会社一のイケメン王子は立派な独身貴族になりました。(令和ver.)

志野まつこ

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第1章 はじまるまでの5週間

7、たろさんの「お誘い」の話

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 以前会社の経理部にいた堀川ほりかわ 千佳ちかさんは相変わらずだった。

 真面目で、義理堅くて、礼儀正しい。
 案の定お礼のメッセージが届いた。
 以前と違うのは絵文字がない事くらいか。

 きれいに割り勘にしていたら間違いなくそれっきりだった気がする。

 あの時間に迎えに来る男がいないとか、結婚式の後にまっすぐ帰らず一人で飲みに寄るのは彼氏はいないのだろうなと勝手に推測した。

 40前の男からお誘いメールが来ても気持ち悪く思われる気がして、こちらから連絡するのは気が引けた。
 咄嗟に意図してこんな小細工したとバレたら「さすがですね」と呆れられそうだ。
 彼女は俺を遊び人だと思っている節があるので。

 あの晩は数時間飲んだだけだが、妙に居心地のいい時間だった。
 せっかく縁あって再会したのだから、今度こそもう少し親しくしてみたいと━━思ってしまった。

 ※

『山田駅の近くにある焼き鳥屋さんに行ってみませんか。行った事がないのでアタリなのかハズレなのか分からないのですが、前々から気になっていたお店です。土曜の晩でも大丈夫です』

 山田駅ならば俺はバスで、堀ちゃんは電車で集合出来る。帰りも公共の乗り物で帰る事が出来るから、とアプリからメッセージが届いた。
 郊外の駅だ。
 あるのは焼き鳥屋と居酒屋、それに古いスナックくらいしかない。
 ハシゴは考えていない事が明白だった。
 本当に、夕食がてら焼き鳥屋に行って早々に帰る気らしい。

 飲み友達認定されたか。
 しかもあの焼き鳥屋。
 通勤途中の県道沿いにあるので言われてすぐに分かった。

 かなり渋い━━昭和開業であろうくすんだ外観の小さな店。
 堀ちゃん、すごいチョイスで来たな。
 
 カフェ位の方が負担が少ないと考えてもらえるだろうと思った。
 おごってくれは建前で、出来ればこちらが出したい。
 相手はあの堀ちゃんだからかなり難しいだろうけど。

 昼間からの方がゆっくり時間が取れるだろうという目論見があっての日曜の昼狙いだったのだが、そこまで合理的なプランを立てられると異論を唱えるのも不自然過ぎる気がする。
 まぁ土曜の晩に会って、日曜に時間があれば約束を取り付けるという手もあるか。

 こちらも土曜は出勤日だが、前日までに調整して定時退社する。
 かなり骨が折れる事にはなりそうだが。

『仕事とかで都合が悪くなったら遠慮なく言ってくださいね』と気遣ってもらってるのか、その方が好都合とも取れるのかメールでは判断しかねる文面を送られつつ、土曜の晩に焼き鳥屋で話がまとまった。

 聞かれたので土曜は出勤日だと答えれば『19時とか19時半集合の方がバタバタしないし安心じゃないですか?』と言ってもらい、万が一の事を考えて19時にしてもらった。

 退社の際メールをして、17時退社の場合は少し時間を繰り上げで、って━━━
 こんなに至れり尽くせりの約束でいいのか、堀ちゃん。

 社内恋愛の経験はないが、勤務状況を把握している相手だとこうも理解されるものなのか。
 少し感動した。
 うわ、ちょっと手が汗ばんでないか?
 我ながらおかしくなった。

 次の土曜までがやたらと長く感じ、その土曜は気合いと執念で定時退社をもぎ取った。

 堀ちゃんに18時半には行けると連絡したところ『お疲れさまです。山田駅に18時28分着の電車に乗る予定ですが、たろさんはゆっくりで大丈夫ですよー。先に着いたら席取っときます』とすぐに返事があった。

 うん、端々に社会人的業務メールの空気が感じられて仕方ない。
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