13 / 47
第1章 はじまるまでの5週間
13、たろさんの「仲直りの握手」の話
しおりを挟む
日曜の夜だからか土産物店の並ぶ通りも、足湯も空いていた。
土産物店をめぐる堀ちゃんは本当に楽しそうだった。
時々店員に「どちらからですか?」と尋ねられ、「地元なんですよ」と言って話す堀ちゃんの人当たりの良さは相変わらずだった。
和雑貨や焼き物の器を熱心に見て、ご当地キャラクターのグッズも「あー、これかわいいなぁ」と唸る。
女子の「かわいい」は分からない、とは言うが堀ちゃんの趣味はなかなか個性的だった。
だが、堀ちゃんは結局買わずじまいだった。
器の専門店でも渋い焼き物を睨み付けるようにずっと見ていたが、一つ頷くと棚に戻した。
確かに予め「片付けが苦手で家に物を置かないように心掛けてるので、見るだけになっちゃうんですけど、本当にそれでもいいですか?」と確認された。それも二回。
高い棚の物が気になる時は、申し訳なさそうにはにかむようにこちらを見上げて来るのが上目使いになって可愛い。
でもそこに慣れた感もあって少し複雑だった。
身長の低い堀ちゃんなので、高い所の物は取ってもらうという習慣がついているのは仕方ない事なのに。
そして店を出る時も店員に会釈して「ありがとうございました」と言う堀ちゃんは律儀だ。
食事の前に足湯に入った。
この界隈は無料の足湯が何か所か作られており、二人並んで座って足を浸す。
「「あー」」
湯船に浸かった時と同じような声が重なり、これまた二人同時に笑ってしまった。
その反面、ロングスカートを膝まで上げた堀ちゃんの白い足を見て軽く動揺した自分が嫌になる。
「晩ご飯、何にしましょっか。軽食系とお米だとどっちがいいですか?」
観光地なので飲食店は多いので店には困らなかった。
堀ちゃんは古民家カフェと郷土料理の店が気になると言う。
「お昼は何系だったの?」
「和食系です。たろさん今日お米食べました?」
「食べてないけど、昼が和食ならカフェにする? 米にこだわりはないし」
「んーでもそれならお米にしましょうか。男の人は1日1食はお米を食べてるイメージあります。それにわたしお昼に鯛飯と悩みに悩んだんですよね。郷土料理なら鯛飯ありそうだし。食べ過ぎですかねー」
堀ちゃんは照れを隠すように「あはは」と笑いながらもさらっと決めた。
男前だ。
会社でも飲み会の幹事をよくしていた堀ちゃんだ。行き先なども事前にチェックしているらしく、デートプランなんて男の役割をこなしていく。
もっと男を頼ったり、甘えてもいいのに。
そう思いながら、堀ちゃんのそんな様子に今までの男の影を感じてしまって、それは口をついて出た。
「でもカフェも気になるから、また今度行ってみようか」
堀ちゃんは一瞬詰まってから「はぁ」と答えた。
そりゃそうだろうなと思う。
これだけ押されれば戸惑いもするだろう。
食後、昔のお堀を利用した自然豊かな公園に移動すればそこには幻想的な光景が広がっていた。
遊歩道に沿って並べられた色とりどりの提灯は、考えていたよりもずっと凝っている。
提灯と言うよりもランタンのようだ。
「これはすごいですねー」
堀ちゃんも予想以上だったらしく、白い息を吐きながら弾んだ声を上げた。
木に掛かっている灯りを見上げ、歩道沿いに並んだ小さな灯籠を楽し気に覗きこみながら歩く堀ちゃんの背に声をかける。
「堀ちゃん」
「はい?」
子供のように無邪気に振り返った笑顔は年齢よりも幼く見えた。
「仲直りしよう」
堀ちゃんは不思議そうに俺の差し出した左手を見ていた。
土産物店をめぐる堀ちゃんは本当に楽しそうだった。
時々店員に「どちらからですか?」と尋ねられ、「地元なんですよ」と言って話す堀ちゃんの人当たりの良さは相変わらずだった。
和雑貨や焼き物の器を熱心に見て、ご当地キャラクターのグッズも「あー、これかわいいなぁ」と唸る。
女子の「かわいい」は分からない、とは言うが堀ちゃんの趣味はなかなか個性的だった。
だが、堀ちゃんは結局買わずじまいだった。
器の専門店でも渋い焼き物を睨み付けるようにずっと見ていたが、一つ頷くと棚に戻した。
確かに予め「片付けが苦手で家に物を置かないように心掛けてるので、見るだけになっちゃうんですけど、本当にそれでもいいですか?」と確認された。それも二回。
高い棚の物が気になる時は、申し訳なさそうにはにかむようにこちらを見上げて来るのが上目使いになって可愛い。
でもそこに慣れた感もあって少し複雑だった。
身長の低い堀ちゃんなので、高い所の物は取ってもらうという習慣がついているのは仕方ない事なのに。
そして店を出る時も店員に会釈して「ありがとうございました」と言う堀ちゃんは律儀だ。
食事の前に足湯に入った。
この界隈は無料の足湯が何か所か作られており、二人並んで座って足を浸す。
「「あー」」
湯船に浸かった時と同じような声が重なり、これまた二人同時に笑ってしまった。
その反面、ロングスカートを膝まで上げた堀ちゃんの白い足を見て軽く動揺した自分が嫌になる。
「晩ご飯、何にしましょっか。軽食系とお米だとどっちがいいですか?」
観光地なので飲食店は多いので店には困らなかった。
堀ちゃんは古民家カフェと郷土料理の店が気になると言う。
「お昼は何系だったの?」
「和食系です。たろさん今日お米食べました?」
「食べてないけど、昼が和食ならカフェにする? 米にこだわりはないし」
「んーでもそれならお米にしましょうか。男の人は1日1食はお米を食べてるイメージあります。それにわたしお昼に鯛飯と悩みに悩んだんですよね。郷土料理なら鯛飯ありそうだし。食べ過ぎですかねー」
堀ちゃんは照れを隠すように「あはは」と笑いながらもさらっと決めた。
男前だ。
会社でも飲み会の幹事をよくしていた堀ちゃんだ。行き先なども事前にチェックしているらしく、デートプランなんて男の役割をこなしていく。
もっと男を頼ったり、甘えてもいいのに。
そう思いながら、堀ちゃんのそんな様子に今までの男の影を感じてしまって、それは口をついて出た。
「でもカフェも気になるから、また今度行ってみようか」
堀ちゃんは一瞬詰まってから「はぁ」と答えた。
そりゃそうだろうなと思う。
これだけ押されれば戸惑いもするだろう。
食後、昔のお堀を利用した自然豊かな公園に移動すればそこには幻想的な光景が広がっていた。
遊歩道に沿って並べられた色とりどりの提灯は、考えていたよりもずっと凝っている。
提灯と言うよりもランタンのようだ。
「これはすごいですねー」
堀ちゃんも予想以上だったらしく、白い息を吐きながら弾んだ声を上げた。
木に掛かっている灯りを見上げ、歩道沿いに並んだ小さな灯籠を楽し気に覗きこみながら歩く堀ちゃんの背に声をかける。
「堀ちゃん」
「はい?」
子供のように無邪気に振り返った笑顔は年齢よりも幼く見えた。
「仲直りしよう」
堀ちゃんは不思議そうに俺の差し出した左手を見ていた。
10
お気に入りに追加
287
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる