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第1章 はじまるまでの5週間
15、堀川家次女の「うちのお姉ちゃん」の話。
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「お姉ちゃんっ、そんな出し惜しみしてる年じゃないでしょうがっ」
「声が大きいっ、お母さんに聞こえる」
姉は慌てたが、知った事か。
「交際を前提としたおつきあい」宣言を聞いて、呆れを通り越して説教モードだ。
「で? 今日その彼は? 休みなんでしょ? お誘いなかったの?」
いらいらと聞けば、姉は心もち小さくなった様子で答えた。
「実家に妹が帰ってるからって、明日だけにしてもらったよ? この間の結婚式からずっと一緒だし」
先輩は先輩で自分の時間も要るでしょ、などと言う。
もう嫌だ、この人。
先週、産後まる1ヵ月が経過し、里帰りを終了して旦那と暮らす自宅に戻った。
確かに姉が溺愛する我が娘2人と会う機会は減っただろうけどさ。
実家も、姉の家も、自宅も市内だっつーの。
わたしなんて旦那が交代勤務だから、とちょこちょこ過ぎるほど実家に帰ってるし。
せっかくの誘いを蹴る口実にわたし達を使うな。
姉はしっかり者だ。
社会人になるまでは典型的「野暮ったい真面目メガネのダサ子ちゃん」だったが、コンタクトレンズにし、二十歳になる頃から急にあか抜けてきれいになった。まぁそういう年頃だ。
まじめで、面倒見が良くて、しっかり者。
ご近所の評判もすこぶるいい。
よく世間一般で「挨拶をしてくれるいいお嬢さん」と言われるのは姉のような人の事だと思う。
それなのに30を過ぎても独身。
ここ数年は男の影もない。
ダサ子ちゃんだった頃の感覚が抜けていないのが原因だと思う。
『それ絶対お姉ちゃんに気があるって!』というアプローチでさえ『そんな事ないって』と笑って流す天然っぷり。
無自覚過ぎて相手が『脈無し』と離れて行ったケース、あるだろう。
絶対あるはずだ。
本人は気付いてないんだろうけど。
そんな姉に熱心に言い寄ってくる男が現れたという。
「なに逃げてんの! これ逃がしたらお姉ちゃんもう後がないかもしれないんだよ?」
「ひっど! ていうかこれって言うな。結構な先輩なんだよ。もーいいじゃん、あんたも乳腺炎だって言うし、来てちょうど良かったじゃん」
違和感を感じたのは今朝の事。
なんか胸が痛い。
そう思いながら実家に到着した後、悶絶級の痛みに襲われた。
その後、みるみる熱が上がってダウンした。
授乳中の一番の敵、乳腺炎。
話には聞いていたが、上の子の時はならなかったので調子に乗った。
「乳腺炎みたい」と言えば姉は育児書やらネットやら見まくっていた。
こんな時、姉妹、それも優秀な姉がいてくれるのはありがたい。
「明日、お母さんとみんなで動物園とか言ってなかった?」
赤ちゃんのうちに動物園に行くとアレルギーになりにくい説。
さくらの時も行ったけど、あやめももう2か月なので行こうと思っていたのだ。
天気予報では明日はまさかの小春日和。
春まではお預けかと思っていたけど、絶好のチャンスだと動物園行きを決定したのに。
「今日はこのままここで様子見るわー」
「行く気? 無理しない方がいいんじゃない? せっかく帰ってるんだから、ゆっくりしたら?」
そうしたいのは山々なんだけど……
「えー、動物園って言ったのに……」
長女のさくらがごねた。
ごねたけど、納得して我慢する事にしたらしい。
下の子が生まれて我慢ばかりさせているのが可哀想で、連れて行ってやりたいけど旦那は仕事だから無理だしなぁ。
あぁ、さくらに言っといたのはまずかった。
どうしたものかとこちらもつらくなった所で可愛い姪のそんないじらしい姿にこれまた案の定、姉が動いた。
「明日、わたしと動物見に行く? ママはお胸痛い痛いだもんね。ママの代わりにばぁばがあやちゃん抱っこしてなきゃいけないし、ちーちゃんと二人で行く?」
「え、二人で動物園は無謀だって! ていうか明日はデートなんでしょっ?」
幼児を舐めたら痛い目に遭うから!
「ちょっとドライブがてら遠くの大型ペットショップ行って帰るだけなら大丈夫でしょ。先輩には午後からにしてもらうよう連絡するから」
目を輝かせたさくらに聞こえないよう、姉は声を潜めて顔を寄せてきた。
「予定あったんでしょ、いいって、そこまでしなくっても」
「明日は天気いいし、七福神参りにでも行ってみようか、って言ってただけで何にも決めてないから大丈夫」
━━七福神参り?
「は?何それ」
「知らない? 神社とかお寺とか7か所回って護符集めるの。気になってたんだけど一人で行くきっかけもなくて。88ヵ所詣りは敷居が高すぎるし、7か所制覇って予定があればしばらく行先に困らなくない? ついでにその辺のカフェとか産直寄ってみようか、って言ってたの」
━━さすが。
あんた、さすがだよ。
最近はいい叔母をやってくれてるからすっかり忘れてたよ。
姉の趣味思考がちょっと人とは違っていた事を。
人当たりがよく、一見清楚なお嬢さん風に見える姉を誘ったはいいものの、姉がちょっとだけ独特な人だと知っていつも距離が縮まらないパターン。
というかそれっきりなパターン。
何回か聞いた。
そりゃ動物園の大蛇を肩に巻きつけ体験などというイベントに、喜々として行きたいなどと言うのはまずいだろう。
奇をてらった痛い女子と見られても仕方ないと思う。
姉は、キャラを演じているのではなく、それが素なのだが。
「いい加減、ちょっとはそういうの隠したら? せめて普通の女子的にさぁ」
「隠して窮屈な思いしてまで付き合いたいとは思わないし」
出たよ。
強がりにしか聞こえないけど、姉は本気だ。
「相手に合わせ続けるのって騙してるっぽくない? それに長く付き合うなら始めから素を見せてた方が長続きすると思うんだよねー。素を知ってひかれるなら、ご縁がなかったって事でしょ」
姉よ、始めのうちは隠しといて徐々に出していくという術を知らないのか。
全てにおいて真面目すぎる。
※
一人暮らしをすると言い出した時は家族総出で止めた。
結婚して家を出ていたわたしの所にまで「お姉ちゃんが家を出るって言う」と母から電話があった。
結婚する時のためにお金は貯めときなさい。
女一人は危ないから。
そんな事は、姉は言われなくても分かっていたはずだ。
そして姉が決めた事は最終的に誰も文句は言えないのも、みんな分かっていた。
長い人生、一度くらい一人暮らしをしてみようと思ったのか、このまま家に甘えてはいけないと思ったのか。
聞けば、全部だと言った。
だから言ってやったのだ。
「絶対に家を居心地よくしちゃダメだよ。そのまま満足してお一人様満喫しちゃうから」
姉は笑いながら「了解」と言って家を出た。
後日遊びに行った姉の家は、若い女性の一人暮らしにしてはずいぶんと物が少ない、シンプルなものに仕上がっていた。
カエルグッズなどが溢れていたら散々文句をつけてやろうと思っていたのだが、一応、忠告は受け止めてくれたらしい。
※
「ちょっと電話してくる」と2階のかつてわたし達姉妹の自室だった部屋へ入った。
部屋は姉がいつでも戻って来られるよう、片付けしやすい範囲での物置と化している。
「明日、先輩が動物園付き合ってくれるって言うんだけど、初対面の男の人だし、さくらが無理だよねぇ」
降りてきた姉は、困惑しきった顔だった。
先輩さん、どんだけだよ。そこまで頑張るのか。
「いや、独身男性にも荷が重いっしょ」
「甥っ子がいるから大丈夫とか言ってた。もう何年も行ってなくて、カワウソとカピバラ見たいんだって」
あ、それは本気かもしれない。
カワウソとカピバラは動物園が新しい目玉にしようと、ここ数年で仲間入りした人気の動物だ。
咄嗟にそれが出るとは、先輩さんもちょっと変わった人なのか?
「んー、誠くんと会っても平気だから大丈夫だとは思うけど。てかホントにいいの? 先輩さん」
姉の手前、一応「先輩さん」とさせてもらった。
さくらは人見知りがなく、県外に出ている弟の誠ともすぐに慣れる性質だ。
さくらは大丈夫かもしれないが、先輩さんは無理をしているんじゃないか?
