2 / 47
第1章 はじまるまでの5週間
2、第1回 無礼講ですよ <上>
しおりを挟む6つ年上のたろさんは、社内に佐々木さんが3人いたのでみんな「たろちゃん」呼びだった。
入社当時、わたしはこの王子がとにかく苦手だった。
というか敵対心抱きまくっていた。
わたしは経理部所属で出張精算や飛行機の予約手配をしていたので、他の女子事務員よりは現場の社員さんと関わる事が多かったが、この王子は清算に来ても無言。
ほんとに何も言わないんだよ?
どーかしてるって。
なんだこの男は。
顔がいいからって。
2年ほどはそう思っていた。
言い訳させてもらえるなら、高卒で18で入社したんだよ。
とにかく若かったんだよ。
偉そうな営業さんやきっついお局様に揉まれた新入社員時代、同期で集まればみんなでとにかく毒を吐きまくっていた。
今となってはあのバイタリティ、他の事に使えなかったのかと思わずにはいられない。
さすがに大人になったなぁ。
たろさんは大卒だったから入社3年目の24とか25歳だったはずだ。
うん、まぁ、人によってはそんな男の子もいる年齢かもね、と今なら思える。
モテすぎて高卒の野暮ったい女子と話すのも面倒だったんだろう。
くっきりした顔立ちとちょっと色素の薄い目。
涼やかな目元にスタイルも良かった。
頭が小さくて顎も細い。
当時はどこの出張先に行っても女子社員のファンがいると、同期の男の子から聞いたほどだ。
笑うと八重歯が可愛いと知ったのは、退職する1年くらい前だった。
その王子も38歳か。
少し古いけど「アラフォー」。
……男前は老け込まないんですね。
「結婚式?」
足元に置いていた引き出物の大きな紙袋を席を移ったタイミングでたろさんの奥の壁際に置かせてもらった。
「あぁ、はい」
格好と、ややシンプルに盛った頭からして結婚式のゲストであるのは一目瞭然だった。
いや、引き出物がないとお水のお姉さんに見てもらえるかな?
「ブーケ、取ったの?」
たろさんは恐る恐る聞いてきた。
……そうですね、引き出物の紙袋の大きな口から明らかにブーケがのぞいてますね。
「自ら取りに行ったんじゃないですよ。独身女性が二人しかいなかったので二人分用意されて、名指しで招集されて渡されました」
苦笑しながら言った。
そんな恐々聞かなくても。
ドラマではブーケトスで盛り上がっているのを見るが、県民性なのかこの辺りではブーケトスは昔から遠慮がちにしか行われていない。
皆遠巻きに集まるだけなので、「もっと前に出てくださーい」と司会者が慌てて盛り上げようとするのも良くある光景。
ちょっと場がしらける感もあるので、最近は名指しで渡される事も多い。
しかも今日のように三十路女子しかいないのでは当然の成り行きと言えた。
花は好きだ。
一時はフラワーコーディネーターに転職したくて高額なスクールに通っていた事もある。
あの頃はストレスで壊れかけてたんだと思う。
ただ、花をワイヤーで無茶をするのがわたしの求めているものとはちょっと違うな、と退校したんだけど……
私にとって花とは自然に愛でる物だと痛感した。
あの頃は仕事によるストレスで完全に迷走していたと思う。
花は水に挿しておけばしばらく楽しめるから嬉しい。
家に花があるって女っぷりが上がった感じもするし。
ただ、このブーケの重いこと・・・
重量的な話ではなく「次はあなたの番よ」的な期待と祈りの重さだ。
本当に心からそれを願っていてくれるのは分かるよ。
今日の新婦も無神経に「独身だからブーケあげるね、ふふふ」と渡すような友達ではない。
お守りを渡すようなカンジ?
「たろさんは今日は新年会とかですか?」
「いや、ちょっとふらっと、かな」
そう言えば一人で飲みに行く人もいたなぁ。
最近、周囲が家庭持ちばかりなのでそういう人がいるのを忘れていた。
……まさか、独身貴族か。
王子、そんな気はしてたけど独身貴族になっちゃったのか!
王子だから貴族なのは当たり前か。
いやいや王子様って王族だわ、とか思って危うくツボに入るところだった。
まぁ、わたしも決して人の事を言えたもんじゃないんだけど。
久々の外飲みでちょっとふわふわしてるらしい。
ここは少し気を引き締めてかからねば。
10
お気に入りに追加
287
あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
蕩ける愛であなたを覆いつくしたい~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されてます~
泉南佳那
恋愛
梶原茉衣 28歳 × 浅野一樹 25歳
最悪の失恋をしたその夜、茉衣を救ってくれたのは、3歳年下の同僚、その端正な容姿で、会社一の人気を誇る浅野一樹だった。
「抱きしめてもいいですか。今それしか、梶原さんを慰める方法が見つからない」
「行くところがなくて困ってるんなら家にきます? 避難所だと思ってくれればいいですよ」
成り行きで彼のマンションにやっかいになることになった茉衣。
徐々に傷ついた心を優しく慰めてくれる彼に惹かれてゆき……
超イケメンの年下同僚に甘く翻弄されるヒロイン。
一緒にドキドキしていただければ、嬉しいです❤️

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる