4 / 47
第1章 はじまるまでの5週間
4、第1回 無礼講ですよ <下>
しおりを挟む
「たろさんが自分で言ったんですよ。わたしが保母さん達との合コンセッティングした時『看護婦さんとか保母さんって多いんだよね』って」
「俺、そんな事言ったの?」
「いやぁ、あれは衝撃的すぎて忘れられません。勝ち組怖いわーと」
動揺した様子のたろさんを肴に、わたしは梅酒のロックを一口いただいた。
梅酒が美味しくておかわりもらっちゃいますよ。
これなんて銘柄かなぁ、聞いて帰ろっと。
あ、ゆず酒無いか聞けばよかった。
「まぁ、たろさんならこれからものすごい年下の奥さんもらっちゃうかもしれませんね」
幼な妻ですよ、幼な妻。
「って堀ちゃん、俺に彼女もいないって決めつけてるよね」
━━!!
「いらっしゃるんですか! それは大変失礼しました」
確かに! 頭から完っ全に決めつけてしまっていた。
これは申し訳ない事を。
わたしと同類にしていい相手じゃなかったのをすっかり失念しておりました。
「いや、まぁいないからいいんだけどね」
たろさんはグラスを傾けた。
はいはい、絵になる絵になる。
なんというか、ずいぶん穏やかになりましたねぇ。
とても38歳に見えませんよ。
あの頃とは違った魅力を会得されましたね、たろさん。
もう王子という感じではない。
王子が成長すると王様だけど、威厳があるわけではない。
成熟したいい男。
うん、それだ。
1回目の合コン開催でたろさんとプライベートのメールアドレスを交換した。
盛り上がっての事ではなく、ただ単にお互い幹事だったからだ。
交換した後、それは出張先からの飛行機予約の連絡に使われた。
あの頃はまだスマートフォン無かったんだよなー
メールでやりとりしてたけど、今なら勝手に自分で飛行機予約とかしてくれるんだろうなー
当時、同期や仲のいい社員さんとの連絡にはプライベートの携帯で予約番号などを連絡していて、その頃から「にっくき佐々木 太郎」は「たろさん」に変わった。
だって、たろさんからのメールはいつも最後に「たろ」って署名があったんだもん。
「会社で社員の結婚に協力みたいな福利厚生はないですか。40前後の独身者かなり多いんじゃないですか?」
「周りを見て安心できるくらいには……ていうか半分はそんな感じかも」
「安心してちゃだめですよ、社長が社内恋愛成就のお手伝いしてくれる会社とかあるって前テレビでやってたんですけど、やるべきですよね」
会社に行く楽しみも出来るってもんだと思う。
「電話番号、変えた?」
ふと、たろさんがそんな事を言い出したので正直困った。
いまさら連絡先交換してもなぁ、というのが正直なところ。
もうめんどくさいんだよなぁ。
実りない相手との連絡先交換とか。
滅多にフレンド登録もしないから使い方分からないし。
オタオタしちゃってみっともないし。
「変えてないですよ」
携帯からスマートフォンに変えた時、電話帳データを引き継いで特に整理もしていないから私の電話帳にもたろさんの電話番号は入ったままだ。たろさんもそうなんだろう。
答えて、けれどそれで終わりにするつもりでスマホは出さなかった。
それなのに。
「かけてみていい?」
突然言われ、止める間もなくスマートフォンを出してたろさんは操作してしまう。
早い。
さすが普段から使いこなしているだろうビジネスマン。止める間もなかった。
まぁ「実は番号を変えていた」とかだったら必死で止めはしたけれども。
バッグの中で私のスマホが一瞬震えて止まる。
仕方なく画面を確認すれば「たろさん」と表示された着信履歴。
「たろさんも番号変わってないんですね」
そう言ったら、たろさんは少し驚いた顔をしていた。
「まだ番号残ってたんだ」
言われて少し呆れる。
それはお互い様だし、そもそもいきなりかけるなんてチャレンジャーだ。
一応ナンバーは確かめてからかけましょうよ、と。
「たろさんだってわたしのデータ残ってるじゃないですか。番号とかって付き合ってて別れた、とかじゃないと消さないもんですよねー」
絶対に連絡を取らないような相手でも、なんとなく消せずにいる。
万が一連絡があるかもしれないし、消してしまうのはなんだか罪悪感じゃないけど後味が悪いというか。
縁をぶった切るみたいでしたくない。
まぁ何年も前に合コンとかで交換しただけの相手とかがふと目につくと消したりはするのだけれど。
「俺、そんな事言ったの?」
「いやぁ、あれは衝撃的すぎて忘れられません。勝ち組怖いわーと」
動揺した様子のたろさんを肴に、わたしは梅酒のロックを一口いただいた。
梅酒が美味しくておかわりもらっちゃいますよ。
これなんて銘柄かなぁ、聞いて帰ろっと。
あ、ゆず酒無いか聞けばよかった。
「まぁ、たろさんならこれからものすごい年下の奥さんもらっちゃうかもしれませんね」
幼な妻ですよ、幼な妻。
「って堀ちゃん、俺に彼女もいないって決めつけてるよね」
━━!!
「いらっしゃるんですか! それは大変失礼しました」
確かに! 頭から完っ全に決めつけてしまっていた。
これは申し訳ない事を。
わたしと同類にしていい相手じゃなかったのをすっかり失念しておりました。
「いや、まぁいないからいいんだけどね」
たろさんはグラスを傾けた。
はいはい、絵になる絵になる。
なんというか、ずいぶん穏やかになりましたねぇ。
とても38歳に見えませんよ。
あの頃とは違った魅力を会得されましたね、たろさん。
もう王子という感じではない。
王子が成長すると王様だけど、威厳があるわけではない。
成熟したいい男。
うん、それだ。
1回目の合コン開催でたろさんとプライベートのメールアドレスを交換した。
盛り上がっての事ではなく、ただ単にお互い幹事だったからだ。
交換した後、それは出張先からの飛行機予約の連絡に使われた。
あの頃はまだスマートフォン無かったんだよなー
メールでやりとりしてたけど、今なら勝手に自分で飛行機予約とかしてくれるんだろうなー
当時、同期や仲のいい社員さんとの連絡にはプライベートの携帯で予約番号などを連絡していて、その頃から「にっくき佐々木 太郎」は「たろさん」に変わった。
だって、たろさんからのメールはいつも最後に「たろ」って署名があったんだもん。
「会社で社員の結婚に協力みたいな福利厚生はないですか。40前後の独身者かなり多いんじゃないですか?」
「周りを見て安心できるくらいには……ていうか半分はそんな感じかも」
「安心してちゃだめですよ、社長が社内恋愛成就のお手伝いしてくれる会社とかあるって前テレビでやってたんですけど、やるべきですよね」
会社に行く楽しみも出来るってもんだと思う。
「電話番号、変えた?」
ふと、たろさんがそんな事を言い出したので正直困った。
いまさら連絡先交換してもなぁ、というのが正直なところ。
もうめんどくさいんだよなぁ。
実りない相手との連絡先交換とか。
滅多にフレンド登録もしないから使い方分からないし。
オタオタしちゃってみっともないし。
「変えてないですよ」
携帯からスマートフォンに変えた時、電話帳データを引き継いで特に整理もしていないから私の電話帳にもたろさんの電話番号は入ったままだ。たろさんもそうなんだろう。
答えて、けれどそれで終わりにするつもりでスマホは出さなかった。
それなのに。
「かけてみていい?」
突然言われ、止める間もなくスマートフォンを出してたろさんは操作してしまう。
早い。
さすが普段から使いこなしているだろうビジネスマン。止める間もなかった。
まぁ「実は番号を変えていた」とかだったら必死で止めはしたけれども。
バッグの中で私のスマホが一瞬震えて止まる。
仕方なく画面を確認すれば「たろさん」と表示された着信履歴。
「たろさんも番号変わってないんですね」
そう言ったら、たろさんは少し驚いた顔をしていた。
「まだ番号残ってたんだ」
言われて少し呆れる。
それはお互い様だし、そもそもいきなりかけるなんてチャレンジャーだ。
一応ナンバーは確かめてからかけましょうよ、と。
「たろさんだってわたしのデータ残ってるじゃないですか。番号とかって付き合ってて別れた、とかじゃないと消さないもんですよねー」
絶対に連絡を取らないような相手でも、なんとなく消せずにいる。
万が一連絡があるかもしれないし、消してしまうのはなんだか罪悪感じゃないけど後味が悪いというか。
縁をぶった切るみたいでしたくない。
まぁ何年も前に合コンとかで交換しただけの相手とかがふと目につくと消したりはするのだけれど。
10
お気に入りに追加
287
あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!
楠ノ木雫
恋愛
貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?
貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。
けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?
※他サイトにも投稿しています。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる