよなぁ。
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