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第1章 はじまるまでの5週間
1、王子との再会
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おかしい。
わたしは今、かつて王子と呼ばれた先輩と飲んでいる。
どうしてこうなった。
それはアレだ。
「堀ちゃん?」
カウンターの一番奥に掛けた男性に呼ばれて振り返ると━━そこには王子がいたからだ。
※
その日は夕方からの結婚式に出席し、その帰りに何年か振りに馴染みだったバーに寄った。
結婚式は友人32歳と新郎35歳のカップルで、カジュアルなレストランウエディング。
ありきたりなホテルの食事より美味しい。出来たて感が違う。
さすが我が友!
よく分かってらっしゃる!
ゲストとして何件も出席した経験がついに役に立ったね!
出席者はほぼ既婚者ばかりなので初めから二次会開催の予定はなかった。
唯一の独身の女友達は彼氏のお迎えで帰って行った。
今の会社は飲みの習慣がほとんどなく、たまに開催されても二次会などそれこそ望めないような社風なので市内一の繁華街で飲むのは久し振りだ。
よって以前勤めていた機械メーカーの先輩に連れて来てもらって以来、よくお邪魔していたお店に足を運んでみた。
「あれ?」
「こんばんは、お久しぶりです。シゲさんトコの元後輩です」
久々だったけど老舗バーのマスターは顔を覚えてくれていてた。
カラオケがないのでゆっくり話せるし、マスターが魅力的でくつろげる。
カウンターに10席足らずと、8人程度座れるボックス席が1つの小さなお店をマスターが一人で切り盛りしている。
以前よく集まっていたメンバーがいないか少し期待していたけど、残念ながら他のお客さんはカウンターの一番の奥の壁際に男性が一人。
座っているのにやたらスタイルがいいように見えた。
気楽に飲みたい。
もし男前だったら妙に緊張してしまうので、顔を見る前に離れた席に座った。
「堀ちゃん?」
きゃっきゃ、うふふとまでは言わないけど、マスターと上機嫌で昔の話に花を咲かせているとふと、横から声がかかった。
━━はい、堀川ですが。
振り向けば、奥に座っていた男性が驚いたようにこちらを見ていた。
すらっとした体型の、涼しい顔立ち。
整った鼻梁とか、切れ長の目とか、よく目にするイケメンを表わす表現の全てがあてはめられるような、そんな顔立ち。
おぉ、王子だ。
わたしは、この王子を知っていた。
「うわっ、たろさんじゃないですか。全然気がつきませんでした」
この王子、名を佐々木 太郎という。
なかなか古風で昨今ではあまり目にしないある種、個性的なお名前だけど8年前に退職した会社の男前ナンバーワンだった。
ちょっとした緊張が走る。
「お久しぶりです」
軽く頭を下げたそこへ常連さんらしき団体客が入ってきた。
と言っても小さなこのお店の常連さんなので5、6人の男性グループ。
彼等は迷わずボックス席へ収まり、続いて壮年カップルが入店した。
「良かったら、こっち座る?」
混み合ってきた店内の様子に、たろさんは隣の椅子を視線で示す。
相変わらず何かと気遣い上手な人だよ。
混んできたし、後ろは男性だけのグループだから女一人で飲んでるのもちょっと落ち着かない。
せっかく前の会社の同僚に会えたんだから、とは思うんだけど……
うぅ、凡庸な私がこんな男前の横に座るのはちょっとだけ気が引ける。
まぁ、時間が経ってかなりヨレてきたとは言え、美容院でヘアメイクしておめかししてるっちゃしてる。
まだマシってもんか。
わたしは今、かつて王子と呼ばれた先輩と飲んでいる。
どうしてこうなった。
それはアレだ。
「堀ちゃん?」
カウンターの一番奥に掛けた男性に呼ばれて振り返ると━━そこには王子がいたからだ。
※
その日は夕方からの結婚式に出席し、その帰りに何年か振りに馴染みだったバーに寄った。
結婚式は友人32歳と新郎35歳のカップルで、カジュアルなレストランウエディング。
ありきたりなホテルの食事より美味しい。出来たて感が違う。
さすが我が友!
よく分かってらっしゃる!
ゲストとして何件も出席した経験がついに役に立ったね!
出席者はほぼ既婚者ばかりなので初めから二次会開催の予定はなかった。
唯一の独身の女友達は彼氏のお迎えで帰って行った。
今の会社は飲みの習慣がほとんどなく、たまに開催されても二次会などそれこそ望めないような社風なので市内一の繁華街で飲むのは久し振りだ。
よって以前勤めていた機械メーカーの先輩に連れて来てもらって以来、よくお邪魔していたお店に足を運んでみた。
「あれ?」
「こんばんは、お久しぶりです。シゲさんトコの元後輩です」
久々だったけど老舗バーのマスターは顔を覚えてくれていてた。
カラオケがないのでゆっくり話せるし、マスターが魅力的でくつろげる。
カウンターに10席足らずと、8人程度座れるボックス席が1つの小さなお店をマスターが一人で切り盛りしている。
以前よく集まっていたメンバーがいないか少し期待していたけど、残念ながら他のお客さんはカウンターの一番の奥の壁際に男性が一人。
座っているのにやたらスタイルがいいように見えた。
気楽に飲みたい。
もし男前だったら妙に緊張してしまうので、顔を見る前に離れた席に座った。
「堀ちゃん?」
きゃっきゃ、うふふとまでは言わないけど、マスターと上機嫌で昔の話に花を咲かせているとふと、横から声がかかった。
━━はい、堀川ですが。
振り向けば、奥に座っていた男性が驚いたようにこちらを見ていた。
すらっとした体型の、涼しい顔立ち。
整った鼻梁とか、切れ長の目とか、よく目にするイケメンを表わす表現の全てがあてはめられるような、そんな顔立ち。
おぉ、王子だ。
わたしは、この王子を知っていた。
「うわっ、たろさんじゃないですか。全然気がつきませんでした」
この王子、名を佐々木 太郎という。
なかなか古風で昨今ではあまり目にしないある種、個性的なお名前だけど8年前に退職した会社の男前ナンバーワンだった。
ちょっとした緊張が走る。
「お久しぶりです」
軽く頭を下げたそこへ常連さんらしき団体客が入ってきた。
と言っても小さなこのお店の常連さんなので5、6人の男性グループ。
彼等は迷わずボックス席へ収まり、続いて壮年カップルが入店した。
「良かったら、こっち座る?」
混み合ってきた店内の様子に、たろさんは隣の椅子を視線で示す。
相変わらず何かと気遣い上手な人だよ。
混んできたし、後ろは男性だけのグループだから女一人で飲んでるのもちょっと落ち着かない。
せっかく前の会社の同僚に会えたんだから、とは思うんだけど……
うぅ、凡庸な私がこんな男前の横に座るのはちょっとだけ気が引ける。
まぁ、時間が経ってかなりヨレてきたとは言え、美容院でヘアメイクしておめかししてるっちゃしてる。
まだマシってもんか。
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