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第1章 はじまるまでの5週間
2、第1回 無礼講ですよ <上>
しおりを挟む6つ年上のたろさんは、社内に佐々木さんが3人いたのでみんな「たろちゃん」呼びだった。
入社当時、わたしはこの王子がとにかく苦手だった。
というか敵対心抱きまくっていた。
わたしは経理部所属で出張精算や飛行機の予約手配をしていたので、他の女子事務員よりは現場の社員さんと関わる事が多かったが、この王子は清算に来ても無言。
ほんとに何も言わないんだよ?
どーかしてるって。
なんだこの男は。
顔がいいからって。
2年ほどはそう思っていた。
言い訳させてもらえるなら、高卒で18で入社したんだよ。
とにかく若かったんだよ。
偉そうな営業さんやきっついお局様に揉まれた新入社員時代、同期で集まればみんなでとにかく毒を吐きまくっていた。
今となってはあのバイタリティ、他の事に使えなかったのかと思わずにはいられない。
さすがに大人になったなぁ。
たろさんは大卒だったから入社3年目の24とか25歳だったはずだ。
うん、まぁ、人によってはそんな男の子もいる年齢かもね、と今なら思える。
モテすぎて高卒の野暮ったい女子と話すのも面倒だったんだろう。
くっきりした顔立ちとちょっと色素の薄い目。
涼やかな目元にスタイルも良かった。
頭が小さくて顎も細い。
当時はどこの出張先に行っても女子社員のファンがいると、同期の男の子から聞いたほどだ。
笑うと八重歯が可愛いと知ったのは、退職する1年くらい前だった。
その王子も38歳か。
少し古いけど「アラフォー」。
……男前は老け込まないんですね。
「結婚式?」
足元に置いていた引き出物の大きな紙袋を席を移ったタイミングでたろさんの奥の壁際に置かせてもらった。
「あぁ、はい」
格好と、ややシンプルに盛った頭からして結婚式のゲストであるのは一目瞭然だった。
いや、引き出物がないとお水のお姉さんに見てもらえるかな?
「ブーケ、取ったの?」
たろさんは恐る恐る聞いてきた。
……そうですね、引き出物の紙袋の大きな口から明らかにブーケがのぞいてますね。
「自ら取りに行ったんじゃないですよ。独身女性が二人しかいなかったので二人分用意されて、名指しで招集されて渡されました」
苦笑しながら言った。
そんな恐々聞かなくても。
ドラマではブーケトスで盛り上がっているのを見るが、県民性なのかこの辺りではブーケトスは昔から遠慮がちにしか行われていない。
皆遠巻きに集まるだけなので、「もっと前に出てくださーい」と司会者が慌てて盛り上げようとするのも良くある光景。
ちょっと場がしらける感もあるので、最近は名指しで渡される事も多い。
しかも今日のように三十路女子しかいないのでは当然の成り行きと言えた。
花は好きだ。
一時はフラワーコーディネーターに転職したくて高額なスクールに通っていた事もある。
あの頃はストレスで壊れかけてたんだと思う。
ただ、花をワイヤーで無茶をするのがわたしの求めているものとはちょっと違うな、と退校したんだけど……
私にとって花とは自然に愛でる物だと痛感した。
あの頃は仕事によるストレスで完全に迷走していたと思う。
花は水に挿しておけばしばらく楽しめるから嬉しい。
家に花があるって女っぷりが上がった感じもするし。
ただ、このブーケの重いこと・・・
重量的な話ではなく「次はあなたの番よ」的な期待と祈りの重さだ。
本当に心からそれを願っていてくれるのは分かるよ。
今日の新婦も無神経に「独身だからブーケあげるね、ふふふ」と渡すような友達ではない。
お守りを渡すようなカンジ?
「たろさんは今日は新年会とかですか?」
「いや、ちょっとふらっと、かな」
そう言えば一人で飲みに行く人もいたなぁ。
最近、周囲が家庭持ちばかりなのでそういう人がいるのを忘れていた。
……まさか、独身貴族か。
王子、そんな気はしてたけど独身貴族になっちゃったのか!
王子だから貴族なのは当たり前か。
いやいや王子様って王族だわ、とか思って危うくツボに入るところだった。
まぁ、わたしも決して人の事を言えたもんじゃないんだけど。
久々の外飲みでちょっとふわふわしてるらしい。
ここは少し気を引き締めてかからねば。
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