その方が一つの条件を満たせば、さくらは問題ない物と思われた。
「男前?」
「かつて王子と呼ばれ、当時あの会社ではトップクラス。得意先にファンの皆さんがいらっしゃったレベル」
姉はなぜかものすごく困った顔をした。
「なにそれ、超ハイスペックじゃん。じゃあ大丈夫だよ。はじめは緊張するかもしれないけど、さくらはイケメンには愛想いいから。お姉ちゃんが断らないんだから、いい人なんでしょ? 画像ないの?」
少し考えて、「六年くらい前の飲み会の写真なら探せばあるかも」と言うが。
「じゃぁイケメン王子とさくらが一緒にいる写メお願いね」
今現在のイケメンが見たいんだよ。
「声が大きいっ、お母さんに聞こえる」
姉は慌てたが、知った事か。
「交際を前提としたおつきあい」宣言を聞いて、呆れを通り越して説教モードだ。
「で? 今日その彼は? 休みなんでしょ? お誘いなかったの?」
いらいらと聞けば、姉は心もち小さくなった様子で答えた。
「実家に妹が帰ってるからって、明日だけにしてもらったよ? この間の結婚式からずっと一緒だし」
先輩は先輩で自分の時間も要るでしょ、などと言う。
もう嫌だ、この人。
先週、産後まる1ヵ月が経過し、里帰りを終了して旦那と暮らす自宅に戻った。
確かに姉が溺愛する我が娘2人と会う機会は減っただろうけどさ。
実家も、姉の家も、自宅も市内だっつーの。
わたしなんて旦那が交代勤務だから、とちょこちょこ過ぎるほど実家に帰ってるし。
せっかくの誘いを蹴る口実にわたし達を使うな。
姉はしっかり者だ。
社会人になるまでは典型的「野暮ったい真面目メガネのダサ子ちゃん」だったが、コンタクトレンズにし、二十歳になる頃から急にあか抜けてきれいになった。まぁそういう年頃だ。
まじめで、面倒見が良くて、しっかり者。
ご近所の評判もすこぶるいい。
よく世間一般で「挨拶をしてくれるいいお嬢さん」と言われるのは姉のような人の事だと思う。
それなのに30を過ぎても独身。
ここ数年は男の影もない。
ダサ子ちゃんだった頃の感覚が抜けていないのが原因だと思う。
『それ絶対お姉ちゃんに気があるって!』というアプローチでさえ『そんな事ないって』と笑って流す天然っぷり。
無自覚過ぎて相手が『脈無し』と離れて行ったケース、あるだろう。
絶対あるはずだ。
本人は気付いてないんだろうけど。
そんな姉に熱心に言い寄ってくる男が現れたという。
「なに逃げてんの! これ逃がしたらお姉ちゃんもう後がないかもしれないんだよ?」
「ひっど! ていうかこれって言うな。結構な先輩なんだよ。もーいいじゃん、あんたも乳腺炎だって言うし、来てちょうど良かったじゃん」
違和感を感じたのは今朝の事。
なんか胸が痛い。
そう思いながら実家に到着した後、悶絶級の痛みに襲われた。
その後、みるみる熱が上がってダウンした。
授乳中の一番の敵、乳腺炎。
話には聞いていたが、上の子の時はならなかったので調子に乗った。
「乳腺炎みたい」と言えば姉は育児書やらネットやら見まくっていた。
こんな時、姉妹、それも優秀な姉がいてくれるのはありがたい。
「明日、お母さんとみんなで動物園とか言ってなかった?」
赤ちゃんのうちに動物園に行くとアレルギーになりにくい説。
さくらの時も行ったけど、あやめももう2か月なので行こうと思っていたのだ。
天気予報では明日はまさかの小春日和。
春まではお預けかと思っていたけど、絶好のチャンスだと動物園行きを決定したのに。
「今日はこのままここで様子見るわー」
「行く気? 無理しない方がいいんじゃない? せっかく帰ってるんだから、ゆっくりしたら?」
そうしたいのは山々なんだけど……
「えー、動物園って言ったのに……」
長女のさくらがごねた。
ごねたけど、納得して我慢する事にしたらしい。
下の子が生まれて我慢ばかりさせているのが可哀想で、連れて行ってやりたいけど旦那は仕事だから無理だしなぁ。
あぁ、さくらに言っといたのはまずかった。
どうしたものかとこちらもつらくなった所で可愛い姪のそんないじらしい姿にこれまた案の定、姉が動いた。
「明日、わたしと動物見に行く? ママはお胸痛い痛いだもんね。ママの代わりにばぁばがあやちゃん抱っこしてなきゃいけないし、ちーちゃんと二人で行く?」
「え、二人で動物園は無謀だって! ていうか明日はデートなんでしょっ?」
幼児を舐めたら痛い目に遭うから!
「ちょっとドライブがてら遠くの大型ペットショップ行って帰るだけなら大丈夫でしょ。先輩には午後からにしてもらうよう連絡するから」
目を輝かせたさくらに聞こえないよう、姉は声を潜めて顔を寄せてきた。
「予定あったんでしょ、いいって、そこまでしなくっても」
「明日は天気いいし、七福神参りにでも行ってみようか、って言ってただけで何にも決めてないから大丈夫」
━━七福神参り?
