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第1章 はじまるまでの5週間
12、2週目 日曜日 <乗り心地のいい車の中で>
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日曜日の夕方。
たろさんに近所のコンビニまで迎えに来ていただいた。
最近のコンビニは増え過ぎだと思うが、待ち合わせには分かりやすくてありがたい。
現在もあの会社にて現役の明子姉さんは「独身貴族のアラフォーの皆さんは外車とか、高級国産車とか、車に走り始めた」と言っていた。
「あー、そっち行きましたか。お金たまる一方でしょうしねぇ」と笑っちゃったんだけど、たろさんは以前平べったいスポーツカーに乗っていた。
まぁ20代半ばの頃の話だけど。
それを知っていたから相変わらずだったらどうしようと思っていたが、紺色のスタイリッシュな型のコンパクトカーに乗り換えていらっしゃった。
意外と堅実じゃないですか!
大人になりましたねぇ。
最近は若者の車離れとかで車高の低いスポーツカーもずいぶん減ったように思うけど、若い頃は車高が低い車は乗り降りがしにくくて苦手だったんだよね。
そしてこれは偏見で申し訳ないんだけど、そういう車を選ぶ人も、実はちょっと苦手だったりしたんだよなぁ。
━━あぁ、やばい。
何がやばいって、たろさんの運転がやばい。
ビビり屋なわたしは人様の運転する車に乗ると内心大騒ぎな事がある。
自分も運転するから「ひぃ! スレスレ!」とか「車間近くない?」「あの人出てきそうだよ、やっぱり出てきたぁ!」と怖い事がよくあるんだけど、たろさんの運転にはそれがない。
穏やかで、余裕のある運転。
歩行者がいれば徐行&距離を開ける、横断する人がいれば一時停止、車間に余裕があれば他の車を入れてあげるし、入れてもらうとお礼のハザードを点滅させる。
くぅっ。なんて理想的な運転。
これはちょっと……すごいぞ。
大人だなぁ。
いや、まあ自分もいい年なんだけどさ。
「あれから考えてたんだけど、多分あの頃の俺って堀ちゃんにコンプレックス抱いてたんだと思う。堀ちゃんいつもにこにこしてて、誰にでも明るく話せるし。俺人見知りなとこあるから」
車に乗れば、たろさんはそんなことを言い出した。
はぅあ!
もしかして、ずっと気にしてました!?
飲みの席だからと思って言い過ぎた。
昔は思った事をすぐ口にしてはよく後悔した。痛い目も見た。
最近になってようやく落ち着いてきたかと思っていたけど、アルコールが入り、たろさんとの会話が楽しくて口が滑ったか。
「すみません! 考えなしに古い事言っちゃて。楽しくて完全に調子に乗ってました。あまりにもテンションの高い人に引き気味になると言うか、体育会系のノリについていけないと言うか、そんな感じですよね?」
「すごい例えだね」
たろさんは苦笑してくれたが、それでも申し訳ない。
どう考えたって10年以上の前の事を持ち出す方がおかしい。
おそらく、この人はものすごく悩んだはずだ。
「わたしうるさかったですもんねぇ。友達に言わせると『能動的人見知り』だそうで、とりあえず『機嫌とって笑っとけ』みたいなトコあって」
「あれ、人見知りだったの。分かりにくすぎるって」
たろさんは楽しそうに笑って続ける。
「単に俺が勝手に嫉妬してただけだから。こっちこそ、あの頃はごめんね」
「いえ、わたしが悪いので」
恐縮して小さくなるしかないわたしにたろさんは。
「誰にでも人当たりのいい堀ちゃんに嫌われてやさぐれてたんだよ」
笑って頭にぽん、と手を置いてくれた。
なんでそんな風に笑っちゃうかな。
たろさんに近所のコンビニまで迎えに来ていただいた。
最近のコンビニは増え過ぎだと思うが、待ち合わせには分かりやすくてありがたい。
現在もあの会社にて現役の明子姉さんは「独身貴族のアラフォーの皆さんは外車とか、高級国産車とか、車に走り始めた」と言っていた。
「あー、そっち行きましたか。お金たまる一方でしょうしねぇ」と笑っちゃったんだけど、たろさんは以前平べったいスポーツカーに乗っていた。
まぁ20代半ばの頃の話だけど。
それを知っていたから相変わらずだったらどうしようと思っていたが、紺色のスタイリッシュな型のコンパクトカーに乗り換えていらっしゃった。
意外と堅実じゃないですか!
大人になりましたねぇ。
最近は若者の車離れとかで車高の低いスポーツカーもずいぶん減ったように思うけど、若い頃は車高が低い車は乗り降りがしにくくて苦手だったんだよね。
そしてこれは偏見で申し訳ないんだけど、そういう車を選ぶ人も、実はちょっと苦手だったりしたんだよなぁ。
━━あぁ、やばい。
何がやばいって、たろさんの運転がやばい。
ビビり屋なわたしは人様の運転する車に乗ると内心大騒ぎな事がある。
自分も運転するから「ひぃ! スレスレ!」とか「車間近くない?」「あの人出てきそうだよ、やっぱり出てきたぁ!」と怖い事がよくあるんだけど、たろさんの運転にはそれがない。
穏やかで、余裕のある運転。
歩行者がいれば徐行&距離を開ける、横断する人がいれば一時停止、車間に余裕があれば他の車を入れてあげるし、入れてもらうとお礼のハザードを点滅させる。
くぅっ。なんて理想的な運転。
これはちょっと……すごいぞ。
大人だなぁ。
いや、まあ自分もいい年なんだけどさ。
「あれから考えてたんだけど、多分あの頃の俺って堀ちゃんにコンプレックス抱いてたんだと思う。堀ちゃんいつもにこにこしてて、誰にでも明るく話せるし。俺人見知りなとこあるから」
車に乗れば、たろさんはそんなことを言い出した。
はぅあ!
もしかして、ずっと気にしてました!?
飲みの席だからと思って言い過ぎた。
昔は思った事をすぐ口にしてはよく後悔した。痛い目も見た。
最近になってようやく落ち着いてきたかと思っていたけど、アルコールが入り、たろさんとの会話が楽しくて口が滑ったか。
「すみません! 考えなしに古い事言っちゃて。楽しくて完全に調子に乗ってました。あまりにもテンションの高い人に引き気味になると言うか、体育会系のノリについていけないと言うか、そんな感じですよね?」
「すごい例えだね」
たろさんは苦笑してくれたが、それでも申し訳ない。
どう考えたって10年以上の前の事を持ち出す方がおかしい。
おそらく、この人はものすごく悩んだはずだ。
「わたしうるさかったですもんねぇ。友達に言わせると『能動的人見知り』だそうで、とりあえず『機嫌とって笑っとけ』みたいなトコあって」
「あれ、人見知りだったの。分かりにくすぎるって」
たろさんは楽しそうに笑って続ける。
「単に俺が勝手に嫉妬してただけだから。こっちこそ、あの頃はごめんね」
「いえ、わたしが悪いので」
恐縮して小さくなるしかないわたしにたろさんは。
「誰にでも人当たりのいい堀ちゃんに嫌われてやさぐれてたんだよ」
笑って頭にぽん、と手を置いてくれた。
なんでそんな風に笑っちゃうかな。
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