会社一のイケメン王子は立派な独身貴族になりました。(令和ver.)

志野まつこ

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第1章 はじまるまでの5週間

4、第1回 無礼講ですよ <下>

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「たろさんが自分で言ったんですよ。わたしが保母さん達との合コンセッティングした時『看護婦さんとか保母さんって多いんだよね』って」
 「俺、そんな事言ったの?」
 「いやぁ、あれは衝撃的すぎて忘れられません。勝ち組怖いわーと」
  動揺した様子のたろさんを肴に、わたしは梅酒のロックを一口いただいた。

 梅酒が美味しくておかわりもらっちゃいますよ。
 これなんて銘柄かなぁ、聞いて帰ろっと。
 あ、ゆず酒無いか聞けばよかった。

「まぁ、たろさんならこれからものすごい年下の奥さんもらっちゃうかもしれませんね」
 幼な妻ですよ、幼な妻。

「って堀ちゃん、俺に彼女もいないって決めつけてるよね」

 ━━!!

「いらっしゃるんですか! それは大変失礼しました」
 確かに! 頭から完っ全に決めつけてしまっていた。
 これは申し訳ない事を。
 わたしと同類にしていい相手じゃなかったのをすっかり失念しておりました。

「いや、まぁいないからいいんだけどね」
 たろさんはグラスを傾けた。
 はいはい、絵になる絵になる。

 なんというか、ずいぶん穏やかになりましたねぇ。
 とても38歳に見えませんよ。
 あの頃とは違った魅力を会得されましたね、たろさん。

 もう王子という感じではない。
 王子が成長すると王様だけど、威厳があるわけではない。
 成熟したいい男。
 うん、それだ。

 1回目の合コン開催でたろさんとプライベートのメールアドレスを交換した。
 盛り上がっての事ではなく、ただ単にお互い幹事だったからだ。

 交換した後、それは出張先からの飛行機予約の連絡に使われた。
 あの頃はまだスマートフォン無かったんだよなー
 メールでやりとりしてたけど、今なら勝手に自分で飛行機予約とかしてくれるんだろうなー

 当時、同期や仲のいい社員さんとの連絡にはプライベートの携帯で予約番号などを連絡していて、その頃から「にっくき佐々木 太郎」は「たろさん」に変わった。
 だって、たろさんからのメールはいつも最後に「たろ」って署名があったんだもん。
 
「会社で社員の結婚に協力みたいな福利厚生はないですか。40前後の独身者かなり多いんじゃないですか?」
「周りを見て安心できるくらいには……ていうか半分はそんな感じかも」

「安心してちゃだめですよ、社長が社内恋愛成就のお手伝いしてくれる会社とかあるって前テレビでやってたんですけど、やるべきですよね」
 会社に行く楽しみも出来るってもんだと思う。

「電話番号、変えた?」
 ふと、たろさんがそんな事を言い出したので正直困った。

 いまさら連絡先交換してもなぁ、というのが正直なところ。
 もうめんどくさいんだよなぁ。
 実りない相手との連絡先交換とか。

 滅多にフレンド登録もしないから使い方分からないし。
 オタオタしちゃってみっともないし。

「変えてないですよ」
 携帯からスマートフォンに変えた時、電話帳データを引き継いで特に整理もしていないから私の電話帳にもたろさんの電話番号は入ったままだ。たろさんもそうなんだろう。
 答えて、けれどそれで終わりにするつもりでスマホは出さなかった。

 それなのに。

「かけてみていい?」
 突然言われ、止める間もなくスマートフォンを出してたろさんは操作してしまう。
 早い。
 さすが普段から使いこなしているだろうビジネスマン。止める間もなかった。
 まぁ「実は番号を変えていた」とかだったら必死で止めはしたけれども。

 バッグの中で私のスマホが一瞬震えて止まる。
 仕方なく画面を確認すれば「たろさん」と表示された着信履歴。

「たろさんも番号変わってないんですね」
 そう言ったら、たろさんは少し驚いた顔をしていた。

「まだ番号残ってたんだ」
 言われて少し呆れる。
 それはお互い様だし、そもそもいきなりかけるなんてチャレンジャーだ。
 一応ナンバーは確かめてからかけましょうよ、と。

「たろさんだってわたしのデータ残ってるじゃないですか。番号とかって付き合ってて別れた、とかじゃないと消さないもんですよねー」

 絶対に連絡を取らないような相手でも、なんとなく消せずにいる。
 万が一連絡があるかもしれないし、消してしまうのはなんだか罪悪感じゃないけど後味が悪いというか。
 縁をぶった切るみたいでしたくない。
 まぁ何年も前に合コンとかで交換しただけの相手とかがふと目につくと消したりはするのだけれど。
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