「は?何それ」
「知らない? 神社とかお寺とか7か所回って護符集めるの。気になってたんだけど一人で行くきっかけもなくて。88ヵ所詣りは敷居が高すぎるし、7か所制覇って予定があればしばらく行先に困らなくない? ついでにその辺のカフェとか産直寄ってみようか、って言ってたの」
━━さすが。
あんた、さすがだよ。
最近はいい叔母をやってくれてるからすっかり忘れてたよ。
姉の趣味思考がちょっと人とは違っていた事を。
人当たりがよく、一見清楚なお嬢さん風に見える姉を誘ったはいいものの、姉がちょっとだけ独特な人だと知っていつも距離が縮まらないパターン。
というかそれっきりなパターン。
何回か聞いた。
そりゃ動物園の大蛇を肩に巻きつけ体験などというイベントに、喜々として行きたいなどと言うのはまずいだろう。
奇をてらった痛い女子と見られても仕方ないと思う。
姉は、キャラを演じているのではなく、それが素なのだが。
「いい加減、ちょっとはそういうの隠したら? せめて普通の女子的にさぁ」
「隠して窮屈な思いしてまで付き合いたいとは思わないし」
出たよ。
強がりにしか聞こえないけど、姉は本気だ。
「相手に合わせ続けるのって騙してるっぽくない? それに長く付き合うなら始めから素を見せてた方が長続きすると思うんだよねー。素を知ってひかれるなら、ご縁がなかったって事でしょ」
姉よ、始めのうちは隠しといて徐々に出していくという術を知らないのか。
全てにおいて真面目すぎる。
※
一人暮らしをすると言い出した時は家族総出で止めた。
結婚して家を出ていたわたしの所にまで「お姉ちゃんが家を出るって言う」と母から電話があった。
結婚する時のためにお金は貯めときなさい。
女一人は危ないから。
そんな事は、姉は言われなくても分かっていたはずだ。
そして姉が決めた事は最終的に誰も文句は言えないのも、みんな分かっていた。
長い人生、一度くらい一人暮らしをしてみようと思ったのか、このまま家に甘えてはいけないと思ったのか。
聞けば、全部だと言った。
だから言ってやったのだ。
「絶対に家を居心地よくしちゃダメだよ。そのまま満足してお一人様満喫しちゃうから」
姉は笑いながら「了解」と言って家を出た。
後日遊びに行った姉の家は、若い女性の一人暮らしにしてはずいぶんと物が少ない、シンプルなものに仕上がっていた。
カエルグッズなどが溢れていたら散々文句をつけてやろうと思っていたのだが、一応、忠告は受け止めてくれたらしい。
※
「ちょっと電話してくる」と2階のかつてわたし達姉妹の自室だった部屋へ入った。
部屋は姉がいつでも戻って来られるよう、片付けしやすい範囲での物置と化している。
「明日、先輩が動物園付き合ってくれるって言うんだけど、初対面の男の人だし、さくらが無理だよねぇ」
降りてきた姉は、困惑しきった顔だった。
先輩さん、どんだけだよ。そこまで頑張るのか。
「いや、独身男性にも荷が重いっしょ」
「甥っ子がいるから大丈夫とか言ってた。もう何年も行ってなくて、カワウソとカピバラ見たいんだって」
あ、それは本気かもしれない。
カワウソとカピバラは動物園が新しい目玉にしようと、ここ数年で仲間入りした人気の動物だ。
咄嗟にそれが出るとは、先輩さんもちょっと変わった人なのか?
「んー、誠くんと会っても平気だから大丈夫だとは思うけど。てかホントにいいの? 先輩さん」
姉の手前、一応「先輩さん」とさせてもらった。
さくらは人見知りがなく、県外に出ている弟の誠ともすぐに慣れる性質だ。
さくらは大丈夫かもしれないが、先輩さんは無理をしているんじゃないか?
その方が一つの条件を満たせば、さくらは問題ない物と思われた。
「男前?」
「かつて王子と呼ばれ、当時あの会社ではトップクラス。得意先にファンの皆さんがいらっしゃったレベル」
姉はなぜかものすごく困った顔をした。
「なにそれ、超ハイスペックじゃん。じゃあ大丈夫だよ。はじめは緊張するかもしれないけど、さくらはイケメンには愛想いいから。お姉ちゃんが断らないんだから、いい人なんでしょ? 画像ないの?」
少し考えて、「六年くらい前の飲み会の写真なら探せばあるかも」と言うが。
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